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第34話 新規お客様の来訪③

お待たせ致しましたー

 姿が戻ったらしい女子高生の客人だが。自分の手足を確認してから、店の中をきょろきょろと見回していく。その目には、好奇心と混乱が入り混じっているだけで、嫌悪感はないようだ。陸翔(りくと)の姿を目にするまでは。



「な、なに、あんた!?」



 柘榴(ざくろ)が彼を見た時と似た反応になってしまうのは無理ない。男女問わず、最初は奇異の目を向けてしまう出で立ちなのだから。にこやかな笑顔をしていても、首が異常な曲がり方をしているゾンビがいるのは正直怖いものでしかない。



「……初めまして、調理人の陸翔と申します」



 慣れている陸翔は、女子高生が驚いても気にせずに自己紹介していた。丁寧な対応と話せると思わなかったのか、彼女はぽかんと口を開けてしまったが。



「イケボ!? え、何? それコスプレ?? どーやって首とかいじってんの??」

「いえ……自前ですが」

「? なんで生きてんの?」

「生きてはいないのだよ、お嬢さん。君を含めて我々は『死者』だ」

「は? こっちはおっさんボイスでしゃべる犬ぅ?? てか、あたし……死んでんの? そっちの女の子も??」

「は、はい」



 順応が早いのか、然程驚いていない様子。むしろ、この状況を楽しんでいる感じだ。柘榴も似た感じだったが、彼女の方が早い気がする。夜光(やこう)の発言を受け入れても、椅子に座り直して考えるのに腕を組んでたくらいだ。



「そっか? なんとなく思い出してきた。工事の近く歩いてたら、なんかでっかいもんが飛んできて……当たったわ。頭にどーんって」

「事故死……?」

「多分? いきなりだったし、なんとなくしか覚えてない。……あれ? あんた、見覚えある気がする」

「え?」



 客の死因を聞いていると、何故か柘榴の顔をもう一度見てから不思議なことを言い出した。こちらは初対面だと思っていたが、彼女からすると違うようだ。思い返してみても、交友関係は希薄過ぎたせいで同級生の顔など覚えていない。特に、母の死と転校をきっかけにそれまでのクラスメイトすら、顔の記憶が朧げなのだから。


 混乱している柘榴に対し、女子高生は凝視するように見つめてくる。焦げるくらいの視線だったが、何か思いだしたのか手を叩きだした。



「わかった! ザクロっちだ! 自由研究で絵本賞取った!!」

「そのあだ名……小学校の?」

「アハハ! お久~~! こんな体型と再会だけど、あたしだよ。井波(いなみ)呉羽くれは

「くれ……ちゃん??」

「そうそう。思い出した?」

「クラスメイト……だったのかな?」



 夜光の質問に、なんとか頷けたのだが。柘榴は『くれちゃん』との再会を素直に喜べなかった。体型は年月の関係で変わるのは仕方ないにしても、どうして罪ある状態で事故死してしまったのだろうと。狭間に迷い込む魂の確率は、実は意外と低いのだと夜光らに研修で教わったばかりでも。何故、こんなにも身近な人間たちがここに迷い込み、冥府への切符を簡単に手に入れられないのだろうか。



『おめでと! ザクロっち!!』



 母が亡くなる前の夏休みに。表彰式で受賞したあと、まだ年相応の体型でポニーテールが似合う可愛い女の子だった彼女は、柘榴とのスキンシップを大切にしてくれていた。喜ぶ時は喜んで、泣く時は泣く。柘榴よりも感情には機敏な子で、クラスでも頼られる同級生だったが。転校をきっかけに、柘榴から連絡を途絶えてしまったことで、あの病院の土地に戻る前も何も伝えなかった。


 なのに、何故死んだあとのこんな場所での再会なのだろう。呉羽の死因はまだしも、罪を背負う意味が分からない。



「そっか~。連絡取れなかったの……先に、死んでたから?」

「まだ……最近、だけど」

「お母さんそっくりだったから、最初ザクロっちなんてわかんなかったよ。けど、そっかぁ……お互い、死んじゃったんだ」

「……うん」



 母の死が無ければ、お互い生きていたらそのまま友だちでいただろうに。運命とやらはなんて残酷なのだろう。死への運命は平等でないにしても、お互いまだ未成年の子どもだ。病死ではないし、ましてや柘榴は『殺された』。それを伝えていいのか、悩んでいると。店の外から覚えのある『何かが』肌を通じて感知出来た。殺気はないから、相手が誰だかすぐに推測出来る。夜光を見ると、いつもの端末を既に操作している最中だった。



「おい。今度も柘榴の関係者だって?」



 やはり、入ってきたのは(いずる)だった。くたびれてるスーツは着てないが、今日は少し派手な色合いな気がする。ネクタイが、果物の柘榴のようなはっきりした赤いものだった。



「ヤンキー? ザクロっち、あの兄さん誰?」



 呉羽にも貫の見た目は刑事に見えないので、ここはちゃんと説明することにした。



「……特殊な、刑事さんだよ。くれちゃんのことで、そっちのマスターが呼んだみたい」

「あのナリで刑事?」

「……色々文句言いたいが、お前は柘榴の同級生だったやつか?」

「ん。いちおー小学校のクラスメイト。幼馴染み……にしては、付き合い短かったけど」

「そーか。んで、その姿ってことは宝石料理食ってないな?」

「へ? これ、宝石で出来てんの!? マジで!!?」

「僕が調理しました」

「りっくんだっけ? ゾンビの見た目なのに、すっごー! そんけーするぅ!」

「どうも」

「……死んでんのに、順応早いな? 柘榴の同級生なのは、納得だ」

「貫、なんか文句ある?」

「怖い顔向けんな!?」



 送り出しはまだにしてもらうことにして、呉羽に宝石料理を食べてもらう前に。未練の罪に関係する経緯を、紐解くところから始めることになった。

次回はまた明日〜

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