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第67話 何故愚かな自分に幸せが来るのか

お待たせ致しましたー

 こんな展開では、望んでいなかった結果なのに。


 それでも、今もなお固く抱きしめてくれている(いずる)柘榴(ざくろ)への真摯な愛情を与えてくれたのだ。柘榴が不知火(しらぬい)の計らいで、仮に現代に蘇えれたとしても。柘榴には与えられるものが『愛情』以外なにものこされていない状況となってしまったのに。


 親も家も、他の家族もすべて喪ったばかりなのに。貫自身の秘密も打ち明けてくれた上で、永久に続く生を共に過ごしてくれると告白を乗せて約束してくれたのだ。


 彼の肩書以上に、死神扱いでしかない柘榴に真摯な愛情をどうして向けてくれるのか。呆れた返答をしてしまっても、貫はそんなことがないと抱擁を強くしてくれただけ。なら、もう。見栄を張る必要などないと、柘榴は素直に甘えて預けることに決めた。


 経緯はどうであれ、創り出した『御守』もこれで遠慮なく渡せるという考えよりも。ここまで愛情を伝えてくれる、この不器用な男性への恋慕が己の方も本物であるのならば。両親への想いよりも強いそれを、後悔したくないと委ねたのだ。


 それなりに不器用な伝え方なのに、貫は気にしなかったが。見ていた呉羽(くれは)たちにはそのあともみくちゃにはされたりしたものの。今は一旦小休止だと、夜光(やこう)が気を遣ってくれたのか。貫と柘榴の自室で籠ることとなった。


 必要以上の言葉は交わさずに、ただベッドの上で抱き合うだけ。普段、どちらかと言うと憎まれ口をたたき合ったり、たまに柘榴から制裁を下したりとか。ほとんど甘い雰囲気がなかったというのに、恋というものは宝石料理以上の魔法をかけてくれるようだ。


 言葉だけの魔法で、ここまで関係性も変わるのか。色々解決出来て、本当の意味でいっしょになるとしたら。こんなにも痺れているのに一切嫌でない甘い時間を過ごせるというのか。心臓は一応動いていてもときめきに似た鼓動が痛いくらい波打つので正直しんどいはずなのに。


 それすら、いやに感じない時点で惚れ抜いている証拠だ。



「……あの、貫」

「あ?」



 ぶっきらぼうな返答だが、離してはくれないようで。力はこれ以上強くはならなくても、渡すべきだと少し隙間を作ってもらうようにお願いをすれば。


 顔を見れたときには、期待に満ちた存外にも可愛らしい表情を目にしたら。うっかり顔を近づけて、頬とかに口づけてしまう衝動は抑え込んだ。出来れば、ファーストキスは貫から仕掛けて欲しい乙女心は残っていたため、ここは我慢した。恋を自覚しまくった勢いで仕掛けては夢も何もない。恋人関係に慣れたのだから、女子高生らしいロマンスくらいはそれなりに夢はあったのだ。


 店の制服を着たままだが、ポケットには例の御守は入れてあったので出してやれば。



「……これ、宝石料理だけど。お、おまもり……」

「……創ったのか?」

「い、石はおじいちゃんたちの許可貰ったよ!? こんな事態とか関係なく……貫の覚悟も知らなかったけど。保険にはいいでしょ?」

「……おう」



 さすがに、素の状態では渡せないので夜光らが魔法で保管状態を保つ包装をしてくれたが。外見は普通の携帯バーのようなもの。貫は気配察知が得意なので、中身が紅霊石(こうりょうせき)で創られた菓子なのはすぐにわかったようだ。若干言い訳のような説明にはなってしまったが、目的は同じなのでうまく伝わったのか。


 ナポリタンを食べてくれたときみたいに、快活な笑みを見せてくれ。見惚れていると、持っていた御守を受け取ってもらえた。失くさないように、ジャケットの内ポケットに仕舞いこんでから。まだ足りないのか、柘榴を懐に抱きこんで髪に頬ずりしてきた。


 甘々に接してくる貫の想像をしてなかったわけではないが、かっこいいというよりも可愛く思えてしまう。告白の時の真剣な時は別だが、甘えたな時はそうではなかった。単に、『男の全貌』を見せていないせいもあるだろうが。


 今は、この菓子のような甘い雰囲気に溶け込んでしまおうと、ホールでのときのように背に手を回した。あと少しで、『本戦』に集中しなくてはいけないので日常は今のうちだけ。


 他にも、呉羽や陸翔(りくと)などの関係の進展も考えたりはしなくてはいけないが。今だけは、貫との時間に浸っていたかった。素直に甘えていい時間を欲しているから。


 大切な物を喪い過ぎて、崩壊していた心を修復してくれたのが貫だけだから。今は陶酔していたい。その気持ちが伝わってしまったのだろうか、不意に顎を持ち上げられて我慢していたファーストキスを贈られたまでは良かったが。


 健全な男性の欲情を甘く見過ぎていて、もつれ込みそうなくらい深いものを施されたときに。反射で、腹を殴ったのはもうお約束の展開と言えよう。


 結局言い合いはしても、最後には苦笑いし合うことで時間が終わり。


 ホールに戻ったら、何故だか予想外の展開がこちらでも起きていたと呉羽を見て理解した。



「くれ、ちゃん?」

「えへへ~~? リクっちが熱烈アピールしてくれたんよ~~!!」



 と、彼女がしがみつくように抱きついていた陸翔の姿だが。


 どういうわけか、維持出来ていなかった生前の『美青年』の侍姿に戻っていたのだった。


次回はまた明日〜

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