第70話 どこまでも歪んでいるのは
お待たせ致しましたー
気に食わない。
手に入らないものは、壊せばいい。手に入れたいのならば、奪い尽くせばいい。それが当然だった。当たり前にしてきたことだから、否定するつもりはない。今更、改心したところで時すでに遅しというものだ。
(……なのに!? なんで……なん、すか!!?)
思い通りにいかないのは、あの時だったのか。素材にすべく数年かけて育ててきた計画を完了させただけだったが。殺して素材に変換させ、本部に持ち帰ろうとすれば終わり。そのはずだったのに。
(……なん……!?)
倒れた素材のそれの腕を掴もうとした途端。その身体が瞬時に溶けて消えていく。
刻牙の結界内で、それを可能とする術士はここにはいない。己を除いては。しかし、己はそれを行使していないしする必要もなかった。なら、する意味がある術士となれば。
かつての裏切り者で、狭間の管理者とやらに成り下がった元怨霊であり、神の一端を取り込んだ血族。あの愚か者が割り込んできたのか。だとしたら、変換の先を取られる前に追わねばとすぐに対処しようとしても。
それも既に時遅し。
天敵の心霊課のガキに保護されていたのに加え、裏切り者は素材を囲んでいた。利用するためか、ただの贖罪のためか。刻牙が求めてやまない逃走者の不知火を誘き寄せるための手段に、子孫を利用しただけが。
逆に、こちらを追い詰めるきっかけを作ってしまった。
興味があって、利用するために加入しただけなのに。幹部にまで上り詰めたのも好き勝手に犯罪が出来るし、生き続ける改造をされても罪の意識など一切なかったが。
『壊れる』。その危機感を得た今、生き続けて初めて『悔しさ』を覚えていた。
綺麗事だけで、生き永らえることが出来る世の中でないのは思い知ってきた蓮なのに。掴み損ねた素材は、それをいとも容易く成し遂げていくのだ。
裏切り者を軸にして、魔法を駆使し。
流れ人の始祖をも呼び起こして、協力支援を受けていやがる。
心霊課のガキに関しては、心とやらを交わしたのか相当の加護を与えていた。己の術では到底貫けない強力なものを。この短期間で、狭間という亜空間の中で過ごしてきたにしては成長が速い。速過ぎて、焦りが顔に出ていないか気にするほどだ。
(……うぜぇ……!!)
態と、希薄な態度を見せて感情も何もかも取り繕ってはいたのだが。死を目前にしていることより、思い通りにいかない苛立ちの方が勝ってきた、何万年ぶりの、その強欲に近い感情が湧き上がってきたそれは、こだわってきたモノらを捨て去ることにした。
冥府に逝く方がもっと面倒なことは目に見えている。ならば、砕けてもいいからあの素材を奪うまでだ。刻牙などもうどうだっていい。あの愚かな教祖に近い者の野望なども叶わなくていいのだ。
ただただ、存在し続けるための欲を止められないのなら、何もかも奪い尽くしたあとで考えればいいのだから。肉体を変形させて、ガキらの隙を縫って腕を伸ばしたのだが。
あの素材は、守護の魔法に特化したのか、結界だけで攻撃を弾いたのだ。
「あんたに、もうあっさり殺されないんだから!」
意志の強い、赤の瞳。
奪いたい紅霊石そのものの証なのに。何故、手にすることが出来ないことへの苛立ちがまた湧き出てくるが。片隅に、これまた初めて諦めのような感情が浮かんでもいた。
(あ~……ここで、終わりかよ)
罪をやり尽くしてきた業のそれなのか。
単純に、もう疲れていたのか。
取り逃がした元同僚とやらが、トンファーに変化させた武器を喉に突き付けてきた時には。蝕んでいた夜光の力のこともあり、肉体の制御が聞かなくなっていた。
刑事になったガキに捕縛されたときにはもう、死とかなにもかもどうでもよくなっていたのだから。単純に、疲れたのだ。強欲の先も、偽り続けていることも。
自覚したときには、肉体の限界がそこまできていたのだろう。笑理が珍しく驚愕の表情を見せていたときには、肉体が骨の髄あたりから崩れ始めていたのだった。
「……あほんだら」
「……お互い、さまっす」
キメラの末路から、脱した笑理。彼女も罪は多いが、狭間での生き方を見出したのなら永久に近い清算活動をしていく。それでいいのなら、そんな生き方もいいのだなと。
初めて、羨望を抱く。
気づいたら、魂はガキに捕獲されていて宿っていた肉体は完全に砂粒と化す。魂が送迎されるかと思い、錠の中でおとなしくいていたのだが。
「ワレぇ? 柘榴を殺した罪ぃ、もうちょい使わせてもらうで?」
直接手を下したわけではないが、不知火が怒りを露わに告げてきた瞬間。そこから抜き取られ、なにかに吸収される感覚があった。意識が落ち着いたら、奴の分霊体とともに刻牙の最深部とやらに到着していたのだ。
ここで、まさか。
あの愚かな始祖とともに、破壊されるのか。
正直言って、胸糞悪い事案でしかないが魂魄なのと不知火の拘束もあるため、抵抗する手段がない。おとなしく、成り行きを見ているしかなかったのだった。
次回はまた明日〜




