第29話 魔法訓練③(自己吸収検証)
お待たせ致しましたー
「めっちゃ驚いたんやけど……生で、紅霊石の財宝伝説見た気分やわぁ。うちのなんて、大したことないって思う」
「今回ばかりは同意するぜ。……親父から聞いた時は、お袋のも奇跡とされてたらしいのによ」
「敵わん敵わん! 賢者の石とされとるもんと比較したらあかんわ」
厨房には、まだ石たちは山積みにしてある。吸収出来れば、下手に動かさない方がいいと夜光が指示したためだ。彩葉は驚いたあとに、柘榴と石を交互に見ていく。そして、納得したのか柘榴を手招きしてきた。
「はい?」
「柘榴ちゃん、ぶっちゃけサブカルの知識どれくらいあるん?」
「へ?」
「真面目な話や。マスターがあれだけオタクやろ? 魔法とかの術関連は、結構想像力……イメージを錬成する思考力が必要やねん。柘榴ちゃんは、見た感じ想像力豊かそうやから、ちょぉ聞きたかったんよ」
「あ、はい。母の家に伝わってた、狭間の実録を絵本にしたくらいには」
「なんなん、その可愛い創作活動! 詳しいことはあとやけど……そんなけ力量ありゃ大丈夫やな」
「マスターも言ってた、魔法のイメージ力と似てます?」
「大雑把にはな? ほんなら、魔法の構築については実行済み?」
「はい。この制服の作成や、一部の宝石料理は創りました」
「十分や。ほな、説明したる」
というなり、自分の腕を軽く爪でひっかき。流れ出たのは鮮やかな朱色の血だったが、噴き出すことなく紅霊石の華のように『形』になっていく。出来上がったのは、紅葉の葉の形。厚みがあり、細工菓子のごとく美しく出来上がった。
「綺麗……」
「これ、このまま食えるんやで?」
「はい?」
「うちの素材としての名前は、『彩香晶』言うもんでな? 直接食べられる希少種の宝石や。柘榴ちゃんのように、『血』が関係しとる。先祖返りやなくて、人造的に造りかえられたんや。殺されたってとこは、柘榴ちゃんと同じやさかい」
「……あいつらに、ですか?」
経緯は、話を聞くにほとんど同じだったようだ。構成員は年月のせいで違っていても、手口は全く同じ。囲んで、無抵抗な状態にさせられて一突きで殺された。
ただし、奴らの誤算は柘榴と同様に狭間で保護された事。転送の経緯は未だ不明でも、何かしらの事情で彩葉は貫の父親である刑事に助けられた。そこからは、冥府に逝くことも出来ない身体ということで、特別に『生かされて』いる。彩葉の身体は、偶然にも成育する機能は一部残っていたので貫を身ごもることは出来たとか。それでも、一定の時期で成長は止まってしまい、今の外見もまま生活を続けているそうだ。
「恨んだ時期もあったで? ダーリンと仲良く年取れんってのも。今の現世は老化が緩やからやもんで、なんとか誤魔化せてるけどな?」
「……あたしも、もしそうなったらあり得るんですよね?」
「ないとは言い切れん。けど、柘榴ちゃんは血統が血統や。違うかもしれんから、残念がるのは早いで。んじゃ、うちの吸収する過程をその目に焼き付けき?」
持っていた彩香晶を鮮やかな光に包ませたかと思えば、一瞬で砕けてしまい、その破片を無数のシャボン玉に変身させる。そこからどうするかと思えば、自分の身体にまとわせた。着物も身体の一部かと思わせるくらい、服越しでも身体の中に潜り込んでいく。そのまま、何もなかったかのように元通りになった。
「……そんな感じで?」
幻想的な光景に見えなくもないが、たしかにオタク知識とかもないと構成しにくい魔法だと感じた。鸚鵡返しのように聞けば、彩葉には苦笑いされたが。
「参考にもならんやろうけど、簡単に言やぁ『やりやすいようにする』っちゅーことや。柘榴ちゃんの体の一部を自分ん中に戻せばいいねんけど。あんたがどうイメージするかで、石は自分の血やから戻って来るんよ。今のは、割と簡単にしたつもりやけど」
「ど・こ・が・だ!?」
「あだ!?」
簡単なのだろうかと疑問が浮かんだところで、同意していたのか貫が母の脳天にチョップを仕掛けていた。痛みはないのか、彼女は頭を軽くさすっていただけに終わるが。
「演出し過ぎだろうが!? 飲み込むとかその程度にしろよ!?」
「せーっかく、魔法覚えたんなら派手にせな?」
「緊急事態なんだから、簡略化しろ!」
「その割には、柘榴ちゃん自身はイメージ出来たみたいやない?」
親子のじゃれ合い最中に、彩葉の言葉通りの状態にはなっていたのだ。柘榴の脳内に、魔法の流れを構築するイメージが瞬時に出来上がっていく。今回は自分の中に戻すだけなので、詠唱は必要ない。短い言葉一つでいい。
その言葉を紡いだ瞬間、全部取り込めばいい。たしかにイメージは重要だ。柘榴のここ数年の生き方は創造力に乏しいものばかり。参考例を提案してくれたのは助かったから、それを模倣していく。
【還れ】
紅霊石に向かって投げつけるように告げる。幻想とは程遠い、命令形の言葉でしかないが効力は強いだろう。血を出したのは柘榴の落ち度でも、柘榴の身体から勝手に形になったのは石の方。なら、戻ってこいとコントロールするように命令したのだ。
「ほぅ……?」
夜光の感心するような言葉と同時に、山積みなっていた石が溶けあうように重なり合っていく。溶けて交わり、そしてどんどん形が縮まるように変形。柘榴は詠唱の代わりに、イメージを通じて命令を書き込ませた。砕いて取り込むのも悪くないが、一瞬で吸収するのに縮小化がいいと思ったのだ。食べるのも悪くないが、元に戻すのなら小さいほうがいい。小さくなった石は、やがてひとつの『クッキー』に形を整えた。
出来上がったそれを、今回は自分で食べるのに引き寄せてみて。手に取ったときは、外見は普通のチョコチップクッキー。色だけは真っ赤ではあっても、外見はほとんどそれで。迷わず口に入れれば、さくっと歯応えのいい美味しいクッキーの味だった。
「おいしー!!」
自分の血で出来た食べ物でも、やっぱり宝石のご飯は美味しかったのだ。
次回はまた明日〜




