第37話 ぽっちゃりギャルは魔法を使えない
お待たせ致しましたー
呉羽が一時的とはいえ、柘榴の同僚と言う形で同居することになった。本人は同室がいいと言い出すかと思ったが、意外とそうでもなく。部屋は別々が言いと自己申告してきた。
「そこはプライベートってもんじゃん? 女同士でもダメっしょ」
陽キャな性格をしてても、割としっかりしている。外見が少し派手でも礼節がしっかりしていないというのは、単なる勘違いだ。呉羽は彼女なりに弁えているところがある。考えてみれば、就職などをきちんと考えていた時期だったからか。柘榴より進路などの考え方はきっちりしていたのかもしれない。
「では、せめて隣に作ろうか?」
夜光はお得意の尻尾だけの動作で魔法を発動。一瞬壁が光っただけなのに、すぐ扉が作られてしまうという規格外技術。当然、呉羽は初めて見るから口をぽかんと開けた。
「はえ? なんもしてないのに、出来た??」
「夜光の場合、ちょっとしたアクションで可能なんだよ。犬の姿でも、尻尾動かしたりしただけで」
「んん? マスター?って、人間じゃないんだよね?? なんでわんちゃん?」
「力の消費が激しいからなんだって。あとで食事するときは、見せてくれる……よね?」
「うむうむ。呉羽くんが加わったのなら、私もきちんとおじさんとしてお披露目しよう!」
「へぇ? いくつくらい?」
「数えるのは疲れてしまったが、おそらく二千年くらい前から狭間には存在しているはずだよ」
「……なに、このわんちゃん? えらい奴はわかってたけど、神様??」
「いやいや、神など烏滸がましい。少し、管理を任されてるだけのおじさんさ」
「イケオジ?」
「めっちゃ、イケオジ。……変態だけど、エロい意味じゃないよ?」
「……柘榴くん? 君、実に失礼だと思わないかい?」
「師匠でも、ちゃんと言うとこは言うから」
はっきり言えば、犬の姿でも思いっきりショックを受けたのかがっくしと肩を落としていた。帰ってしまった浅葱もだけれど、ここの年配の男性は個性的過ぎるとよく学んだ。陸翔もなかなかに個性は強いが外見以外まだ性格は穏やかなので、どちらかというと無害だと思っている。
落ち込んでる夜光は無視して、笑いまくっている呉羽を連れて部屋の中に入ることにした。
「きゃはは!? 色々あったにしても、ザクロっちそのまんまじゃん!」
「……そう?」
ノブに手をかけようとしたときに、呉羽の言葉を聞いたので止めた。自覚はないが、小学生のときの記憶が一部曖昧なので。自分の性格についてもあまり自覚がないのだ。問い返せば、呉羽は涙を拭きながら強く頷いていた。
「そそっ! まあ、おばさんのこともあったからさ? 変わったのもあるけど……根っこだっけ? そこは全然! あたしが覚えてる範囲じゃ、今みたいに同級生の男たちにはがつんと意見言ってた! 嫌味いう女たちにもそうだったかな」
「……あんまり、覚えてない」
「無理ないって。あたしも身内亡くしたことはあるけどさ? やっぱ、親は違うよ。特に、ザクロっちはずっと見てたんだし」
「……うん」
慰めるだけの励ましじゃない。呉羽も自分が死んだから、考え方がいくらか変わっているのだ。それでも、お互いに根本的なのは死後間もないのであまり変化が無いらしい。とりあえず、部屋の中に入ってみれば、間取り自体は柘榴の方と大きな差はなかった。
「すっご~~! ファンシーだけど、おっしゃれ~~!! あたし、見た目ギャルっぽくしてはいるけど? 部屋の好みはこーゆーのが好きぃ!!」
「そうなんだ? なんでそんな恰好?」
「んー? 別にギャルデビューするつもりじゃなかったんだけど。好きなクリエイターさんが、こんな格好してるから真似してただけ。明るいし、まあ話しかけやすいっしょ?」
「かな?」
好みにとやかく言うつもりはないが、憧れなら納得がいく。柘榴は生前あまり興味はなかったものの、今は呉羽がいるので少しは興味が傾いていた。芸能人ほどではなくても、ふくよかな体型関係なく呉羽は可愛らしく見えるからだ。
「ふむふむ。嗜好品や食の好みなども、外見に左右されないと言われるくらいだからね? 柘榴くんには、貫くんの件で知っただろう?」
「……まあ」
夜光にも知られてしまったが、柘榴は貫のことをきちんと『恋愛対象』として認識している。外見については、今までの好みを考えれば範疇ではなかったのだが。恋と言うものは理屈でないことは、今回のことで理解した。感情を取り戻した事とか、必要以上に温情をかけてもらったこととか。彼の性格を知れば知るほど、柘榴は落ちてしまっていた。
母が父とどう出会ったなどは、あまり聞かされてなかったが。結婚して子どもを産む覚悟をする相手との生活は、今望みがある。貫の母親がその代表だから、死人で宝石の素材である柘榴にも希望はあるのだ。貫の気持ちは、まだわからない状態でも。
「あのにーちゃん? イズルっちだっけ? 実年齢はいくつなん?」
恋バナには興味あるのが女の子なので、呉羽も漏れなくそれに値していた。柘榴が宝石料理に興味を抱いたときのように、目が輝いている気がする。
「ん? いくつくらいに見えたかな?」
「んー? 刑事?でしょー? まあ、最低新卒以上だよねー? 二十四とか?」
「少し惜しい。二十五だ」
「わ~? うちら、十七前だったでしょー? ザクロっちって、もしイズルっちとつき合うとか結婚とかになったら……年齢操作とかどーなんの?」
「くれちゃん。まだ、貫とはちゃんと付き合ってるんじゃないんだから」
「いやいや、大事っしょー? あたしは無理だけど、ザクロっちは望みあるじゃん? マスターに教わった方がいいよ」
「うむ。なかなかにいい質問だね? 呉羽くんの考察は鋭い」
「へへーん?」
柘榴よりも順応が早い。これが陽キャの効果と言うものか。年月の流れはあっても、根本的なところは彼女もそのままだからか、懐に入るのが美味い。部屋の構造を夜光に説明してもらったあとに、魔法の適性を調べることとなったが。
ホールに戻って、簡単な宝石の飲み物から創り出そうと試してみたところ。宝石の欠片が、全く発動しなかったのだった。
「うーん? やはり、霊体に近いからか……魔力か霊力が馴染むのに、時間がかかるかもしれない。とりあえずは、『普通』の研修にしようか? 呉羽くん、生前のアルバイト経験などは?」
「えーん。魔法使えないの~? ザクロっちといっしょに合体魔法とかしたかった!」
「……くれちゃん。攻撃魔法とかはあたしも使えないから。あと、ここでの魔法は基本的に料理だよ」
「錬金術もしたかった~~」
「ははは。まずは、生活に馴染もうか」
従業員としては先行き不安でも、とにかく同居メンバーが増えたことが柘榴はやはり嬉しかった。
次回はまた明日〜




