第44話 管理者の真意はいかに
お待たせ致しましたー
夜光は潜入してきた刻牙の工作員を遠隔で捕らえてから、浅葱と駿にはわかるサインで工作員の彼女を利用するのに術を施して送り返していく。
柘榴の存在が明るみに出ている今では、潜入捜査のような犯行をされていると予想していたが。このように早く、かつ稚拙な策略で執り行うとは。大昔に関わっていた時に比べれば、随分と大胆かつ弱くなったものだ。殺戮行為に関しては研ぎ澄まされているようでも、他の技術は大きく衰えているようだ。実に、愚かな衰退である。
(……逆に、私の『罪滅ぼし』が彼らを凌駕してしまったのだろう)
工作員を送り返す際に、意識の一端を切り離して添付させ。仮初の肉体で狭間に来た工作員に憑依し、転送装置に移動して『本部』は赴く。夜光としては実に大胆な行動ではあるが、残りの意識ではこれからの計画を練りつつも目の前で起きている若者らの喧騒を楽しんでいた。
「イズルっちって、むっつりなん? ザクロっちはデリケートなお年頃なんだから~~。あんたが、初彼みたいなもんだから! もっと丁寧にコミュニケーション取りなよー?」
「あ? そーゆーお前こそ! 今は仕方ないにしても、生前はいたのかよ?」
「いいもーん! そりゃカレカノ関係の男はいなかったけど、今はザクロっちいるから楽しいし~~」
「……暴露したろか?」
「あ? ワレぇ、おまさんの秘密こそここで晒すか?」
「性格変わり過ぎだろ!? けど、柘榴はとりあえずこっち向けよ! 悪かったって!!」
「……いや」
「ほーらー?」
「だぁぁああ!!」
騒がしいが、いい感じだ。今までうるさいのは貫のみだったのに。死人でも少女二人が加わっただけで、実に和やかな感じだ。貫は振り回されているのに、一応楽しんではいるようだ。片方が、仮の恋人でも実際の想い人なのだから当然だろう。
だからこそ、この幸せを未来に導くために、夜光は切り離した意識を操作していく。操作した工作員の方は、一応本人の意識も軽く残したままにしているが情報を収集しつつ移動しているものの、『利用しやすい』性格をしていた。隙の付け入る箇所が多過ぎる。もともと、刻牙への入隊も成り行きだったようだが。犯罪行為への躊躇いはないようだから、根っからの犯罪者ではあるらしい。これでは、冥府に連行されても地獄の級は重い方だろう。それは今気にしても意味はないので。
転送が完了してから、それらしき場所に到着したようだが。
着いて早々、どうやら『大ボス』とやらは事の成り行きを見ていたのか。すぐに工作員の方に、敵意の視線を寄越してきた。術も乗せてきたのか、衣服が何カ所かあっさりと切り裂かれていく。血は流れないが、傷は残る。この仮初の肉体はもう狭間では使用不可能だろう。
「……随分なご挨拶だな。かつての同胞」
【ははは。その呼び名をまだ使われるとはね? 私はもう、そのつもりはないが】
「だろうな? だが、その術を使うと言うことは。奪ったこちらの素材のために、わざわざ赴いたのか?」
相変わらず。何百年経とうが、今まで奪ってきた素材らの稀少石を啜って生き延びてきたものだ。己も、似たようなことをしてきたがすべて閻魔大王などを介して『還した』。今の生は、あくまで狭間で維持しているだけ。この肉体もいずれ崩れ落ちるだろうから、そろそろ退散しよう。
それでも、だ。と、夜光は魔法を発動させた。正直言って、紳士を保てるほど夜光自身は『大人しく』はない。苛烈だと過去恐れられていたのは、実は目の前の愚か者よりも夜光自身なのだから。
【言っておくが。私の縄張りに下手に潜り込まない方がいい。私の今の立場を理解してのことか? 私は『狭間の管理者』。永遠の道筋を護る者だ。その道筋を少しでも違える邪魔立てをするのなら……あのとき躊躇った事件を、再開させるくらい余裕だ】
同時に意識を切り離せば、愚か者から攻撃魔法が飛んできた。当然、肉体は散り散りに破壊される。石が媒介だから、宿っていた工作員は術を介して本来の肉体に戻っているだろう。その誘導くらいは一応しておいた。
夜光も反撃をしないわけではない。愚か者に見えにくいように、本体から魔力を濃縮させたものを糸のように張り巡らせ。愚か者の『核』に潜り込ませておく。本人は、この工作については相変わらず気が付きにくいようだった。何も反論のようなものがなく、ただ嘲笑っているだけであったからだ。
その悪役の三問芝居のような反応に、夜光はほっとしつつ、切り離した意識を狭間の本体に戻したのだが。
「いーい? イズルっちは、デリカシーを覚えなよ? 女の子はデリケートなんだから! ザクロっちは美人で可愛いのは当然! かれぴっぴにいちおーなってても、下手にべたべたせんの!!」
「……だから、わざとじゃ」
「返事は?」
「……はい」
呉羽が、結局貫を説き伏せているようだ。意識をほとんど切り離していた最中だったために、詳細はあまり聞きとれていなかったが。横にいた浅葱や駿の反応から見るに、貫は女性への扱いが雑だと散々ダメダシされているのがよくわかった。実に平和な光景である。
(やれやれ。私も、彼らの未来のためにも……より一層励まなくてはならないね?)
場合によっては、この狭間の継承者となるかもしれないからだ。役目は、いずれ引き継ぐ者が出てくるのだから。
それは一旦置いておくことにして、彼らのやり取りを鑑賞しつつも。浅葱らに潜入捜査の経緯をこっそり伝えるために、魔法で活を入れるのだった。
次回はまた明日〜




