第60話 宝石ランチを再修行
お待たせ致しましたー
いつ何時、襲撃されるかは予測が出来ない。そのための、修行が始まったはずなのだが。笑理を連れてきた夜光の指示の元、てっきり不知火から魔法修行を受けることから始まると思ったのに。
現在、柘榴は不知火があえて精製した紅霊石を使用して、『宝石料理』を作成する修行をすることとなった。魔法技術の結晶ではあるが、攻撃手段ではないのではと思うも。
「ふふ。私たちが編み出した技術の中では、実は筆頭手段なのだよ。ゲームでの投擲アイテムや結界用の媒体だと思ってくれたまえ。それを生み出し、咄嗟に使用することを覚えれば。もしもの事態に応用できるのだよ。柘榴くんは、そのセンスが特に優れている」
「……ふーん」
納得出来なくはないが、酷く楽なのではと思うのも否定できない。コツは割りと掴んだので今更な見解もあったが。立案者のひとりが豪語するのなら、戦闘経験のない柘榴は頷くしかない。センスがあっても、柘榴は素人そのものだから。
店の営業については、準備を整えるのに帰還した貫以外は表側のホールで対応していた。呉羽は今の形態で適性があるかは陸翔に指導を受けているので大丈夫そうだが。表面上は抑えていても、互いに惹かれ合っていることに変わりないのでそちらが心配だ。目付け役に、不知火の分身体が控えているので完全に二人きりではないものの。発展したあともまた心配ではある。互いに死人でも、特殊な個体なため、呉羽の場合は生き返れる可能性が高い。しかし、陸翔の場合はまだ打ち明けられていないからわからないのだ。呉羽は一応口では覚悟を告げていても、本心は違うはず。大人びた性格が垣間見えても、まだまだ女子高生そのものなのだ。幼くて当然だ。
「しっかし、柘榴の魔法は端的にうまく構成出来てんな? 俺の真似か?」
自然と詠唱破棄という高等技術が出来るようになった柘榴の魔法は、どうやら不知火のそれとよく似ているらしい。無意識でも先祖の得意技をうまく引き継いだのか、イメージだけで可能にしたのは天才なのかどうかわからずとも。彼の反応から察するに、出来ると有利なことは間違いないようだった。
「どーかな? おじいちゃんが来るちょっと前に、なんでか出来るようになったくらいだし」
別室の訓練所らしい特殊強化の室内で行っているため、不知火の言葉遣いも素になっている。夜光は知っているからか、特に気にしていなかった。
「柘榴くんの場合は『閃き』なのだろうね? この店の記憶を引き継いでいた母君の説明を、幼くとも記すことが出来ていた。その綴りの才能に加え、天性の閃きが魔法に作用したのかもしれない。不知火殿の子孫と言うこともあり、うまく適合したのだと思うよ。私にはない才能だ」
「マスターだって、チート出来ているじゃない?」
「私の場合は、年の功みたいなものさ。流れ人特有の固有能力には該当しないんだ」
「のわりに、あのねーちゃん引き込むくらいの能力はあんじゃねぇか?」
「不知火殿には負けるとも」
「どーだか」
他にも秘密があるようだが、そこにはまだ刻牙の因縁が関わっているかもしれない。どこまで打ち明けてくれるかも、まだ未明だから無理に聞き出せないでいた。笑理の方は知っていても、それは無理に聞き出せない。柘榴は夜光の弟子でも、まだなり立てだ。陸翔の方が上でも彼にも聞けない状態。踏み込み過ぎると、なにか引き返せない気がしたのだ。本能的に。なので、今は気づかないふりをしておく。それがバレていたとしても。
「紅霊石の料理だから、アイテムにしやすいの?」
話題を変えるのに、料理精製の理由を改めて聞くと。二人とも楽し気に頷いてくれたので、流れを変えてくれるようだ。
「血が素だからなあ? 特に、俺の血がベースだから『爆破』『捕縛』とかは特化してんぜ? 柘榴の回路調べたが、お前の場合は『浄化』メインだ。さらに上級の『昇華』も付属されてっから……今苦しんでるはずの阿保の瘴気を抜き取ってやろうぜ? 怨恨、野望……そーゆーのを台無しにした上で、刻牙をぶっつぶすとか」
「生易しいが、裁きの術は閻魔大王の特権だ。他空間の神々も加わるならば、冥府に送れる状態にせねばならないでしょう」
「めんどーだけどよ」
「んじゃあ、この料理でも投げやすいのとかぶっかけやすいので……実行?」
「簡単に言や、その通りだ」
手段と、報復内容が固まれば柘榴も理解が出来た。戦闘経験のない、柘榴や呉羽でも対処しやすい方法。要するに、『罠』を仕掛ければいいのだ。設置者は別でも、見合う『チート爆弾』のようなものを作り上げればいい。
それくらい、でも。適材適所なのだから、彼らを信じよう。貫にも、もしものことがあってはいけないから……ここは、不知火らに提案をしてみた。前線に立つのは貫だから、とびきり強力な護符のようなものを創りたいと。出来れば、料理のような形態で。
「であれば、持ち運びやすい『携帯食』に擬態させようではないか?」
そして、もしも貫がそれを服用した時には。死よりも辛い結果になるとしても、柘榴は彼を喪いたくなかったから、きちんと説明する上でその料理を夜光らの協力を得て精製することとなった。
『望む者の、望む姿に変われ。あたたかく、優しいそれへ』
それだけは詠唱を加え、心もきちんと込めた上で創り上げた。仕上がりは携帯食と言うことで、外見は紅いがチョコレート風味のバーだった。夜光の端末に貫が戻ると連絡があってから、それを渡す時間を作ってもらうことにしたのだ。
受け入れられなければ、もうその場で告げようとも決めて。気持ちを受け取ってもらえなくても、貫のことを本心から愛していることを。
次回はまた明日〜




