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第71話 消えてもなお

お待たせ致しましたー

 柘榴(ざくろ)は倒した男の最期を見届けても、何故か虚しい感情しか出てこなかった。気に食わないとか、憎いなどの感情が渦巻いていたはずなのに。跳びかかって足止めしてくれていた笑理(えみり)が彼に見せた涙の姿が。絵に飛び込んだ途端、あの男も憐れな存在の一部だと本能で理解したのか。


 あとで受け入れた笑理の事情も含めれば、あの男も実は同じような生き方をしてきたのだろう。犯罪をするしか生き方を見出せなかった憐れな道筋しかなかったのだと。


『阿呆』と彼女は言っていたのだ。砂粒となった男の成れの果てを見続けたまま、笑理は静かに泣いていた。おそらく、自分も殺されかけたとしても一定以上の感情は抱いていたのかもしれない。


『恋』や『愛』とかの単純な言葉では語れないものだろう。犯罪者の生き方しかしてこなかった、何かしらの繋がりなのかを笑理が語ってくれるかはわからないが。少なくとも、哀しみを今感じているかもしれない。夜光(やこう)が人間体のままで近寄り、抱き締めはしなかったが肩を叩いてやっていた。


 これからのふたりが、どのような関係になるかはともかく。師弟となる新たな繋がりを思うと、素直に喜べない。笑理はある意味で拠り所のひとつを喪ったのだから、夜光が支えとなれるかは柘榴には想定出来ないのだ。


 柘榴の生き方が、これから変わったとしても。黄泉返りの先に、まだ何があるかは分からないのだ。それに、不知火(しらぬい)が今仕掛けている方がどうなっているのか。肉体は一応意識を保っているようだが、呉羽(くれは)といっしょに支えていても不安定な状態。


 魔力だけでなく、神の力に等しい能力を駆使するのに。この肉体を完全に離れると、『保険』が残らないためだとか。完全に不老不死ではないのと、根底なところは『素材』でしかないため。誓約のようなものが障害となっている。なので、意識を完全に切り離すときは『睡眠』で誤魔化しているが、今回は同時進行しなくてはならないのでこんなハンデが必要らしい。


 子孫の柘榴が間接的に魔力を流している状態なので、肉体の崩壊はないが。どれくらいの時間維持できるかは自信がない。不知火が跳んでいるところも、亜空間なので時間流は一定ではないものの。狭間と同じか定かでないのだ。出来れば早いのが嬉しいけれど、『壊滅』という犯罪行為に等しい行動をしているのだ。


 確実でなくてはいけないし、不知火の性格上『徹底的』に仕出かすだろうから。呉羽も理解してくれているので、一生懸命に支えてくれている。体型が変わっても腕力はほぼそのままなのか、なんとか支えられているようだが。



「おっも!? 石が本体だからか、おっも!? ザクロっちも今こんなんなん!?」

「わ……か、んな。つか、誰か……気づいて!」



 結局はひ弱な女子高生ふたりで成人男性でも巨体の人間を支えるのは非常に難しい状況。頼りたい(いずる)とかは浅葱(あさぎ)らを呼んでいるのか、今こちらに来てくれない。夜光は笑理にかかりきりだし、あとは、と思っていると。



「手伝います」



 手が空いたのか、陸翔(りくと)が手を差し伸べてくれた。ほとんど、元の肉体に戻れたことで腕力も格段に上がったのか。女の子ふたりで支えていた不知火を、軽々と受け止めてくれたのだ。当然、恋人となれた呉羽が惚れ直さないわけがない。



「ショーゴっち、かっこいい~~!!」

「いえいえ。事情はなんとなく察してますが、不知火様がなにか刻牙(こくが)へ仕掛けてくれているんですか?」

「……うん。くれちゃんから、紅霊石(こうりょうせき)はもう摘出してあるの。それを使って、おじいちゃんはあたしの魔法と併せて……大きな爆弾を、あいつらに輸送してるはず」



 最低、十分程度は経過していてもあちらではどうなっているのか。夜光も貫も特に反応がないので、まだなのかもしれない。何か出来ないか焦りが出てしまうけれど、こちらにこれ以上被害が出てしまうともっと大変だ。


 柘榴は、陸翔に不知火を預けて貫に事情を説明するのに駆け寄ることにした。



「? どした?」



 少し、安心したい気持ちも出てきたのか、飛びつく勢いで懐に入ったが。ちょうど連絡が終わった彼は柘榴の行動にもそこまで驚かずに、手を広げて抱きとめてくれた。甘い雰囲気でないのは察してくれたようで、すぐに聞く姿勢になってくれたからか。


 柘榴もすぐに、事情を説明することにした。



「おじいちゃんが、今刻牙の本部に『どでかい爆弾』を運んでるの。こっちへ、まだなにかあいつらが仕掛けてくるかわかんないわ。浅葱さんたちは、今どうしてるの?」

「……なるほど。ただ寝てんじゃねぇのは、そのためか。流れ人の始祖なら、離脱の能力くらいあって不思議じゃねぇ。そんな計画、言ってくれも難しいな? あの人なら、ドッキリレベルで仕出かしてんだろ? 浅葱さんらは、まだ刻牙の本部突き留めてねぇんだが……不知火さん、まだ意識完全に切り離してねぇのか?」

「う、うん。一応、なんとか繋げてはいるみたい」

「だったら、簡潔的に情報共有できるようにしようぜ。うちの課も総動員で動けてるから、一部だけでも派遣した方がいい。お前の親父さんのように、巻き込まれて素体にされてる連中がひとりなわけがない」

「! うん! おじいちゃん!!」



 ふたりで不知火らの方に戻り、意識を切り替え出来た夜光らとも打ち合わせれば。夜光の魔法で不知火の意識の均衡は、一応の保護が可能となった。



「せやな? ワレ、とのリンク……あの坊主に繋げればええか? そんくらい浮かばなあかんのに、ドッキリやあかんか~」

「……あんただけの問題じゃねぇんだから、協力要請くらいいくらでも使ってくれ」

「おん。んだったら、助手の仕事として笑理使おうか? 夜光もその方が、ええんとちゃう?」

「わっち、を?」

「ふむ。情報の束を考えれば、笑理くんの方が圧倒的に多い。そこをリンクさせて、浅葱くんらへの術式に組み込めば……狭間の結界ともリンク可能となるだろう。であれば、笑理くん? 助手としての第一依頼だ。どうかな?」

「! 了解やで!!」



 次の手順が整い次第、笑理はすぐに現世へと向かい。貫としては突撃したかったところだが、これ以上手薄にするわけにもいかないため。飛び出した笑理以外は、狭間の『永遠(とわ)』の中で待機となったのだ。

次回はまた明日〜

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