第39話 ホームパーティーは宝石グルメだらけ①
お待たせ致しましたー
研修は一旦中断となり、呉羽を歓迎するためのホームパーティーを開催することとなった。従業員だけのパーティーなので、品数は限られるものの。どれもが美しく美味揃いの料理に仕上げていく。
呉羽は魔法適性がないために、セッティングしか出来ないものの。意外と動けるのか、準備などの手際が良過ぎた。バイトの経験は少ないと自分で言っていたのに、それなりに経験があるように自発的に行動していくのだ。
「くれ、ちゃん? バイトって、何してたの?」
柘榴は料理の一部を夜光に教わりながら、呉羽の動きを見ていたので驚いていた。夜光はにこにこしていたので、戦力が増えて嬉しいのだろう。呉羽は、ちょうど椅子などの運搬が終わったあとにこちらへ振り返ってくれた。
「ん? ああ、あたしが手芸作品作ってたって言ったしょー? 結構お金いるから、体もこれだったけどハードなバイトしてたんだ~。あ、健全なのだよ? 休日しか無理だったんで引っ越しのバイト」
「時給高いの?」
「土日だったけど、割かし高収入だったよー。高校生だと、就労時間とか賃金の限りあったけどさ? 学費とかは親が出してくれたから、好きなことするお金くらいは自分でねー」
「……そっか」
生き方が、変わっていなければ。柘榴も似た道を歩んでいたかもしれない。殺されなくても、母が生きていたとしたら目指す夢などもあっただろうが。何もかもが叶わない状況だ。呉羽も夢が潰えてしまったのに、今は柘榴といるせいか陽キャな性格のまま。しかし、相手を気遣う性格は小学生と変わらないから、嫌味な感じはしない。外見だけで判断は、やはりよくないと痛感をしたからだ。なんだかんだで初恋相手になった貫への第一印象もまさしくそれだった。
「ザクロっちは、しなかったん?」
「……なかったなあ。今はこうでも、生きてた頃はほとんど陰キャだったし」
「そーぞーつかなーい。けど、何かあるかわかんないもんねぇ? で、今なに作ってるん?」
「色合いは派手だが、女性が増えたことだからアフタヌーンティーを開催しようと思っているのだよ」
「あふた? 聞いたことあるけど、覚えてなーい」
「ふふふ。よく思い出してほしい。高級ホテルや紅茶専門店で振る舞われる、お茶菓子や軽食を紅茶で楽しむスイーツセットの一端だよ」
「あ! あの何段もある銀の棚みたいな!」
「……具体的に聞いてなかったけど。そこまでするんだ?」
「せっかくのパーティーだからね? 食器は陸翔くんが用意してくれてるはずだ」
とにかく、魔法の修行だと自分の石以外で生み出してはいたが。普通のパーティーにしてはお洒落な組み合わせだったから、これであれば納得がいく。思春期の女子が憧れやすいテーマであれば、柘榴も気合が入る。夜光とともに、どんどん魔法を駆使して料理を作っていった。呉羽が何度もはしゃぐくらい、煌めきと色合いが豪華な料理が次々に出来上がっていく。
「すっご! ザクロっちが魔法バンバン使ってる! きっれー!!」
「ははは。呉羽くんも、狭間の環境に馴染めば可能かもしれないが。とりあえず、私の指示通りに並べてもらっていいかな?」
「しょーち!」
「なんでそこだけ、ギャル語じゃないの?」
「ノリ?」
とかなんとかしている間に、陸翔が専用の食器を持ってきてくれたため、手分けしてセッティングしていく。紅茶だけは普通にしようと、夜光が魔法を使ってもごく普通の淹れ方を教えてくれた。物体浮遊の操作も練習するのに、柘榴も横で真似していく。何度、ポットを落としそうになっては呉羽にキャッチしてもらったことか。
「……割と不器用だから、こういうとこに出るんだ」
「慣れ慣れ~~。ザクロっちだったらだいじょーぶ!」
「くれちゃん~~」
まだ再会して、こちらの時間だと二時間程度。それなのに、もう生前で交友があった時期までの信頼が育まれていた。お互いに大きなものは喪ったが、今を楽しんでいるからそこは目を逸らしている。そうしないと、いつかの別れの時間に割り切れないと本能的に感じ合っているからか。とにかく、普通に楽しんでいた。
「まあまあ、呉羽さんの言う通り慣れるしかありません。むしろ、柘榴さんの可愛らしいところではありませんか? 貫さんにも、少しは可愛く思っていただけるのでは?」
「なんで、そこで貫出てくるの!?」
「ギャップ萌えだよ、ザクロっち! イズルっちのハートを鷲掴みするのに、カカア天下もいいけど。そのギャップ萌え狙お!!」
「これ……可愛い?」
「しっかりしてる相手の、意外な一面は心を揺さぶる効果もあるらしいからね? 気を許している彼にとっては、効果的かもしれないよ?」
「マスター、いいこと言う~!」
「と、とにかく、パーティーしよ!!」
本題は柘榴と貫の恋愛事情ではないので、無理矢理中断させた。ブーイングが飛んできても無視した。料理などがきちんとセッティング出来たあとに、乾杯の音頭は夜光が代表して行うこととなり。
誰も酒は飲まないが、半分宴会のようにパーティーがスタートしたのだった。
「うひゃ~~! さっきのタルトもだけど! 他も宝石料理ってきれ~~!! グルメっていうか作品じゃん!!」
煌めきと色とりどりの料理たちを改めて見た呉羽は、素直な反応を見せてくれた。ぽっちゃりでも年相応のギャルJKとしての好奇心旺盛な感情。柘榴にはあまり出来ない態度とかでも、呉羽には何故か似合うと素直に思えた。
「どれでも好きなものを召し上がれ? 調整はしているのと、店と契約しているから冥府に旅立つことはないよ」
「わーい! めっちゃ食べていいんだ~~。ザクロっちはどれ作ったん?」
「え……っと、サンドイッチ?」
アフタヌーンティーらしく、きゅうりとスモークサーモンのサンドイッチだが。石がペリドットの宝石を使ったので、全体的に森の緑色だ。呉羽の前に持っていくと、目を輝かせながら受け取ってくれた。
「これ? きっれ~~! サンドイッチ好きー! 食べるね!!」
迷うことなく大口で食べ始めると。彼女の身体が光り出してしまい、何が起こったのかと足で待ったをかけた夜光の次の指示を待つと。光が消えれば、ぽっちゃりの呉羽はいない代わりに、天パロングヘアの超絶美少女がもぐもぐとサンドイッチを平らげていたのだった。
「くれ、ちゃん?」
「むぁ? どった??」
呑み込んでから返事をしてくれた声は、たしかに呉羽と同じ声と話し方だった。夜光は苦笑いしていて、陸翔は何故か紅茶を盛大に溢している状況に。
次回はまた明日〜




