第66話 無情過ぎる現実だが……
お待たせ致しましたー
本気で、刻牙に呪詛をかけられるものならしたいと思ったほどだ。柘榴が崩れ落ちた途端、咄嗟の判断で抱きとめたのだが。縋りつく存在が今は欲しいのだとそのまましがみつかれたことに、今は素直に喜べない。
貫も手伝ったのだが、彼女はこれで近親者を『死別完了』してしまったのだ。他の縁戚はともかく、『流れ人』の血筋を残した人間の形はこれで断絶された。
後ろで傍観しているはずの、不知火が柘榴を黄泉返りしなければだが。ごく薄い血筋の者も探せばいるだろうが。柘榴ほどの覚醒はおそらく見込めない。刻牙がそれらを狩り尽くすことも、刑事としては想定済みだ。
(……だからって、こんなの……娘にさせることかよ!?)
周囲の反応を気にせずに、貫は喚きながら泣き続ける柘榴を固く抱きしめた。
今だけは、刑事ではなく『仮の恋人』の立場で慰めてやりたかったのだ。想いは今伝えるべきではないのだが、それでも何かこの無情でしかない絶望を抑えてやりたい。抱擁程度で収まるはずのない咆哮に近い泣き方は、死人であれ肉体には負荷が強いはず。
なら、と外野がいくら居ようが、構うまいと。貫は柘榴の顎を掴んで無理矢理自分の方に向けさせた。酷いくらいに泣き晴らした目と焦点の合わない視線だったが。貫の目が見えたのか少し光のようなものが戻りつつあった。
「……い、ず……?」
「いいか? ほんとは、お前とふたりのタイミングで言うつもりだった。けど、今はもうそんなムードとやらはどーでもいい」
ここで言わずして、この幼い女の支えに少しでもなれるのなら。状況とか考えている場合ではない。逆に証人として同席してもらうことで譲歩しておく。
至近距離だが口を合わせることとかはせずに、そのまま貫も訴えるようにして告げていくことにした。
「……?」
「俺は! 仮の提案を浅葱さんに指示されたときに、『嫌』じゃなかった。こんな俺を適当にあしらうのが年下のガキでも、そんときは嬉しいと思った程度だったよ。けど……こっちの時間じゃ短いだろうが、ここ一ヶ月の間で俺は柘榴に惹かれた。初対面じゃなかったことも知ってるけど、今のお前だから好きなんだ! 素材のハーフだから、俺は簡単には死なねぇ!! もし万が一のことがあれば、お前がマスターとかに方法聞いて……俺をここの所属にするようにしろ。んなら、傍に居てやれる」
柘榴が挟み込めない速さで告げたが、柘榴はぽかーんとしているだけ。放心に近いが、拒否ではないのに少し安心出来た。推測くらいはしていても、確証はない。呉羽のアドバイスが無くても、なんとなくは認識していたが。
柘榴の本心抜きに、確定などしたくなかった。だから、今出来れば答えを聞きたい。覚悟もすべて本気だ。告白はある意味ついででも、それくらい傍に居てやりたいのは瞬間的な『同情』でもなんでもない。
素材と人間のハーフと言う肉体を利用出来れば、不老もだが長命の可能性も高かった。浅葱らの研究結果でほぼ判明しているので、永久就職の籍も一応確保していたが。
初めて、『ここに居たい』という願望が生まれたのだ。他に拒否されても、押し通す努力はする。というか、納得させるのだ。奥底の感情を刹那のものにしたくないのなら、相手に伝えるのは今だと。
しばらく見つめ合い、他の誰も割り込んでは来なかったが。
表情の揺れを見せた柘榴が、今度は静かに泣き出した。
「……ば、か」
「あ?」
「な……んで、あたし……なんかの、ために? あたし、死んでんだよ? あたしが……貫のこと好きでも、幸せになれないんだよ? 生き返れても」
「……ばーか」
柘榴らしい言い返しが聞ければ、答えが出たのも同じだ。今度は懐に引き込むように抱きしめ、柘榴が背を回してくれたことで話し合いの答えも決まった。
あまりいい流れではないが、これで正式に。
貫と柘榴は『本当の恋人』となったのだ。
柘榴の嗚咽が落ち着いたあとに、呉羽や不知火に押し倒されてもみくちゃにはされたが。とりあえず、この結果は悪いものではないのだと周囲も受け入れてくれたのが。
貫自身、人生で初めて『感動』を覚えた瞬間だった。
次回はまた明日〜




