第25話 新生活の再スタート①
お待たせ致しましたー
死んだとは言っても、死後の新しい生活は一日でもなかなかに濃い時間を過ごせた。
そして、睡眠とやらは特に必要ないのは死者特有のものではあるが。気分的に休息を取る行為としては、割と行われているそうだ。普段はトイプードルに擬態している夜光も、ゾンビ擬きの陸翔もそれは同じで。休息ついでに目を閉じて休む行動は、夜間にスケジュールとして組み込まれていた。
柘榴は特に、まだ死後一日なので生活リズムを慣らす必要がある。ベッドが部屋に用意されていたのもそのためだ。夜光の説明の中には、実験内容もあったので試しに寝て欲しいと言われて普通に就寝してみたら。
「……普通に寝てた」
目を閉じて、意識が沈んで。浮き上がったら、外から朝日が差し込んでいた時間に。狭間の天候循環は、割と現実世界と同じにしてあるからと、日照時間や日の入りはそっくり同じままだとか。ただし、時間の経過は非常に長く。現実では数分程度が、ここでは一時間経過となるので時差には気をつけなくてはいけない。
貫や浅葱は数えきれないくらい行き来しているため、体質は今のところ大丈夫だそうだ。ただし、通常の生者が迷い込むと場合によっては死ぬ恐れがあるため、心霊課の刑事などが頻繁に行き来している。
まだ遭遇していなくても、うっかり迷い込む神隠し現象は割と頻繁にあると貫はぼやいていた。冥府に送迎する仕事は、件数が凄く少ないので普段はそちらのパトロールが多いそうだ。
「んー? とりあえず、血が通ってるから普通の死者じゃない……せい?」
稀少石の素材だから、特別性かもしれない。貫の母親も、似た存在だと知ったのである意味第二の人生を歩んでいる状態。とくれば、貫ともし『本当の意味』で交際を続ける可能性が出れば、柘榴は生き返らずとも結婚なども出来るということ。成長も本当に出来るのなら、老化も気にしなくていい。
特異体質になっても、普通の幸せを過ごせるのか。なんて考えたが、貫の気持ちを無視して夢見てはいけないからと、一旦考えるのをやめた。感情を取り戻したことで、昔のように想像力まで豊かになってしまった。夢見がちな期待は止そう。母の死以上の経験をしてしまったが、下手に関係者に迷惑はかけたくなかったからだ。柘榴は、紅霊石という魔法の宝石を生み出せる素材になったから、命を奪って素材にした集団以外にも狙う輩は多い。
自衛能力をもっと身につけて、強くならねば。世話になっている夜光たちにも、傷ついてほしくない。
「朝ご飯とか、どうしてるんだろう?」
宝石料理は一度食べたが、それを口にしたあとは特に空腹感を感じない。けど、柘榴は『永遠』の研修生になったのだ。仕事の研修はこなさなくちゃいけないので、他の宝石料理も試作は食べなくてはいけない。それを普段の食事にするのなら、きちんと食べなくては。
着替えも、制服に袖を通す。汚れなどは魔法で落とす技術を寝る前に教わったので、今は新品同様の仕上がり。練習も兼ねて、パジャマや下着も全部したら同じだった。浅葱に買ってもらった衣服は多いが、着る時に使おうと仕舞っておく。簡単に片付けもしてから下の階に行けば、既にいい匂いがしていた。
「おや? おはよう、柘榴くん」
「おはようございます、柘榴さん」
「おはよー、マスターに先輩」
まだ仕事前だが、切り替えるために夜光が指示したのだ。昨日みたいにプライベートの時間は構わないが、仕事中は呼称よりも役職名でと。夜光は最初に言われた役職だが、陸翔は兄弟子でもあるので『先輩』だ。学校に通っていた頃は、まともに他人と交流してこなかったために、部活動もしていなかった。だから、少し呼ぶのが新鮮で楽しい気分になる。
ホールスペースの一角には、既に料理がセッティングされていた。色合いからして、おそらく宝石料理。カラフルなのと、キラキラが凄すぎて目がくらみそうだが慣れなくてはいけないし、作れるようにならなくてはいけない。そもそも、まだ二回しか調理していないのだ。
「せっかくだから、柘榴くんの研修も兼ねて宝石料理の朝食にしたのだよ」
「色合いや料理の種類を覚えるのに、いいのではないかと」
「こんなに?」
「ああ、カロリーなどは気にしないでくれたまえ。『我々』には無意味だ」
「それもありますが、宝石料理は『空想料理』とも言いますので、実質的な物量は無くなるんです。だから、貫さんも山盛りで食べられるんですよ」
「あんなに美味しいのに?」
色合いはともかく、食感と味は現実の食事以上。なのに、魔法の食事だからと太ることを気にしなくていい。都合が良過ぎるんじゃないかと思ったが、魔法だからと納得することにした。
「では、手を合わせて」
「「いただきます」」
給食の合図みたいだが、三人なので気にしない。それに、誰かときちんと食事するのは久しぶりだから嬉しかった。陸翔もだが、夜光はどう食べるのかと気になっていると、いつのまにか美中年に戻っていた。びっくりし過ぎて、オレンジジュースを噴き出しそうになる。
「ケースバイケースとも言うだろう? 意地汚く食事するわけにはいかないとも」
「……せめて、前振りはほしい」
「ははは。驚きはスパイスだとも」
「僕も、ちょっと」
陸翔も何かするのかと思って、振り返れば。一瞬だけ光って、彼の姿が彫りの深い黒髪ロングの美青年に様変わりした。これには思いっきりツッコミを入れるしかない。
「なんで、そっちじゃないの!? びっくりした!!」
「この姿になるには消費魔力が大きいんですよ。普段のあれは、死後の姿なので」
「私の場合は、種族関係だから違うがね」
「……もう、爆弾展開多過ぎ」
芸能人ばりの男性二人に囲まれたが、中身を知っているせいかときめきは意外と少なかったのにも疑問に思ったが。とりあえず、魔力補給も兼ねているからと食事を再開することとなった。
次回はまた明日〜




