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第30話 彼女候補は逸材過ぎる

お待たせ致しましたー

 (いずる)は驚く以上に『驚愕』の感情が体中を駆け巡っていた。柘榴(ざくろ)自身が起こした、奇跡に等しい魔法の展開を目の当たりにして、異常な感動と興奮を覚えたからだ。


 今、ほとんどの者たちが驚いている中で、柘榴は自分で生み出した紅霊石(こうりょうせき)の集合体となった一枚のチョコチップクッキーなる赤い食べ物を美味しそうに食べていた。



「美味し~~! サクサクほろほろ~~。チョコもクッキーも甘さちょうどいい! 見た目は真っ赤だけど……もぐもぐ」



 通常であれば、異質だと思うそれを躊躇いもなく口にしていることもだが。それを『創り出した』ことだけでも、奇跡に等しいのに。彩葉(いろは)が奇天烈な魔法の手本を見せただけでも、柘榴はそれを軽く上回る高等魔法を展開させたのだ。本人は全く無自覚に、そのセンスを遠慮なく披露した。狭間の管理者である夜光(やこう)が幾らか手本を伝授しただけで、この力量。これまで魔法の技術とは縁がない生活をしていたはずなのに、先祖が絶滅種指定の種族だったせいだとしても。ここまでのセンスは、母の言う通り『イメージ構築』の回路が豊か過ぎるからか。


 綺麗に完食した少女のセンス力などに、貫は脱帽したのだ。保護対象として、一応仮の恋人にはなったものの、とんでもない逸材を素材にされたものだと。



「……なんなん、あの子? ほんまに、素材になり立ての子なん?」



 母の方も同じ受け止め方をしていたのか、ぽかんと口を開けていた後に息子の自分に聞いてきた。かなり長い間、素材として顕現している自身と比較しても奇才と言えるセンスにこちらも脱帽していたようだ。



「ふふ。だから、私が弟子にしたと言っただろう? 柘榴くん自身の想像力の豊かさは、ある意味君以上だ。現世の情報量の坩堝に染まっているようでそうでない。母君も健在であれば、稀代の担い手だっただろうが……うまく、娘御が引き継いでいたようだよ」



 夜光はこの結果を予測していたのか、とても得意気に弟子の力量を自慢しているが。転送経緯はともかく、柘榴をどうやって狭間に引き込んだのか。可能なのは、今は犬の姿でしかない稀代の魔法使い殿だけだ。普段は惚けているが、人情の厚いこの当人は流れ人を見捨てはしない。かつての、自分の過ちからだと浅葱(あさぎ)は以前に貫に教えてはくれても、この犬からは直接聞いていないのだ。



陸翔(りくと)はともかく、女魔法使いの異名を継がせる気か?」

「さてさて、それは柘榴くん次第だよ。柘榴くん、そんなにも君の石で出来たクッキーは良い味なのかな?」



 貫に意味深な台詞を投げてから、夜光は魔法の興味に移って柘榴に駆け寄っていく。柘榴も感想を言いたかったのか、足元に来た夜光の目線に合わせるのにしゃがんでいた。



「うん! 紅茶もいいけど、ちょっと甘めのカフェラテとかも合いそう~! マスターの手にかかれば、お手の物かな?」

「ペアリングの提案もとは、柘榴くんはセンスがあるねぇ? とはいえ、その紅霊石は基本的に君以外の者はあまり口にしない方がいいけれど」

「万能薬だから?」

「それもあるけれど、中毒性が高いからだよ。貫くんは彩葉くんの息子だから、耐性は我々より上でもね」



 当たり前の説明をしただけだろうが、貫は何故か酷く胸を撃たれた衝撃を感じた。外傷などもないから、心因性の衝撃。つまりは、鼓動と同じだ。とすれば、柘榴の石を一部分でも口にした反動かとは思ったが。横にいた母が変ににやけた笑顔で、息子の自分の顔を覗き見ていたのに気付く。なんとなく、言いたいことはわかるがここは否定するしかない。



「……あのな。柘榴が、礼だって言うから受け取ったまでだ」

「そないなこと言って~? あんなに魔法の素質高い子の料理やろ? 石関係なく、めっちゃ美味かったんちゃう? 下手すると、億越えの料理やないの」

「……美味かった、けど」

「変なアレンジしとらんよな?」

「……後半は」

「あほんだら!!」

「い゛!?」



 正直に言うと、貫の脳天に叩きつける勢いで殴られた。本気ではないものの、やはり伝説の宝石で料理した食べ物を口にしたよりも。それを台無しにするような、意地汚い食べ方に素材としても母親としても、沸点が爆発したのだろう。その反応をされるので、あまり言いたくはなかったがここまでの威力で殴られるとは思わなかった。そこは、死人ということもあり硬度も段違いだ。


 反論したいところだが、母の次の言葉があって言い返せなかった。



「あんたの好みに、今更ケチつけるのは黙っとったけどな!? なんで稀代の石に対しての敬意とかないん!? その喰い方はやめぇや!!」

「……わりぃ」

「ごめんで済むかぁ!? せっかくのうんまいもんを、そないなマナー悪い喰い方せんとき! 柘榴ちゃん、引いてたやろが!」

「……あー」



 指摘されたので改めて振り返ってみたが、一般的な嗜好と比較しても酷いものだった。しかし、食の好みはやはり変える気はないと行き着く。あれはあれで癖になる美味さだったから、出来ればもう一度実行したい。柘榴は許してくれそうだが、母親のいる前では絶対したくないと心に決めた。下手すれば、死人とのハーフでも殺される予感がするのだ。



「え? あたしは今気にしてないけど?」



 とそこに、柘榴からの爆弾投下発言。貫の胸を貫いたかのような衝撃を与えてきた。直接的な痛みはこちらもないが、鼓動が高鳴り出し、痛いぐらいに早鐘を打たせるのだ。



「へ? 柘榴ちゃん、うちの子の喰い方ええのん? 変やったやろ??」

「まあ、びっくりはしましたけど。個人の好みですし、今は別に。むしろ、美味しそうに食べてもらえたのが嬉しいです」



 そこへ、さらにただでさえ可愛いと思っていた顔立ちに、満面の笑顔のオプション。庇護対象や保護命令などの、きちんとした肩書などがあったはずなのに。貫は種族関係なく、陥落してしまった自覚をしたのだった。


 柘榴のことが、ほとんど一目惚れだったことも同時に自覚したのである。職権乱用はしたくないと、すぐに自分に言い聞かせて事態解決を遂行すべく、全力で『刻牙(こくが)』を壊滅する目的は果たそうとも。もともと、母のこともあったのでそこは刑事になってからの目標ではあった。



(無謀な恋にならない、だけマシか)



 歳の差はあれど、己が異形種族のハーフであることが、現時点では救いだったとこちらもようやく受け入れることが出来たのだ。今までは、コンプレックスでしかなかったのに、つくづく単純思考だとも。


次回はまた明日〜

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