第57話 摑みどころがない
お待たせ致しましたー
浅葱らの様子は、職務上の対応は『一応』しているようだった。夜光の魂魄が到着しても、表面上は刑事の対応をしているはずなのに。
何故、雑談タイムが発生しているのだろうか。仮にも刑事と宿敵の元幹部の会話とは思えないのだ。
「ええでええで~~? マスターはんのためになんなら、なんでもゲロったるわぁ」
「……スムーズ過ぎて、我々も戸惑いは隠せないがね? 夜光殿に何故そこまで執着するのかな? 笑理くんとやら。その理由はいい加減教えてもらえるかな?」
「俺も気になりますね」
夜光もコード名のようなものは当然引き出していたが、笑理とやらはへらへら笑いながらも素直に聴収に応じている。こんな奇天烈な姿をしている上に、神に等しい血族となった夜光になんの価値があるやら。利用にしては不可思議な態度に引っかかりを覚える。
こちらが逆に価値が高くても消耗品を台無しにしたというのに、わざわざ命の危険を冒しても夜光の配下に所属したい理由が見えない。仕方がないが、傍観していても何も解決しないため。秘術のひとつで夜光には許された『透し見』を展開させた。単純に言えば、感情の本音を覗き見る違法の魔法だが。
狭間の管理者と言う特殊事情にいるお陰で、場合によっては行使しても構わないことにされている。閻魔とも関わり合いのある案件なので、ここは遠慮しない。
魂魄から能力部分を弄り、展開させていけば。
笑理の記憶に乗じて、感情そのものが文字と宝石の光が交互に夜光の中に入ってきた。
妬み。
憎しみ。
悦び。
尊敬。
他は刻牙らしい感情ではあるが、最後のには『純真さ』が異常に体現されていた。それこそが、笑理自身が夜光に向けた感情そのもの。畏怖よりも敬愛しているようだ。心の奥底を覗き、その感情が明確に表現されているのならば。たしかに、あのように危険を顧みないのも当然だ。自分勝手でも己の行動を反省する部分も出ているのだから、夜光はやれやれと魂魄でも肩を落とすような動作をした。
(ここまで慕ってくれるのは、陸翔くん以来だね)
彼は憐れではあったが、活路を切り開いたからこそ今がある。転生か転身の兆しも出たのだ。次代の助手候補、としても採用していいだろう。そう決めれば、夜光は魂魄を顕現させ。犬の形態ではなく、人型をとった。柘榴に見せた姿ではなく、本来の。
かつての時代なら、官位の低い学者で怨霊の末に祀り上げられたが。
現代では、知る人ぞ知る学問の神。
その、本霊とやらが転身した『神霊』の血族がひとり。
「菅原道真が一端の、私の配下に属するのは本気なのかな?」
その神のかけらを取り込んだ血族ゆえに、もっと永く存在しているが。取り込んだせいで個体としてはほぼ同格だ。同じ存在に近いが、違うことだと分かってほしくて。あえて異形の中でもあの形態を取るようにしていたのだ。老年の姿も、そのひとつにすぎない。
浅葱らはともかく、笑理は呆れるくらい大口を開けて夜光を見上げていたが。やがて、我に返って姿勢を正し、椅子から降りて跪く。
「……光栄にございます。如何様にもお使いください」
方言や性格を引っ込め、敬意を示す態度を取ってきた。また読んだが中身は全く変わらないことが分かれば、夜光は姿を解いていつものトイプードルに戻る。
「であれば、浅葱くん。手続きはお願いするよ。協力者がすぐに必要だから彼女は連れていく」
「ほ、ほんま!?」
駿の方は呆れていても、ここまで夜光が動くのならと諦めているようだ。すぐに手続きにと部屋を退室し、夜光は浅葱といくつか打ち合わせしてから笑理に自分を抱っこして転送するようにしてもらう。
「さてさて、笑理くん。先程の姿はまだ柘榴くんや呉羽くんには内緒だ」
「しょーち! マスターはんの迷惑なるようなことしとーないわ」
「そうだとも。あの愚か者にもわからせてやらねば。ヒトの身で神になるなど……どう足掻いても末路は悲惨なものだ」
「その割に、マスターはんは好かれとるやん?」
「……君も入れると、多いね」
たしかに、不知火と出会って実質数千年以上は経つが。間違った道筋で寄り道しても、これで良かったことに後悔はしていなかった。
次回はまた明日〜




