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第61話 実はこちらの覚悟も

お待たせ致しましたー

 そろそろ、狭間への転送を行うところだが。


 (いずる)は、部署の仕事を終えた父に呼ばれて特別室にて説明を受けていた。今は別部署でも、実質的には上司だ。改めて、これからの激戦に向けての覚悟などを説教されると思ったのだが。



「結納を検討しているのなら、俺たちは進めておくけど?」

「おい!?」



 決戦への心構えと思えば、嫁バカな内容ではないか。思わず、職務を忘れてプライベート時の反応を返してしまった。それも予測済みだったのか、駿(すぐる)はいつものようにニコニコしているだけ。この箇所は貫にあまり該当しないので、真似も出来ないだろう。ともかく、ツッコミせざるを得なかった。



「こんな事態だからこそだよ。彩葉(いろは)さんの時とは桁違いの戦闘が起こるのは間違いない。後悔しないようにしてほしい。俺も調べ直したが、お前がかつて訪れた病院での被害者だったんだろう? 未遂でもお前が救助出来た少女が、今は素材にされた。あの御人が黄泉返りを実行したとしても……『健常者』の生活にはもう戻れない。俺らの保護下での生活をするしかないんだ。彼女の、父親の件も調べたが……聞くかい?」



 態と、ふざけた言い方をしたのは最後の説明のためか。たしかに、『生存』している柘榴(ざくろ)の身内は父親のみ。娘を遠ざけ、生活支援は一応していたようでも接触はあまりしようとしていなかった。妻の忘れ形見なのに、最愛のひとりを喪った反応の中にそれが起きるのも仕方がないとは思っていたものの。


 駿の態度では、どうやらそれだけではないらしい。逆に気を引き締め、貫は受け止めるために姿勢を正して頷く。



「ああ、俺も覚悟は出来てるぜ。素材とのハーフでも、死への道筋がどう傾いても……柘榴の傍に居るのは決めたんだ」

「ん。わかってたけど、言葉で聞けたなら信用しよう。……簡単に言うと、生死不明の行方不明になっていたんだ。しかも、相当前から」

「は? 柘榴の話じゃ、最低限の仕送りしてたって」

「その痕跡はたしかにある。しかし、在籍していた会社などには問い合わせしても……既に退職済みだったんだよ。もし、遺産にしても柘榴ちゃんが生活していたマンションの毎月の支払額を考慮しても……五年以上維持できるにしてはおかしいんだ。なにかしらに巻き込まれ、娘を成熟な身体で『素材』にすべく取引を持ち掛けられた可能性が高い。痕跡が少なすぎて、まだ要調査中なんだ。救出したとしても、今の柘榴ちゃんの立ち位置を考えれば……」

「……んだよ。それ」



 計画は、こちらが手遅れな程に進んでいたのなら。貫が誘拐を阻止したあの時点で、刻牙(こくが)は既に柘榴の父親と取引していたということ。本人が望まずとも、命を交換条件に出されれば人間であれば血を分けた娘の命と引き換えでも譲渡してしまう。どんな状況でも、子どものことでも引き換えにしたくとも、窮地に立たせられれば首を縦に振らざるを得ない。最終的には殺されたとしても。妻が流れ人の子孫であったから、交われば恩恵は受けているのも同然。


 死どころか、素材の一部にされることが目に見えている。この事実が確実となれば、柘榴の心はどうなるのか。貫程度で支えられるか、一瞬迷いが出たけれど。



(……んなもん。救出出来りゃ、あとで問い詰めればいいだろ!)



 柘榴の流す涙をこれ以上、無意味な喪失がきっかけで見たくはない。見たいのは、笑顔だ。泣くにしても嬉し泣きの方が断然いい。悲哀以上に絶望からのものなどあってはならないのだ。なら、何も行動しないよりも奪還できるものはすべて実行するまで。


 駿もそれをわかってか、リストのようなものは端末に送信してくれた。



「秘密裏、はさすがにリスクが高い。俺から夜光(やこう)殿には連絡しておく。保険はかけておいた方がいいからね? 君は俺の息子なんだから、親としては当然心配だ」

「おう」



 先の未来を、すべて明るいものには出来ずとも。後悔せずに、やるだけやって切り開く方がずっといい。それを受け止めて、貫は転移の装置に足を踏み入れた。



次回はまた明日〜

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