第47話 揺蕩う存在とは
お待たせ致しましたー
その者は、悠久の時間の流れに身を投じていた。生きてはいるようで、完全に死んでもいない。不老不死とも称される状態ではあるが、条件を満たせば簡単に殺すことが可能だ。その条件を満たすまでには、途方もない時間がかかるとされているが。己で試そうとしていた時期もあったが、面倒過ぎて諦めたものだ。
だから、つまらないと感じ、ついには誰にも邪魔されない【異空間】で悠久の刻の流れに入り、眠りにつくことにした。己がいるだけで、利用し尽くす愚か者がいつの時代もいる。無理矢理搾取された子種が残した、子孫のようなものはいたが気にしてはなかった。血の繋がりのようなものはあっても、結局は別個体。
『そのはずだった』。
まさか、かなりの時間をかけて、ほとんど同じ性質を持った個体が生まれるとは思わなかったからだ。空間を超えて感じたのだ。あの忌々しい血を源に生み出す、【紅霊石】。二度と創り出すものかと、自ら血の媒介を抜き取ってきたはずなのに。
【覚醒】を起こした。所謂、先祖返りというものかもしれない。己の血を受け継ぐ個体が、幽界との狭間の空間でその異能を覚醒する力を感知したのだ。叩き起こされる勢いだったため、正直寝起きが最悪な苛立ちを覚えたが。
「あ゛? ワレぇ……まーだ、回収し切れとらんかったもんがおった??」
根こそぎ『素材』となる異能部分は回収していたはずが、まだ何かは残っていたのか。覚醒にしても強力過ぎだった。己と同等くらいの爆発的な解放感。とくれば、先祖返りの中でも相当な実力者となり得る。この波長だと肉体は一応『死』を迎えているが、己と同等の能力であれば。
「あかん。事情聞かんと、『黄泉返り』させれへん」
面倒だが、行くしかない。己の子孫であれば尚更。直接的な性行為で残した存在でなくとも、ここまで育つと『二の舞』が起こりかねない。同じ存在は、己だけでいいのだ。相棒のようなものが居なければ、迎えるのは『無』でしかない。唯一人、悠久の時空の中を流れていくしか出来ないのだ。
『流れ人』と、いつかの神が勝手に名付けた、己らの種族の名は。
「あ~~? 狭間……ああ、あのムカつくワン公の姿しとるおっさんのとこか?まだマシやわ。管理者のとこにおんなら、話付けやすい」
内容次第によっては、能力を剥ぎ取ればいい。しかし、それが不可能であったら選択肢を突きつけねばならないのだ。完全な死を迎えるか、己のような存在を選ぶか。後者であれば、一緒に来てもらう。子孫であれば、共にいるのも悪くないとは思いかけたりもした。しかし、波長を探りながら移動すれば、それは無理だと理解したので更に困った。
「こりゃぁ……素材の血を多量に受け継いだ男に、ぞっこんやわ」
どうも、付け入る隙がないほどに想いを傾けているときた。なら、選択肢を変えるしかない。思考を久々にフル回転させながら、空間を素手で切り裂く。開けた先には、古風な髪形をした血塗れの女が久々に会う犬の姿をした管理者を抱えて盛大に頬ずりしていたのだった。
「おんどりゃ……なんなん、こりゃ?」
当然、登場の仕方がいきなりだったために。背広とやらを来た複数の男らに武器を向けられてしまう。仕方ないので、指を軽く振ることで無効化させた。単に、加重の術をかけて持てなくしただけだ。けがなどは一切負わせてはいない。
「……だ、れ……?」
声をかけてきたのは、懐かしい声色と近い。しかし、気配は空間を超えて感じた『同等の存在』と認識した少女だった。
大量の石を散らばせていたが、利用はされていないようだ。あの解法だけでこの量。素質があり過ぎるが、扱いはまだ不安定だ。苦笑いしつつ、また指を振るだけでそれを『消した』。
「んー? まあ? 相当昔の、おまさんの『おじいちゃん』とでも言やええか?」
「お……じぃ?」
「あー、三親等ちゃうで? ひいひい通り越して……の先祖みたいなもんや。流れ人の祖って言えばええ?」
「信じられるか!?」
叫んだのは、拳銃を突きつけていた己と顔立ちが少し似た若い男だ。素材の血を多大に受け継ぎ、素材の血は覚醒してない混じり子。こいつが、少女の相手。感情を探れば、こちらも相当惚れているようだ。単純だが、護る意識が強い。それは、素直に嬉しいと感じた。この感情が浮かぶとは、何万年以来か。
「嘘ちゃうで? そこのわん公に聞きゃわかるわ。派手に汚れとる嬢ちゃん? ちょお、離してやれへん?」
「おん? うぇ!? なんなんあんさん!? そこの嬢ちゃんより、紅霊石の気配凄!! つか、本体??」
「ん。ま、正解。ええ能力もっとるやん」
勢いでぱっと離された犬こと夜光は己の存在に気づくと、瞬時にこちらへ駆け寄ってきてくれた。本性ではなく、そのままで。
「おや、千年ぶりかな? 不知火公」
「せやなあ? ここ出来たんは、流れに居ったから知っとった。まーさか、あのやんちゃ坊主がここの管理者継承するたぁ」
「ははは。紆余曲折ありましてな? もしや、柘榴くんのことで?」
「おん。かなり時代超えた、ワレの子孫や。いちおー、責任者として来たわ」
久方ぶりの会合も少し楽しみたかったが、周りの反応が柘榴とやらも含めても奇天烈な表情をし過ぎていたので、爆笑するのを堪えるのが必至だった。ともあれ、目的を告げるためにも、食事とやらもいただきながら伝えることにした。
次回はまた明日〜




