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第69話 正体を知り過ぎて大混乱したものの

お待たせ致しましたー

 陸翔(りくと)の躊躇いと、呉羽(くれは)の前世の情報などが一気に打ち明けられたことで戸惑いなどはあったものの。柘榴(ざくろ)(いずる)とのことも大いに応援してもらった恩もあるため、これは素直に受け止めることにした。そうしておかないと、今後の展開で予想だにしないことへの耐性がつきそうにない。


 摩訶不思議な展開が多いのだから、今更驚き過ぎもおかしいだろうが。やはり、まだ自分自身のことも含めて他人事に思う癖があるせいか。貫と恋人になれても、ふわふわした掴みどころのない夢心地が余韻のように続いているせいも大きい。


 とにかく、心配はしていたこちら側も『円満』になれたのであれば。素直に祝おうとしたのだが。



「せやったら、事実上の助手はわっちになるんやな!!」



 しばらく、沈黙を保っていた笑理(えみり)が歓喜の声を上げたことでムードなどはぶち壊されてしまうけれど。それはその通りだと、ほとんどの者が納得したのだ。これで陸翔が呉羽と生きる道を選んだのだから、黄泉返りなどが執行されれば狭間に常駐は出来ない。生き返っても、関係者なので行き来くらいはなんとかなるにしても『住み込み』は不可能となるそうだ。


 とくれば、常駐スタッフはキメラなのと不死に近い寿命を持つ彼女しか候補はいないのだ。柘榴も貫との未来をこれで選んだので、残ることは出来ない。


 そのため、必然的に夜光(やこう)の部下に志願してまで組織を脱走してきたこの個性派な女性に頼むしかないのだ。陸翔はもとからそのつもりだったのか、呉羽に断りを入れてから彼女の前で深く、腰を折ったのだ。



「僕も出来るだけ、引継ぎの指導は惜しまないつもりです。永遠(とわ)の存続のためにも、よろしくお願いします」

「おん。そないな展開になったら、先輩の門出祝う感情くらいは持ち合わせとるで? うちに実質的な『死』はもうあらへんから、気にせんとき」

「恩に着ます……」

「うむ。これで、陸翔くんの後任は正式に決まったね? とくれば、不知火(しらぬい)殿?」

「お~~! 準備は万全やで! あいつらぶっつぶしたら、閻魔の正式な辞令もろてきて柘榴らは黄泉返りさせたる!! とくれば」



 と、何も持っていないのに不知火は窓目掛けて投げる動作をした。何事かと思ったが、ほぼ同時に窓の外で爆音が聞こえてきたのだ。貫と陸翔はすぐに飛び出し、笑理も武器を持って柘榴と呉羽の前に立ってくれた。


 不知火は背後に立っていて、ケタケタと笑っていたので意味が分からない。それを補足してくれたのは、人間体に変身していた夜光だ。



「さて。そのお楽しみを台無しにされないように、我々も盛大にお迎えしようではないかな? 店の損害賠償の請求は、今回閻魔庁でいいだろうしね?」

「ちげぇねぇ! ワレぇの加減した術でも、ほとんど堪えていないようやしなあ?」



 補足説明が色々欲しいところだが、緊迫感と会話の流れで少し理解することは出来た。それと、微かだった殺気が外に出たふたりが応戦しているのか爆発したのが伝わってくる。覚えのあるその気配に、柘榴も一瞬同じくらいに殺意を抱いてしまったが。貫の存在がたしかなこともあったお陰で、冷静な思考を取り戻すことが出来た。



「……あいつらを止めるんだね」



 刻牙(こくが)の野望の全体については、まだ説明は受けてない部分は多くとも。極悪犯罪者集団には変わりない。稀少な宝石の『素材』を生み出しては、利用して利用するのみ。その最終目的は壮大なものであろうと、きっと碌でもない事態でしかないと思っている。


 未来を喪った多くの死者のためにも、柘榴も後方支援として魔法を展開することにした。急だが、不知火にも少し教わった紅霊石(こうりょうせき)の使い方の一つ。『守護』『破邪』『昇華』の中でも。


 支援魔法として、石を吐息で精製してから貫らを護るために『守護』『破邪』を練り込んだ結界を展開した。彼らには身体が光った程度にしか見えないだろうが、耳に届いた呻き声には効果があったようだ。



『あ゛!? なんで、この前よりも……いいもんもらってんすか!?』



 濁声だったが、あの男だった。なにか大きな変化があったにしても、あいつに貫たちを殺させるつもりはない。柘榴は、直接の攻撃手段を持たないために今はこの程度しか出来ないが。



【いいぞ、柘榴? じいちゃんと合体魔法のよーなこともしよーぜっ!】



 テレパシー経由で不知火からそんな提案もあったため、魔法の師匠のひとりの言葉は素直に受けることにした。その方が、別の魔法を実行しようとしていた夜光の邪魔にもならない。


 彼にも因縁のある組織の壊滅計画を執行しているのだから、殲滅するために手段を選んでいる場合ではないのだ。意識の中で承諾していると、そばにいた呉羽が腕を掴んできた。



「ザクロっち、あたしの中の石も……使えるときに、使って。おじいちゃんが、あたしのことも考えてくれてるんなら。残すよりも使って欲しい!」

「……うん」



 たしかに、黄泉返り後に処理することを考えれば先に抜き取った方がいい。身体の維持は大丈夫か、不知火に確認を取ってから手順も聞いて彼女から石を摘出した。肉体などの変化は、太っていた頃にも戻らなかったが。形成された石自体は、今までにない大きさの蓮の結晶体となっていた。


 これなら、と不知火がとびっきりの提案をテレパシーではなく呉羽にも告げてくれた。



『特大の罠……転送させて、本部に送りつけてやろうぜ?」



 相手は犯罪者の中でも、赦してはいけないくらいの極悪集団。その大ボスには、相応の最期を迎えさせてやろうと。不知火を今の肉体にさせた集団なのだから、彼自身も充分ご立腹。ミステリー小説の犯罪計画をするような、犯人の顔だと思ったのは柘榴だけではないだろうが。


 今回は、その立ち位置でなければいけないので呉羽も乗り気になって頷いていた。


 秘密裏の、計画がここから始まったのである。

次回はまた明日〜

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