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第63話 ああ哀しい末路

お待たせ致しましたー

 いきなり、『普通』に昼寝をしていただけの不知火(しらぬい)は。襲撃者にしては気配が無さ過ぎて、逆に慌ててしまった。離れろと叫んでしまったが、相手は素直に退いてくれたけれど。


 向こうの方が戸惑っているのか、不知火が姿を確認した時はただでさえ白い肌を青白くさせていた。死人でもなく、完璧な生者でもない。しかし、気配と血の流れが『何か』に酷似していたのを判断出来た時には。


 不知火は、本能とやらで指を鳴らした。その所作は、術を展開するものだが。柘榴(ざくろ)が出現させた紅霊石(こうりょうせき)の処置以上の展開を施し、彼女の『父親』の肉体にかけられた『改造そのもの』を無と帰したのだ。


 当然、刹那の時間でも濃密な構成を施したお陰なのか。彼の肉体に植え付けられた呪詛やキメラ化されていた構造の修復も、すべて。ほぼほぼだが、『命の灯』以外は修復可能だった。命だけは、血の繋がりが薄いこともあり完全には出来たかったが。少なくとも、軽い延命措置は出来た。



「……話せるか?」



 不知火が問いかければ、耳も通じるのか彼は頷く。言葉の方は始め羅列なものでしかなかったが、少しずつ紡げるようになっていた。



『……ど、こ。ざ……く、ろ……は?』

「安心しろ。柘榴はこの建物内で保護しているし、ある意味生前より楽しんでいるぜ? 恋人候補どころか、婿殿候補の奴もいんぞ?」

『む……こ?』

「安心しろ。本気で娶り先になりそうな相手だ。昔、柘榴が攫われそうになった事件……お前に、取引を持ち掛けられそうになった連中の失敗を作った奴だ。今は、特殊部隊に所属してる」

『……よ……かっ、た……っ』



 身体の構成が戻ったことで、元の年代が判明出来たが。柘榴の父親の身体は、酷使され続けていたせいで『成長』が止まっていた。柘榴が誘拐されかけたあの年代に、取引を無理やり執行されたのならば。その時の時間で止まっているのなら合点が行く。


 柘榴は高校生で刺殺されたが、事件が起きた年代から七年は経っているはずなのに。その世代の子どもを持つにしては、外見が若過ぎる。桃世(ももよ)の死が、事件から二年後だとしても。外見が三十代半ばのまま止まっていたのだ。若作りとかの次元ではなく、一切の成長の経過を感じ取れない。不知火の術で瞬時に戻せないのは、灯の限界が近付いているせいで反映されないときた。


 とくれば、何かの導きがあって不知火の前に落とされた。おそらく、それは桃世と閻魔大王が手引きをしたはず。行動を起こしたのは、目の前の本人だとしても。



「時間がないのは自覚してんだろ? 謝るなりなんなり……冥府へ逝く前に娘に会ってけ。殴られる覚悟してても、お前は柘榴に会いたいんだろ?」

『……はい』

「んじゃ、泣くのは止めろ。仮にもあいつの父親なら……最期くらい、笑顔で別れてやれ」



 子孫の一端だとしても、憔悴し切った男への激励は厳しい。しかし、時間がないし柘榴の本音っもぶつける時間を与えるのも、祖父となった不知火の役目だ。それに、この父親が刻牙(こくが)に利用された情報は今手にある。仕返しのさらに仕返しをする手段がまたひとつ手に入ったのならば。


 今だけは、孫のために少し保護者らしい態度でいよう。どの道別れは決定していても、後悔のないようにすべきなのは彼女の方が優先順位が高い。弱味をつけ入れられたのは、今更説教しても遅いから出来ることをするしかないのだ。


 彼の手を引いて、ホールへと向かえば。


 既に来ていた(いずる)と話していた柘榴がこちらに気づいてくれたが。父親の姿を見つけた途端、ダッシュで駆けてきた。不知火はまだ柘榴の性質をすべて把握してないため、平手打ちをするかと思ったが。



「ばかぁぁあああああああ!!」



 叫びながら、頬を叩くと誰もが予想していたのに。実際、柘榴は不知火を通り過ぎて父親の懐に飛びついた。勢いで、彼は娘を受け止めきれずに床に尻もちをつく。なにかしらの事情を、貫から既に聞いていたのか。柘榴は声にならない叫び声で、父親にしがみつきながらひたすら泣き続けただけだった。



「……ワレぇの、杞憂かぁ?」



 ここは繕った態度で、貫に問えば。奴は呆れたため息を吐いてはいたが、表情は苦笑いだった。


次回はまた明日〜

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