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第49話 折れて、爺孫の関係になる

お待たせ致しましたー

 物語りであれば、登場人物の登場シーンや退場シーンなどは一応でも順序立てて決められるとされているが。今目の前で起きているこれらはその規則を大きく無視していた。


 柘榴(ざくろ)の先祖だと自称している奇抜な紅髪の髪型の青年は。不知火(しらぬい)と名乗っているが、苗字はないらしい。柘榴に『祖父』扱いするように頼み込んできて、柘榴は周りの視線を受けて折れるしかなかった。


 それと、柘榴が夜光(やこう)の直弟子のひとりに加わったと言うこともあり、是非とも宝石料理を食べたいと強請ってきた。なので、まだ残っていた料理の中にあったひとつを食べてもらうことに。ちょうど、呉羽(くれは)が絶賛してくれたサンドイッチが残っていた。その皿を渡すまではまだよかったが、何故かソファ席で隣に密着させられるという体勢になっていた。孫を愛でるだけだと言うので、いらいらしている(いずる)には何故か釘を刺してから柘榴を隣に座らせたのである。



「……えっと、何故?」



 にっこにこの『おじいちゃん』になった若い青年の不知火は、幻影だが狐の耳と尾が見えそうなくらいにご機嫌だ。かなり先の子孫でも、自分の孫のような存在なのに変わりないので非常に喜んでいるような表情ではあるが。


 不知火に問いかけても、彼は相変わらずにこやかなままだ。少し怖いくらいだが、敵意はまるでないくらいは理解出来る。貫が言っていた魔法の技術が桁違いの彼が、柘榴に危害を加えるのならば。瞬時に消すくらい簡単だ。指ひとつで紅霊石(こうりょうせき)をかき消すことが出来る持ち主。とくれば、今は単に交流を楽しんでいるだけなのだろう。


 問いかけのあと、すぐに料理を食べずに柘榴の耳元迄顔を寄せてきたが。コロンはないはずなのに、独特の甘い香りがして少しときめいてしまう。遠くで、誰かが喚く声が聞こえても意識がこちらへと集中していた。



「安心しや。ワレぇはあくまで『おじいちゃん』やて。孫愛でんのに喜ばん爺はおらんやろ? ま、おまさんは今までが不遇過ぎたのは『流れ』で見た。今まで大変、としか今は言えんけど……なんや、こんなとこ来た方が満たされた生活してるようでよかったわ。じいちゃんは嬉しいだけや」

「そ、そ……ですか?」

「敬語やめぇ。ワレはじいちゃんやで?」

「え、えと……おじい、ちゃん……ち、近い」

「ははは! 喧しいボンボンおるし、茶化すんはこんくらいにしとくわ~~」



 などと、豪快に笑ったあとに親指を後ろに向ければ。貫もだが、呉羽も猛獣の如くこちらに襲いかかろうとしていた。陸翔(りくと)が夜光と魔法で食い止めているが、呉羽はまだしも貫は何故か。仮の彼氏ではあるものの、あそこまで不知火が気に食わないのなら。柘榴の心の中に、どうしようもない期待が込み上がってくる。けれど、まだ臆病の部分が大きいので不知火が単純に気に入らないのだと思うことにしておいた。保険は、いくつあってもいいからだ。



「……くれちゃんに、貫。なにもされてないから、落ち着いて」

「「あ゛ぁ!?」」



 一応宥める言葉をかけたが無意味なようだ。貫は何故そこまで苛立つか、勘違いしそうになるから呉羽を中心に止めることにした。



「くれちゃん、外見は違うけどさ? おじいちゃんはおじいちゃんだよ。中身はおじいちゃん」

「ど・こ・が!? イズルっちがいるのに、なして色目使うよーな兄ちゃんがじじいに見えないよ!?」

「まあ、外見はいいとして」

「あ゛!?」



 次の言葉に貫が反応したために、面倒だと彼に近づいて強めにチョップしておいた。痛くはないだろうが、それなりにダメージを受けたのか大人しく地面に顔をぶつけてしまう。しかし、今回は助けはしない。



「何にイラついてんのか知らないけど……あたしやくれちゃんのように、もう十代じゃないんだから!? ヤンキーなのは顔だけにしてよ。……正直、ウザい」



 と、あえて突き放すように言っておかないと。いつかはある貫との別れが少しでも辛いものにしたくないのだ。どんな手段があるにしても、最終的に置いていってしまうのは柘榴の方だ。素材だけでなく、もう『死人』なのだから。成長したとしても、彩葉(いろは)のように一定の段階で老化が止まってしまう。不知火と出会ったことで、その線がより濃厚になったのだ。


 だから、いくらこの男への愛を自覚しても、結ばれたら不幸でしかない未来が見える。まだ可能性がある貫にその未来をともに歩んで欲しくないのだ。もし、気持ちが通い合っていたとしても。家族との死別を立て続けに経験した柘榴は、臆病だからその未来へ歩むのを怖がっている。


 低い声で最後の言葉を告げると、倒れていた貫が急に立ち上がって柘榴の肩を思いっきり掴んできた。覗き込まれたときの顔の真剣さと、瞳の異常な紅に吸い込まれそうになり、思わず息を吞んだ。



「あのな!? 態とは止めろ。俺はたしかに大人げなかったが、態とにしても……そんな辛そうな表情で突き放すな。イラついて悪いか? 仮でも俺は彼氏だろ? 彼女の心配して悪いか!?」

「え、あ、そ」



 ヤンキー顔でそんな誠実な言葉を言われると思わなかったために。正直、感情が爆発してしまう。羞恥と喜びが綯い交ぜになってしまい、後ろで呉羽の歓声や不知火らしき口笛が聞こえても、なんて返答を返していいのか普通に悩んで口が動かなかった。


 そして、一定の爆発が終わったあとに、貫に抱えられる形で気絶してまうのだった。


 慌てる貫の声が近くに聴こえても、意識が遠のくせいで小さく感じた。



【あ~あ。鈍い連中やなあ? かわええけど】



 最後に、頭の中で何故か不知火が苦笑いしながら意識だけ入り込んでくる感覚がしたのだが。浮上したかと思えば、彼とふたりだけで紅い空間の中で座り込んでいた。



『……おじいちゃん、なんかした?』



 素の状態で思わず聞くと、不知火は苦笑いしてから軽くチョップしてきた。痛みはないが、じゃれているように感じたので嫌な思いはしなかった。


次回はまた明日〜

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