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第62話 消えゆく想いは形となる

お待たせ致しましたー

 資格はないと思っている。喪ったモノが多過ぎて、もっと大事にすべきモノに己の命を天秤にかけられてしまい。結局は騙されてしまっただけに終わる。連中は、妻の命を奪っただけでなく、娘の存在を利用するだけ利用しようとしていただけだった。


 父親の己のことなど、結局は捨て駒程度にしか価値がないのは既に理解していたのだが。死を迎える段階まで、はっきり自覚することが出来なかったのだ。愚かすぎるのにもほどがある。



(ざ……く、ろ。ごめ……)



 謝ったところで、意味がないのはわかりきっている。母親を喪った直後に、己が連中に心の隙を付け込まれたせいで、娘を実質ひとりぼっちにしてしまった。愛する妻を喪った嘆きから出来た隙のせいで、同じかそれ以上に愛する娘の命どころかその先の未来をも奪ったのだ。


 父親として、支えなくてはいけないのに。最愛をひとり喪った状況には心が追い付かなかった。ただただ、搾取される『材料』に利用されただけ。娘の方も結局は殺されたと報告の噂は届いたが。


『好機』は来た。


 己が捕えられている、組織に不穏な動きがあったのだ。裏切り、襲撃、極度の揺さぶり。これらの事態が立て続けに起こったことで、己への警戒態勢がかなり緩まった。数年も捕えられているのだから、改造もされた今なら妻ほどの能力はなくとも多少は干渉行動は出来そうだ。


 イメージを少し形にするだけで、なんとか動ける肉体を『狭間』とやらに転送させてみたのだが。



(……く、らい……?)



 出れた場所は、囲われていた密室以上の暗黒空間。魔法と似た方法で試みても、初めてだからうまくいかなかったかもしれない。このままでは、この中で消滅を待つだけなのか。ただでさえ、改造の代償で命の灯は尽きそうだと言うのに。


 最期に、もう一度だけ。柘榴(ざくろ)に会って、殴られてもいいから謝罪をしたかっただけなのに。妻のいるあの世へと行けるのだろうか。感覚もほとんど断絶されていても、涙だけは流せた。絶望の域に陥っていると、脳裏らしき箇所から声らしき音を感じて顔を上げる。


 そこには、ぼやけているが生前の妻が柔らかな笑顔で己を見下ろしていた。



『……お疲れ様。あなた』

『も……も、よ……?』



 幽霊の装いではないが、きちんと己を認識してくれた。あれから五年以上は経っても、先に逝ったのはあちらだから姿が変わらないのは当然だが。込み上げてきたものは、愛おしさと哀しみ。そして、二人の娘を犠牲にしてしまった事への深い後悔だった。



『大丈夫よ。あの子には、庇護者がたくさんいるの。繋いであげるから、最期の時間だけでも……会ってあげて?』



 こちらへ来るのは、それからでいいから。その言葉を最後に、落ちていく感覚が身体を襲い。気づいたら、明るい空間に放り投げられてしまっていた。下には誰かいたのか、蛙が潰れたときのような奇声が聞こえてきた。

次回はまた明日〜

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