第43話 非常に面白くないのは、潜む者
お待たせ致しましたー
面白くない。
その者は、あの陳腐な狭間の管理人に気づかれていたとしても、無闇に喫茶店と化している結界内の様子を術で探っていた。どうやらこちら側が無謀な手段を講じても、確保しようとしていた『素材』をあの者らの手に落ちただけでなく。
宿敵である現世の『心霊課』の刑事らがこぞって協力者側に立ってしまっている。あの管理者の手元に渡ってしまった時点で、そこは諦めていたが。実際、かなり面倒な関係にまでなっている。素材となった死人の少女は、どうやら生前と違って『活発的』に活動していることでややこしい事態を起こしていたのだ。
「……忌々しい。あのバカチャラ男のせいだ。なんで、わっちが後始末みたいな仕事せなあかん!?」
半分古風な、半分関西弁な不可思議に思える言葉遣いで、久乃木柘榴の回収を逃した同僚に悪態をつく。言いたい放題言っても、どうせあの男はここにいない。居たとしても、適当に流すだろうからどうだっていいのだ。上には、あの男が情報入手とかで御咎めなしになったのは解せないものの。認められたら、女が動くしかない。諜報員の一端であれば、命じられるのは仕方ないとしか言えないのだ。
刻牙に所属している時点で、そういう運命とやらだから。
「……めんど。もう、辞めようかぁ?」
とぼやいても、実際出来るわけがない。血の盟約があるので不可能だ。言霊での制約はないため、口では言いたい放題は出来ても。とにかく、チャラ男への悪態を吐きながら任務を遂行していく。術を介して、中の様子を探ってはいるが。
「羨ましいわぁ? 宝石料理の食べ放題?? 金にしたら、云兆円どころですまんやろに。紅霊石のもんあったら、絶対奪うのに~~」
実際、遠隔で感知してもないので、今回は除外する。あくまで、今回は情報収集なので襲撃はしない。もとより、女の実力ではあの猛者たちの中に単身で飛び込むのは無謀だ。捕縛され、現世の警視庁に連行どころでは済まない。特殊な権限のあるあの部署では、死罪に等しい拷問を認可されているのをあの素材は知らないだろう。
しかも、同じように素材にしようとしていた柘榴の友人までいるではないか。その少女は、別の素材にしようとしたのに。柘榴の魔法が発動して『取り込まれた』。
あれでは素材の滓にして回収でもしようとしていたのに、不可能ではないか。面倒極まりないし、上に報告したら余計にややこしくなる。
『どのような手段を講じても、奪い尽くせ』。
それが、刻牙の信念、以上に執着概念だ。何が何でも、積年の計画を本懐させるためにも、犯罪など可愛らしいものだと。そんな教えを叩きこまれたが、女は入隊したときは好き放題出来る理由で加わっただけ。今では、欲の塊だらけで面倒極まりないと酷く後悔しているが。血の盟約があるために、簡単には脱退できないのだ。死は許されない。あるのは、坩堝に取り込まれて『素材』のようなものにされるだけの末路だ。
「ったく……魅螺の野郎。帰還したら、一発でも殴らせろや」
仕方がないが、ここは情報収集のためだけに撤退するしかない。これ以上詮索していてはあの管理者に気づかれる。術を解いて、退却しようとしたときだ。『異変』が身体を蝕んだのは。偽りの身体なのに、感じないはずの『激痛』に襲われた。
「が……ぁ!?」
この痛みには、覚えがない。盟約を破ったにしてはおかしいのだ。このような作用を起こすようなヘマはしていないのに。まさか、と、遠隔の術が解けているのに頭に流れ込んできた映像のお陰で確信した。
【私の縄張りで、よくも好き勝手にしてくれたものだ。対価のひとつに、そちらの上役とやらに通じさせてもらうよ?】
偽りの、犬の姿を模っている管理者。そして、もと刻牙の裏切り者とされていたが。女は意識が遠のく最中、それは間違いだと確信した。あの管理者は、おそらく刻牙になんらかの恨み以上の情を持つ者だと。でなければ、末端の者にこんな高度な魔法をかけるわけがない。これは、浸食手口だと本能的に理解しつつも。意識が乗っ取られたときには、やっぱり素材になっても脱退すべきだったと後悔するしかなかった。
次回はまた明日〜




