第26話 新生活の再スタート②
お待たせ致しましたー
朝食用に用意してもらった宝石料理は、正直美味揃いなのは間違いなかった。けれど、美青年と美中年に囲まれての食卓は緊張し過ぎてよろしくない。顔の良過ぎる男性との接点が無さ過ぎたために、免疫と言うものがないのだ。
人型の夜光は饒舌に宝石料理の詳細を説明してくれたが、犬の姿のとききから声が良過ぎるせいで内容が素通りしそうになる。犬の姿は慣れてきたつもりだが、大人の人間だと芸能人かなにかの解説者みたいで直視しにくい。それはゾンビでなくなった陸翔も同じだ。はっきり言って、目の毒過ぎる。保養とかになるかもしれないが、柘榴は貫の奇天烈な食べ方の方が安心出来る気がした。疑似彼氏にはなったが、彼の食事風景はまだ『普通』に近い。だから、安心して見ていられたのだ。
「であるからして、アクアマリンは水の浄化を中心に作用するのだよ。……上の空だねぇ?」
「誰のせいだと」
「うむうむ。私たちの外見だけで物事の判断はよろしくないよ? 所詮は、表皮と同じことだ」
「僕も、この外見はマスターと比較したら普通ですが」
「ど・こ・が!? 陸翔のそれが一般的なら、他は皆モブよ! 芸能人が脇役は役の関係だけでしょ!?」
「とは言うが、演者の選別は顔だけではないと思うよ?」
「そうかもだけど、あなたたちみたいな部類は宝石で例えるなら……サファイヤとかでしょ!? 日本人とか好みの石だし」
「それは光栄だねぇ?」
「僕は、そんな大それた価値ないと思いますよ」
「陸翔はもっと自覚して! 生きてた頃、モテてたでしょ?」
「まあ、町娘のお嬢さんとかが取り合いするような言い合いはされましたが」
「ほら! 江戸時代でもモテる顔なんだもん!」
とかなんとか主張していたら、ぽんっと軽い音が立ち。二人とも、元の姿へと戻ってしまった。どうやら、本当に魔力消費が激しくて持続時間が短いらしい。
「ふむ。少し伸びたが、三十分程度が限界かな?」
「僕も、宝石料理食べながらなのでこれくらいですね……」
「……燃費悪いのね」
「変身能力と言うより、憑依に近い魔法だからね? 私はともかく、陸翔くんの場合は」
「魂の上書きのようなものなので、精製よりも魔力消費が激しいのです」
「禁忌レベル?」
「ギリギリセーフの域だがね? 秘術とも言い難いが」
わざわざ柘榴のためとは言え、随分と効率の悪い魔法を使わせてしまったようだ。それなら、陸翔には随分と無理をさせてしまった。夜光にも、体調を左右させる技術だとわかると少し申し訳なく思う。
「じゃあ、毎回食事しなくていいよ?」
空腹は特にないが、たしかに気力は満たされる気がした。ただ、そんな無茶までして柘榴の研修を進めて欲しくない。もっと、普通でいいと思うのだ。
「何。我々も訓練する機会と思えばいい。せっかくだから、おじさんは鍛えてみようと感じたのだよ」
「僕も、いい加減進歩したいですしね」
「無理してない?」
「いや?」
「ご心配なく。柘榴さんとの訓練と思えば大丈夫ですよ。むしろ、今までがサボりすぎでした」
「なら、いいけど」
出来るだけ無理強いさせたくないが、本人たちが問題ないと言うのなら頷こう。それ以降はそのままの姿で、食器の洗い方などを教わったりした。ここも現代技術を取り入れているのか、魔法よりも業務用の洗浄機だった。ただし、動力源は魔力なのに変わりないそうだ。
「送迎のお客は、毎日来るわけではないからね? 柘榴くんと祖母君殿が少々立て込んだくらいだ」
「普段は何してるの?」
「基本的に、宝石料理の研究が多いとも。私たちは何百年存在していようが現世の存在ではない。魂に適合する料理の精製に努力は惜しまないとも」
種別に食器を片付けながら、収納場所などを教わる。魔法を使わずに自分の手足で行動するのは、生前と同じようにすべきだと夜光が説明してくれた。家事などは、ほとんど一人暮らしだったから出来なくはない。それでも、仕事としては初めてなので色々と覚えていく。
「試作品とか、どうするの?」
「そこは普通に食事をしていたが、量が多いと宝石に戻す方法を取っている。毎回し過ぎると、これも魔力消費が激しいから半々と言ったところかな」
「物語とかなら、なんでも出来ると思ってたわ」
「消費したものを取り戻すのは、意外と難しいんですよ。なので、ケースバイケースでなんとかしているだけです」
「普通、だね?」
「意外と思うかね? 方法や生者か死者。種族の違いだけで、然程違いはないのだよ。神が万能だというのはまやかしさ。何事も、摂理というものが存在するんだ」
「おお、授業みたい!」
「むしろ、仕事なのだよ。柘榴くん。ここは社会勉強の延長線と思ってくれればいい」
「カッコいい響き!」
高校卒業後は、医学部か看護士の専門学校に進学を考えていたが。行く理由がなくなってしまったかわりに、勉強に追われない生活もなかなかに楽しい気分だった。それに、母との思い出が空想ではなく実在することとわかった今では。この生活のスタートが気に入りかけていたのだ。たとえ、同じ死者になっても、半永久的に存在出来て成長も可能性が高い。
脳裏に貫の顔が浮かんだが、仮でも彼氏が出来たのだからと嬉しい感情にしておく。単純に初彼だから浮かれておけばいいと。そうでないと、同意してくれている彼にも失礼だと思ったから。
「さて、貫くんもそう毎日来訪出来るわけではない。だが、柘榴くんの魔法訓練も少し取り入れていこうと思う。調理技術ではなく、実戦訓練。主に、防御結界とやらだね」
「戦う、じゃなくていいの?」
「柘榴くんの場合。紅霊石の素材だから、特性を活かそうと思うんだ。あの万能の宝石は、快癒だけでなく『守護』の力も非常に強い。君自身に手出しされにくい強力な結界を張る訓練はどうかなと」
「ほら、現世でも平成あたりに流行った文言があるじゃないですか? 『攻撃は最大の防御』ともありますが、武力も大事ですけど防御力も養っていて損はありません」
「……二人とも、結構オタク?」
「ファンタジックな世界にいるだけで、柘榴くんもその仲間入りさ!」
自信満々で言い切るのには、少し苦笑いしてしまう。生前であれば、否定し切っていたものだが。随分と、非現実的な世界に馴染んだ思考回路になってしまってる自覚があるからだ。
けれど、柘榴はそれを拒絶しない。やはり、心底楽しんでいる感情は無感情ではなく『子ども』そのものだった。
次回はまた明日〜




