第36話 お客様が同僚に?
お待たせ致しましたー
突然登場してきた浅葱が持ってきた書類の中身だが。パソコンで作成した文書だったので、普通に読むことは出来た。小難しい内容ではあったが、簡潔にまとめてみれば『呉羽の狭間滞在許可証』のようなものだったのだ。
タイミングが良過ぎるだろうと、にこやかにしている彼を見れば。柘榴の言いたいことがわかっていたようで、ゆるりと口角を上げていた。
「もちろん。一時的なものだよ? たまたまだったが、異変事故に巻き込まれた女子高生を目撃されたのだけれど……我々の捜査範囲に引っかかった。堺田くんは入れ違いでまだ伝達していなかっただけなんだよ? この女の子が、刻牙によって意図的に殺害されたことをね」
「くれ……ちゃんが?」
柘榴のように、殺害されたと。あの黒ずくめの集団は、同級生にまで手出しして一体何をしたいのだろうか。柘榴が素材となったのなら、柘榴だけを狙えばいいのに。祖母も、もしかしたら母もだけど。身内にしては血縁者ではない人間すら巻き込んで、そんなにも自分たちだけの願いを叶えたいのか。酷く横暴な行動に怒りと吐き気が起きそうだった。
「闇雲ではないにしても、柘榴ちゃんの関係者を殺害するのはなにか意図があってかもしれない。我々の情報網ではここが精一杯なんだ。奴らは執拗に紅霊石を狙う。ほかの稀少宝石もだけど、賢者の石に匹敵する宝石が『死者の身体』から精製される実証をしてしまったからね。血縁が無理なら、わずかな繋がりでも柘榴ちゃんの親しい人間を素材にしようとしているのかもしれない」
「その見解は、一部でも立証されてしまった。だから、呉羽くん自身の肉体は現世にあれど。魂の浄化は少しでもここで成された。変換の可能性はあるだろう」
「……面倒だけど、あり得るな」
「罪、というのは刻牙に負わされた呪術的な呪いでしょうね。自然死ではないですから」
「そこは既に調査済みだから、上に許可をもらえたんだ」
大人たちは色々意見を飛び交わせている。対処しないと、呉羽の魂も安全ではないとわかってもだ。柘榴の心は、叫びたくて仕方ない状態である。欲望のために、命を刈り取る躊躇の無い精神が、やはり理解出来なくて。悔しくて、自然と涙があふれて嗚咽が漏れた。
柘榴の嗚咽に、ほとんんどがぎょっとした表情になるが。抱きついていた呉羽はいっしょに泣いてくれていた。
「まだよくわかんないけど……ザクロっち、めちゃくちゃ大変なことに巻き込まれたんだね? あたしも、そうらしいけど……そんな、泣かないで?」
「だ……って、こん……な! あた……し、のせいでっ!!」
「ザクロっちは、悪くないよ。そりゃ、事情はあたしバカだから呑み込めてないけどさ? 今、ひとりじゃないじゃん? 犬ちゃんやゾンビとかヤンキー兄ちゃんもいるし。あたしも、居て良いってそっちのおじさんが許可くれたなら……いるから!」
「……いいの?」
「うん。生き返ることは多分無理っしょ? だったら、時間来るまでザクロっちとの友情戻す方がいーい!」
お互い、顔もしわくちゃになるくらい泣きじゃくっていたが。何年も離れていたのに、呉羽は相変わらず明るくて眩しい性格のままだ。それが今憤りに満ちた柘榴の心を解してくれる。同性の理由もあるが、生前からの友人が傍に居てくれることは、正直言って嬉しかった。もともと見送るつもりだったが、滞在出来る事情となったのなら一緒に居たい。
夜光の方を見ようとしたら、すぐ足元に座っていた。
「であれば、弟子にすると制約がややこしくなる。従業員の見習いくらいにしておこうか。その方が、万が一送迎になったときの手続きも軽く済む」
「え? ここ、で働くの?」
「そうとも。柘榴くんは少し特殊だが、君も魂の状態だし……魔法が使用可能になるかもしれない。それは素敵だと思わないかい?」
「へ!? ここ、ファンタジーの世界とか?」
夜光の説明途中で、呉羽は予想通りの反応をしたが。柘榴に抱きついたままなので、体格差の腕力が強くて少し痛かった。それよりも、呉羽は異世界特典のように魔法が使用出来るかもとさらにはしゃいでいる。
「く、れ……ちゃ! まだ、可能性、だから!!」
「えー? でも、憧れじゃん! ザクロっち、教えて~~」
「ははは。元気になれてよかったよ。浅葱くん、とりあえずこれくらいでいいかな?」
「そうだね? マスター殿の的確な対応には感謝するよ」
「俺は、来ても意味なかった結果かよ」
「情報収集は出来ただろう?」
「そうっすけど」
哀しみと怒りは収まってはいなくても、新従業員と友人が同時に出来たのは嬉しく思えてきた。刻牙との対峙は、最終的に避けられなくても。これ以上、己も他人も利用されたくない。強くなるために、修行を重ねることをさらに決意した。
「ではでは、陸翔くんの宝石料理は歓迎会の一品にしょうか? せっかくだから、ホームパーティーとしようじゃないか」
「わーい! パ―リー!!」
「僕たちは、残念だがお暇しよう。堺田くんも、調査の方が気になるだろう?」
「……っす」
じゃあ、と刑事ふたりは帰っていく。柘榴は少し残念だと思っていると、後ろからの強い視線に振り返る。呉羽がジト目でこちらを見ていたのだ。
「ザクロっち」
「な、なに?」
「……あのにーちゃん、とどーゆー関係?」
「へ?」
聞かれることだとは思っていたが、こんなに早いとは思わなかった。しかし、いっしょに生活するのなら誤魔かしは出来ないと言うことにする。ここで誤魔かしても、彼女にも柘榴の状況を理解してもらうためあった。
「あのね? あたし、変な身体になったのはわかる?」
「うん、そこは」
「その保護者みたいな感じ、って言えばいいのかな? あれでも刑事さんだから、護衛みたいなんだって」
「……それにしては、目が乙女だったけど?」
「はい?」
何を、と突っ込まれても顔の温度が高くなるのが自然と感じ取れる。もしや、の心の動きを指摘されて、反応してしまったと言うことは。無意識下のうちに、貫への感情が大きく変化していたのか。仮初の恋人ではなく、本当の恋人になりたいという感情も。
誤魔かしていたようなのか、自覚すると柘榴は頬に手を当てながらその場にへたり込んでしまった。生前、まともに初恋の感情も得ていなかったので大きく戸惑っているのだ。
「あーあ、ザクロっちの恋泥棒があのにいちゃんかー?」
「ははは。実は、護衛も兼ねて仮の恋人なのだよ? ある意味、問題はないのだがね? お互い、かなりの鈍感者だから……先は長いのだと思うよ」
「はえ? なんかの設定みたーい! てか、死人と人間は大丈夫なの?」
「彼はそういう両親を持つ身だからね? 先程のおじさん、浅葱くんが対策として選抜したのだよ」
「んじゃ、大丈夫か? 世の中、意外となんとでもなるー」
「ははは。たしかにね」
「……勝手に、進めないでぇ」
陸翔はパーティーのセッティングに動いているから助けてくれないし、柘榴は自覚した恋心とやらを受け入れるのに、それからかなりの時間が必要となった。
次回はまた明日〜




