第59話 双方の違和感が始まる
お待たせ致しましたー
微かな違和感を感じた時には、もう遅いと感じていた。『其れ』はあの出来損ないの工作員を取り逃がしたことから、常に苛々していたのだが。殺しが得意な部下が久々に失敗するという事態が起きて、苛立ちが募っていく。
始末しようにも、痕跡を辿れないときた。もとは、こちらの組織に属する研究者が精製したキメラサンプルでしかないのに。なまじ意思が宿っているので、個体としては厄介だ。かつての裏切り者に、利用され仮の肉体を其れが破壊したあとの脱退行動。おそらく、もとから利点が不十分だと不満を言っていたことからあちらについたとみた。
尚更ひっ捕らえて、抹殺しなければいけない対象であるのに。どうしてか、『動けない』のだ。日に日に、体力もだが今の肉体が思うように動かない。この違和感は、其れだけでない。
失敗を犯した部下の方もだった。
日に日に任務に支障が出るほどで、解除が困難で狭間へのリンクがうまくいかないほどだ。
(……こんな、芸当。我では敵わん!? あれか……夜光……いいや、菅公!!)
気まぐれで加入し、気まぐれで脱退してはこちらの邪魔ばかりする、元神の欠片。取り込んだ血族でしかないのに、その欠片が本霊を呼び起こしたのか。全盛期に近い力を取り戻しているとみた。おそらく、ことらから奪い取った紅霊石の素材の娘から、好意的に石を取り込んでいるのだろう。あの意味のない料理とやらに変換し、取り込んでは魔力よりも神力に変換させて。
(忌々しい!! その力を得るのは、我なのに!?)
あの奇天烈な魂魄を飛ばしてきた時点で、気づくべきだった。菅公の欠片を取り込んだあれは、驚くほど緻密で正確な魔術を他者に潜り込ませることが可能だったと言うことを。永き時代の流れで廃れるどころか、あの狭間とやらで生活しているうちに、技を磨き上げたようだ。予想以上過ぎて、引き剥がすのも困難。
おそらく、刻牙全体に浸透させているに違いない。一瞬で奪わないのは、因縁だけなどと生易しいものではないだろう。正義とやらの道筋を外させた、其れの計画にもいい加減気づいたときた。であれば、これは『報復』に違いない。
悔しいが、ここまで来ると肉体を捨てても魂魄に糸のように絡みついては壊れてしまうだろう。
衰退していくのか、このまま。
『神』への昇格に、あと一歩のところまで来たというのに。こんな呆気ない形で弱っていくしかないのか。力の拘束が強くなるのを感じていると、玉座の間の入り口がいきなり壊れた。武器ではなく、『素手』で壁を破壊していた部下がいた。同じように、浸食が進んでいたあの男だった。
「……まだっすよ。俺がいるっす」
忠誠心は低いはずだが。感情の波が荒れて、どこか自棄になっているのかもしれない。殺し損ねたかつての同僚か、夜光へか、かつて逃した素材の子どもとの再戦に向けてか。
どちらにせよ、互いにこのまま壊れるのならもう最終手段は決まっているも同然。
流れ人を素材にした、柘榴を永久封印し、刻牙の中枢に取り込むこと。融合すれば、リンクしているこちら側にも力が流れて目的を完遂出来る。動きにくい肉体を使い、呪詛の一端を部下の持つ武器すべてに上乗せするくらいはなんとか出来た。
部下はそのまま、少し身体をよろけながらも転移への魔術を唱えて姿を消した。
(……悲願は、必ず……やり遂げるのだ!!)
でなければ、再生出来ない。神々の中でも最高峰の、あの黄泉の神を。其れが求めてやまない『母』を。
何万年もかけて、辿り着いた解決策を、これ以上喪いたくないのだ。
次回はまた明日〜




