第38話 実父の鋭さのおかげで気づく
お待たせ致しましたー
正直、貫は少しむしゃくしゃした感情が頭の中を渦巻いていた。仮の彼女でも、実際は好きな相手である柘榴の環境の変化だ。宿敵の襲撃に巻き込まれたせいとは言え、彼女の生前の同級生まで殺害されたこと。
刻牙という極悪非道を平気で実行する連中のことだから、呉羽の殺害についての調査は完了している。幸い、身体は素材利用されていなかったから柘榴のように変換されることはない。
しかし、意図的でもまた未成年の少女を殺害とは。あの連中は紅霊石の素材を精製出来ただけで、事足りないのか。強欲過ぎるとは情報でも把握していたつもりだったが、久々に対峙した連中の一角の態度を振り返れば納得がいく。ただの陽キャに見えて、腹の奥は真っ黒極まりない態度。柘榴を殺した張本人ということなら、貫にとっては倒すべき相手だ。
想い人を殺害した罪は、元から犯罪者であれば容赦はしない。牢獄に繋ぐだけでは足りない処罰だ。権限は弱くても、心霊課の刑事なら冥府の処罰を代行出来る。それでも、ごく軽いものでしかないが。気が済むわけではなくても、それくらいはしたい。黄泉がえりは最終手段にしても、柘榴が生前の生活にはもう戻れないことは同じだからだ。
それはともかく。
「……浅葱さん。何、キモイ目線投げるんすか」
上司に言う発言ではないが、上司部下の関係になる前からの付き合いなので遠慮はしてない。尊敬はしているものの、この中年男性は基本的に変人だからだ。浅葱自身は貫の物言いについては気にしていないし、むしろ笑みを深めるばかりだった。
「いやぁ~~? 結局、僕の采配は君の生活に大きく潤いを与えたと思うと、養育者としては嬉しいものだよ」
「……本人の気持ち確認してないんすから、勝手なこと言わないでください」
「何故だい? 割と脈有りのようじゃないか。自信を持ちたまえ! 君は顔つきを少し緩めたら逸材の可能性があるのに」
「モテたくないっす!」
「柘榴ちゃんにも?」
「……それは」
正直なところ、かなりモテたい気持ちは柘榴限定ではある。貫は報告書などを端末でまとめながらも、実はそんなことを考えてもいた。実際、初恋に等しい感情なのでどのようにアピールしていいのかわからない。相手は死人でも、己とて死人と人間のハーフと言う異形だ。交際問題はある意味なくとも、向こうは護衛も兼ねている交際契約と納得してるので接してくれているだろう。実際、年下のなのにかなり尻に敷かれる態度ばかり。母と近い存在なためか、身内を多く亡くしたことへの達観に近い感情を持っているせいなのか。色々強い。それは、貫が柘榴に惚れ直した要因の一つでもあった。
「おや? 浅葱さん、うちの息子が何かしました?」
悶々としていれば、別の部署にいるはずの父親が入ってきた。思わず身震いしてしまい、すぐに追い出そうとしたら浅葱の拘束縄で貫が捕獲されたために叶わず。じゃれてるようなやり取りを見て、刑事としては浅葱と同等に勘の良い父親の駿はピンと来たのか。倒れてる息子の顔を覗き込んで、にやついた笑顔で問いかけてきた。
「……なんだよ」
「なるほど。護衛任務を任されたと、彩葉さんにも聞いたが。相手の子に、まさかほの字になったのかな? そこは、あの人はぐらかしたからねー」
「お袋から業務内容聞くなよな……」
「事情が事情だから、パートナーとしてもだけど。親としても聞かされたんだよ」
「ははは。さすが、駿殿だ! ご子息の問題は解けそうかな?」
「どうでしょう? ほとんど恋愛して来れなかった子なので、玉砕しなければいいんですけど」
「不穏なこと言うな!?」
穏やかに見えて、死人である素材を嫁にした男だ。外見の割に肝が据わっているのと、洞察力が高いので実父でも油断ならない。一応上司ではあるものの、今いるメンバーでなら素で応対するくらいでいいが。面倒な相手にバレたのに、これから柘榴へのアピールをしようにも邪魔をされそうで嫌である。浅葱とあまり変わらない年代だが、いまだに母との相愛はうざいくらいに続いているのだから。
そのコツとやらを相伝されそうなので、面倒だからまだ話したくなかった。
「ふーん? 貫としては、その子が素材でも気にしないんだろう? 親の意見はそこそこでも聞いておいた方がいい気がするけど。レアケースじゃないか。生者と死者の夫婦関係は、今のところ俺くらいだし」
「まだ……付き合ってねぇ」
「正式にはだけどねー?」
「浅葱さん!?」
「ははーん? 浅葱さんの采配ですか。それなら、遠慮なくアピールすればいいじゃないか。承諾してくれたのなら、その子もバカじゃない。貫を信用してくれた証拠だと思えば?」
「……都合いいことあるかよ」
たしかに、フランクに接するように言い出したのは貫だが。それにしては順応が早い。少し調べたが、生前は母親の死と父親との接触が希薄過ぎて消極的な性格だったとあった。
それなのに、狭間で身体ごと存在している現在は、真逆と言っていい性格だ。なかなかに面白い感性の持ち主で、魔法のセンスがあり過ぎる。流れ人の子孫にしても、先祖の一角が夜光との交流があるというのもおかしい。稀に、狭間から現世に帰還されるケースはあるが、あの犬に扮してるマスターは何かを隠している。弟子にするのも、なにか意図があるだろう。柘榴の同級生だったぽちゃい少女の待遇も、なにか予測した上でああしたに違いない。
「しかし、あのお嬢さんが加わったということは。『貫くん』の交流時間はある意味減るかもしれないねー?」
浅葱は、駿がいるので職場外での呼び方で貫を呼んだ。けれど、呟きの内容には貫も思い当たることがあったので、ショックを受けてしまう。相手は女でも、かなりスキンシップの激しい少女だった。柘榴との交流は一時的に断たれていたせいで、死後でも相当のべったり。下宿先がしばらく『永遠』となるのなら、四六時中いっしょだ。羨ましいけれど、現世にいなくてはいけない貫は激しく異性の相手でも嫉妬を覚えたのだ。
「今の時勢、レズビアンというよりも『百合女子』とやらがメディアでも流行っていますしね? 息子の恋のピンチでしょうか」
「十分、あり得るね」
「オッサン二人して、次世代の未来潰すような発言やめろ!!」
仕事でもプライベートでも頭は上がらないが、この先の恋愛ロードはとにかく前途多難な道筋があると自覚するしかなかった。
次回はまた明日〜




