第35話 友人だった子の未練
お待たせ致しましたー
「未練?」
「そう。くれちゃんが、さっきまでの姿だったのもだけど。ここに来たのは、事故死だけじゃないの」
「ザクロっちも?」
「……まあ、そんな感じ。今は修行中だけど」
「そうなん? やり残したことはいっぱいあるけど……どれだろ?」
友人だったこともあり、柘榴が代表して聞き取りをすることになった。まだ宝石料理は口にしてもらわずに、飲み物も同じように止めている。死んでいるので基本的に飲食は必要としないが、死にたてだと欲求が出てくるらしく。呉羽にも説明してから我慢してもらったのだ。
「そうだね。それはたくさんあると思うわ」
「ねー? 青春真っ盛りだったでしょー! 勉強はめんどくても、行きたい高校はとりあえず行けたのに~~、進学とか就職もちょっと考え始めたのにさ~?」
「一年なのに? もう?」
「ま、ね? ほら、ザクロっちは家の事情で転校しちゃったけどさ? あたしも、なんか作りたくなってさー? 絵本のコピーはうちのオカンが転校しちゃう前にしてくれたから……部屋探せばあるかも? とにかく、ずーっと探してたんだよ。絵でも文字でも、あたしが作れる何か!」
「……そっか」
誰かの役に立つためと言えば、母の心残りを少しでも減らしたい気持ちで自由研究にしただけなのに。他人でも心に響いたのなら、今となればよかったと言えるが。結果は、『死』を迎えてしまったのに叶わないこととなった。残酷なことでも、現実は変えられない。柘榴のような禁忌の存在は別格でもだ。
「でしょー? しょーじき、羨ましかったんだー。ザクロっちが、あんなにもすっごい絵本作れるの! あたしは絵とか文字とかは才能なかったし……出来たの、手芸とかだったからアート作品は作ってたよ? 趣味範囲だったけどね? オカンにも言われて、本腰入れたら?とかアドバイスもらったらさ? ザクロっちの顔浮かんだ。あの子みたいに、形に残せるのとかもし仕事で出来たらって」
「素敵な目標だね? たしかに、夢は潰えてしまったが……それが未練なのかな?」
呉羽の夢をばっさり切る夜光でも、柘榴は割り込まない。柘榴自身も、不意打ちの、犯行だったとはいえ『死』を一方的に迎えさせられた。それは呉羽も同じだから、死後の道まで違えさせてはいけないからだ。あのままでは、この子の魂は迷っていただけで終わらないのが、死後の掟というもの。
「ん~? 今思い付く限りは?? ところで、ここって一時休憩ポイント的なとこ?」
「間違ってはいないよ。しかし、導きが不明確……このまま、料理を食べても少し心配だね?」
「そなの? あ、食べたらザクロっちとお別れ?」
「そうだね」
呉羽もあまりショックを受けていないのか夜光に色々質問している。ただ、柘榴のことを訊くと異様なくらいに表情を歪めたが。そして、何故か柘榴の方に来るなり思いっきり抱きしめてきたのだ。
「くれちゃん?」
「やだやだやだ! 死んだからって、やっと会えたのに!? もうお別れ!!? ザクロっちもいっしょに逝けないの!?」
「それは事情が違うからなのだよ。彼女は私の弟子となり、この空間に今は滞在しなければ……言い難かったが、死以上の環境に巻き込まれる可能性があるのだ」
「……なにそれ。ザクロっちって……まさか、殺されたってこと?」
「うん……そう」
ここはもう言うしかないと、正直に言えば。予想していたが、締め付ける勢いで腕の力を籠められてしまう。それは、柘榴にはいやな痛みではなかった。
「そんなのもっと嫌!! あたしもここに居る!!」
「「「は?」」」
急な我がままに、夜光以外の全員が素っ頓狂な声を出してしまうのも無理ない。たしかに、罪ある存在として迷い込んでしまったものの、果たして滞在を許可されるかどうか。夜光は苦笑いしているけれど、貫の方はこめこみがひくつくような怒りを露わにしていた。
「あのな? 柘榴はしょーがねぇんだよ! 事情が事情だから、あの世に逝けねぇ。お前は違うんだ! 罪をここで清算してから、俺が送り届けるっての!!」
「んなこと言ったって、決めたんだもん! あたしは、ザクロっちに会いたかったんだから! 忘れようとか周りに言われたりもしたけど……夢とか決めるきっかけくれた恩人なんだから!! 事情ってなに?? 利用されるの? また?」
「「「「また??」」」」
呉羽は生前の柘榴について、何かを知っているらしい。柘榴の記憶にはない何かを。貫もさすがに反論を止めて、聞く姿勢に切り替えて取り出しかけた鎖を戻すくらいだった。
「なんか、思い出したのか?」
「……ちょっと、だけ。ザクロっちはあんまり覚えてないみたいだけど……おばさんがまだ生きてた頃に、あたしもお見舞いに行ったことがあるんだ。四年生の夏休みかな? 変なおっさんたちに誘拐されかけてた」
「え? あった?」
全く記憶にないが、呉羽が嘘を吐くような友人だと思っていない。咄嗟の嘘にしてはおかし過ぎるし、具体的だ。聞き返せば、呉羽はしっかり頷いた。
「あたしとトイレ行く時だったと思う。入口で待っててくれたザクロっちが、嫌がってる声聞こえて急いだら……黒いスーツ着てたおっさんらが無理矢理連れていこうとしてたんだよ。他にナースさんとかいなかったから……大声で叫んでみたんだけど。ザクロっちはあたしに向かって投げられた。キャッチしてくれたのは、高校生くらいのお兄ちゃんが近くにいたんで間に合ったの」
「衝撃による軽い記憶障害かもしれないね? 呉羽くんの証言が確かなら、柘榴くんを狙う連中はその頃から既に動いていたのか……」
「……ざけんな。抵抗しにくいガキをかよ!」
「じゃあ……もしかしたら、お母さんも狙われてた?」
「可能性は、ゼロではないね」
刻牙がその時期から動いていたとしたら、母の死因なども意図的に仕組まれていたかもしれない。祖母でさえ、時間をかけて利用しようとしていたくらいだ。それくらい、非道的なことを平気で実行する連中なので、十分あり得る。
歯を食いしばりそうになるが、抱きしめられたままの呉羽の腕はまた強くなった。
「ね? たしかに、邪魔だろうし……あの世とか行かなきゃでも。ちょっとだけなら、ザクロっちといっしょにいていい?」
「っつっても、許可出せるか? マスター」
「うーん。これはさすがに、管理人の私個人で決めていい内容ではないからねぇ?」
「と思って、おじさんの登場だよ?」
「「「わ!?」」」
タイミングが良過ぎるくらい、音もなく浅葱が店の中に居たのである。書類を持っているのか、すぐに柘榴の前に出してくれたが。
次回はまた明日〜




