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第52話 ただ寝ているのではない、かつての道具

お待たせ致しましたー

 柘榴(ざくろ)らの前では、たしかに無防備に寝こけている不知火(しらぬい)ではあったが。傍らで護衛してくれている夜光(やこう)に肉体の保管を任せ。先程、柘榴の意識空間に潜り込んだように別の空間へ移動しているのだ。


 不知火自身、そこまで動くことが云百年ぶりであろうに。それでも、とても気分が良かった。良過ぎると言っていい。望まぬ子孫だと思っていたが、充分期待を裏切る存在だと理解して歓喜に震えていたのだ。



(……ああ。俺を素に戻らせてくれるやつが、直近ではないがあんな可愛い孫になるとはなあ!)



 猫かぶりのようにしていた個性的な方言を外せられる相手。(いずる)がもしいなければ、血縁であっても遠縁だから配偶者に迎えることは可能だった。しかしながら、ふたりの結びつきは強固な(えにし)による導きだ。これから罠を仕掛けにいく集団の刻牙(こくが)。忌々しき元凶だが、素材の残滓を常に狙っていたとは。


 酷く、愚かで壊し甲斐のある連中だと、これで確定した。放置し過ぎたのは不知火の責任もあるが、柘榴の人となりを受け入れた今はもう容赦しない。孫であることに変わりはないのだから、あの集団の計画で生まれた存在であろうが柘榴の未来を導く手助けをしたかった。


 妻も子も、直接は知らない。適当に繕って子種を埋め込んだだけの存在にしたにしても。柘榴の記憶を通じて、ここ数十年の子孫の経緯を取り込んだがどれもこれもが憐れなのに『愛おし過ぎた』。適当な性格の不知火の子孫にしては、清廉過ぎる存在ばかり。ひっかかる者はいても許容範囲だ。それほどの子孫を残せた喜びが、じわりと魂に染み込んでいく感覚が心地良かった。



(この感覚……永続的に残していきたいぜ。そのために、夜光だけの術じゃ足りねぇ。すぐに破壊してぇが、柘榴の活躍の場は残してぇからなあ?)



 砕くのは容易いが、各々に因縁が深い。柘榴は幼い頃に襲撃されかけたが、細かいものを含めば星の数ほどあるだろう。死人にしたきっかけにしたのは、成熟した『血』を求めた計画故に。どこまでも強欲な輩だと憤りでしかないが、これではっきりした。


 不知火を直接素材にした連中は、世に存在してなくても。引き継いでしまった輩はさらに傲慢な存在だと。夜光が身を引くほどの、末恐ろしい欲の先はだいたい予想がついてきた。



『俺と同じ? か、それ以上の神格……最上神くれぇなりたいのか? あの阿呆連中は』



 多神教の中でも唯一神とかは存在しているが、あれらはもともと『ヒト』由来。不知火と同等の輩ばかりだ。不知火は神を名乗ってはいないが、神格は同等。冥府の神々から、極力世俗の人間と接触しない制約をさせられていたので今日まで寝ていただけ。


 だが、柘榴の覚醒と交流したことで気が変わった。冥府も目をつむっていただろうが、ここまで計画が進んでいるのであれば無視は出来ない。まずは、幽界を飛び越して冥府に直接殴り込んだ。もともと、魂魄でしか侵入できない空間故に。いきなり裁判中に割り込んでも、大きな騒動はなかった。


 死者らは、そうではなかったが。



【な、なんだ?】

【で、でっか……力! 爆発か!?】

【終わりか!? 地獄も終わりか!!?】

【地獄に堕ちなくて済むんか!?】



 所謂『亡者』どもは勝手な事ばかり言う連中だ。不知火も、逸脱した存在であれ似た感情を持たないわけではないものの。『死』を迎えられない存在になったところで、幸せが必ずしもないとは言い切れない憐れな存在たちだ。今はどうでもいいが。



【……不知火。裁判にいきなり割り込んでくるとは。四万年ぶりの乱入にしては、派手過ぎないか?】

『相変わらずやんなあ? 閻魔のおっさん』



 現在では神の一員であれ、もとは亡者。同じ神格になっているから砕けた話し言葉でも問題ない。素に戻る必要はないからここは繕っておく。下手に嘗めた態度を取れば、亡者が群がるだけだから。現に、獄卒が止めにかからなければ跳びかかる勢いになっている。


 閻魔にもその意図は伝わっているからか、特に咎めもない。



【……相変わらずだな。わざわざ魂魄を飛ばしてくるとは、余程動く件が出たか。まあ、我も承知しているが】

『ワレぇの子孫や。知っとるが、夜光んとこおるねん。ワレは孫認めたぞ。あいつを……黄泉返りしようにも、連中らがもう阿保んだらで済まんわ。ワレは権限使うぜ? 阿鼻地獄どころで済まんとこ……堕とせや』

【……まだ情報は受け取り切れていないが、そこまでか】

『おっそいわ。こんなちまちましたことしてるせいやで』

【無茶言うな】



 閻魔大王がため息を吐いた後だ。術らしき力の塊が不知火目掛けて飛んできたけれど。瞬時に気づいた、不知火は手を使わずにむしゃくしゃしていた感情をぶつけるかのように、それを蹴り落として床に大穴を開けたのだ。



『は!? 阿保んだらやなあ?』



 発信源に言葉を投げても、今は聞こえないだろう。牛頭(ごず)馬頭(めず)が不知火の出現時で駆けつけていたため、既に彼らに捕えられていた。かつての刻牙の一員。因縁の一員でも末端だろうが、たいした威力ではなかった。呻いているが、言葉にはなっていない。



【……無謀なことを。此奴に喧嘩を嗾けても意味どころの範疇ではない】

『モテるんは、孫だけでええわ~~』

【余程の逸材か? 浄玻璃の鏡で情報は集めておくが】

『まだ柘榴知らんの?』

【……ああ。少し前に狭間で祖母が利用されかけていたな。先程、天上界への裁きをしておいたが】

『あれも、孫や』



 素材としての素質は弱いが、覚醒していれば別だっただろう。殺されたにしても、夜光らの計らいで逝くべき場所が出来て安心出来た。あとで礼を言いに行くくらいはいいが、それはあとだ。


 今は、刻牙の拠点に行く前に、ここですべきもうひとつの目的を果たすのみ。


 閻魔に問う前に、刻牙の一員だった亡者を見送っていたが虚しい最期だと思うしかなかった。不知火が強くなり過ぎたのだ、永久なる時空を過ごしたせいで。酷く虚しい力だが、今は子孫のために役立てるだけ。


 それを改めて決意していると、閻魔の後ろから獄卒らしい装いの女が出てきた。角はないので鬼ではなかったが、魂魄の容姿に見覚えがあって素っ頓狂な声が出てしまう。



『……お初にお目にかかります。ご先祖様。このような形では、初めまして』



 個体としては別だと頭では理解しているが、外見が似すぎていたのだ。孫バカになるくらい、愛おしいと受け入れた柘榴と瓜二つの、もう少し成長させた女性。


 穏やかな雰囲気が特徴的なので区別はつくが、柘榴に似すぎていた。これほど美しく成熟した女になれば、貫の溺愛度が心配になるほど。子孫とは言え、柘榴の母は傾国並みの美女だった。

次回はまた明日〜

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