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第24話 ヤンキー刑事が依頼を寄越す

お待たせ致しましたー

 ただし、(いずる)柘榴(ざくろ)の様子を見に来たわけではないようだ。浅葱(あさぎ)にはきちんと指示を出されたみたいで、辞令が記載された一枚の紙を柘榴に差し出してきた。ちょっとだけシワになっているから無造作にジャケットに入れていたのだろう。もともとヤンキー顔のなので不機嫌になるのは多いが、今回は苛立っているように見えた。


 浅葱からの指令にしても、何か嫌な内容なのだろうか。とりあえず、受け取ってから中身を見るのに封筒を開いた。



「……は?」



 柘榴は、中に入っていた浅葱からの指令もとい『依頼文書』を見て目が飛び出そうになった。貫の不機嫌な理由がよくわかるくらい、柘榴もそれなりに共感出来たからだ。


【柘榴ちゃんへ


 堺田(さかた)くんが怖くないと言っていたから、君の専属護衛に彼を任命しよう。あと、君の交友経験を養うためにも……堺田くんを『仮の恋人』にしてほしいんだ。安心して欲しい! 堺田くんは今生一度も恋人がいたことがないから、お互いいい機会だ。死者とか生者関係なく、気軽にお付き合いしてほしいんだよ。足長おじさんからのサービスと思ってくれ!!】


 などと、あの個性が強い中年刑事は、貫と柘榴にとんでもない依頼を寄越してきた。まだ出会って数時間程度の男女。しかも、柘榴は死者なのに護衛はともかく『交際相手のお試し』などと押しつけてきた。貫がさっき喚いたのは、この辞令への足搔きだろうが、柘榴は正直大人の思考回路がわからなくなってきた。


 まさか、物語みたいな筋書きを実行する大人が本当にいるとは。貫は刑事だから仕方ないと思うだろうが、無茶苦茶過ぎだ。だんだんと、あの穏やかに見えて結構お茶目な足長おじさんに苛立ちを通り越して、呆ればかり感じてしまう。



「ほうほう? いい機会ではないか。柘榴くんのリハビリにもなるし」

「いいのではないです?」



 そして、外野になりかけていた夜光(やこう)陸翔(りくと)は半分他人事のように楽しそうであった。自分たちは実際関係ないからって、貫と柘榴の気持ちも考えて欲しい。柘榴は、はっきり言って恋愛感情すら生前まともに抱いたことがないのというのに。貫への感情はまだ友愛の方が強い。恩人でもあるし、信頼もしている。なのに、いきなり第三者から指示でも『お付き合いしろ』と言われて頷けるわけがない。タイプとか拒否反応よりも、相手への迷惑さを第一に心配していた。


 都合とか色々あるにしても、やはりまだ死にたてなために柘榴の感覚は生前のままだ。これから狭間で過ごしていくことで変化は大きくあったとしても根本的なところは変わらないだろう。いずれ看護士や医療関係に就職したい希望を持っていた柘榴は、相手を気遣う感覚が人一倍強かった。感情を取り戻したことで、人間性も取り戻しつつあるような感じだ。


 だから、これは、と。柘榴はイライラしている貫の前に立って、依頼書を突き返した。



「あ?」

「持って帰って。受け取らなきゃ、貫が面倒な役回りする必要ないでしょ?」

「ちょ! 前半の護衛はもともと決定してんだから、そっちは無理だ!」

「後半はどーにかなるんでしょ!? 浅葱さんの変なお節介くらい、部下さんなら止めてよ! 貫はこんながきんちょで死人相手が彼女って嫌でしょ!?」

「あ? お前、気にしてんのそこか?」

「は? 普通嫌でしょ!? 化け物と人間が付き合うだなんて」

「その化け物が親なせいで生まれたのが、俺でもか?」

「へ?」



 とんでもない真実を聞いて、思わず素っ頓狂な声を出してしまったのだが。その反応を見て、貫は不機嫌になるどころか何故か苦笑いし出した。



「あり得ねぇとか思うだろ? 実際にはあんだよ。生者と死者の隔たりを超えての関係とか。俺の目の色がその証拠だ。能力もめちゃくちゃ受け継いでいる。だから、死神紛いな仕事も可能だし、狭間にも浅葱さんより滞在出来る時間が長い」

「う……そ、でしょ?」

「ガチだ。お袋が柘榴ほどじゃないが稀少性の高い宝石の素材にされてたんだ。親父は当時保護した刑事で……ま、あとは俺が生まれてっからそーゆーこと」

「いやいやいや、そんな事例あり得ない」

「それがあるのだよ、柘榴くん。狭間などの異界を通じて、異種族が婚姻を結ぶことは世界が創造されてから割とあることだ。秘匿になっているのは、現世の都合だね? 闇術師らが柘榴くんを狙うのもそのひとつなのだよ」



 柘榴の脳内キャパシティが限界を迎えようとしていたところに、夜光が追い打ちをかける重大事実を告げてきた。どうやら、柘榴の先祖である『流れ人』とやらも異種族婚が成立し過ぎた結果で生まれた種族だとか。異種族の中で生まれた子どもは、場合によっては能力が素晴らしい存在が多い。そのせいで、流れ人の子どもは特に乱獲されてしまった。絶滅危惧種のような動物扱いもそのせいだ。柘榴がその血を覚醒したことで、紅霊石(こうりょうせき)の確保が可能になり。この先、貫のような庇護者がいなければ、狭間での生活も危ういことになってしまう。夜光らが保護者であっても、狭間で保護されていたとして完全に安全地帯ではない。数時間前に、あの闇術師の男が平気で来訪出来るくらい、ここはまだ弱いそうだ。



「……じゃあ、抵抗は……ないの? 貫は、おこちゃまとごっこでもカレカノになるのって」

「お前はどーなんだよ? 俺は一応仕事として割り切るが、お前の感情が優先だ。ほとんど死にたてだからついてけないとこが多いだろ? ばあちゃんも送ったことで整理も追いついてない。あれこれ言われて、契約みたいな交際が最初って女としちゃ嫌だろ? 今回は提案だから、拒否権はお前に十分ある」

「……あ……うん」



 ヤンキー顔だが、一応は社会人。若くても年齢は二十以上はあるし、人生経験は彼の方が豊富だ。両親の関係についてはすごく驚いたが、意外と嫌悪感はなかった。かっこいいと思っていた目の色は、カラコンや病気ではなく自然のものらしい。異質なそれに結構悩まされただろうが、柘榴を『死体』と扱わないのもその事情のせいだったのか。


 生まれの事情がそれなら、と。柘榴はなんだか、胸の奥があたたかくなってきた。変に、気を遣わなくていいことへの安心感と思ったが。今はそうしておくことにした。



「ではでは。そういうことで、ここにパートナーの成立を結ぼうじゃないか」



 感動しているときに、夜光が雰囲気をぶち壊してきた。トイプードルの見た目なので、尻尾を異様に振り回し歓喜に満ちた声を上げていた。陸翔の方は何故かお祝いのケーキでも用意するとか言い出したので、すぐに貫から鎖で捕縛されていた。余計なことをするなと釘を刺されて。



「陸翔……スクラップにされたくなきゃ、余計な世話すんな!?」

「いやいやいや、これは純粋なお祝いで」

「契約なんだろ!? 正式なもんじゃねぇ! 柘榴の守護だっつの!!」

「「照れない照れない」」

「マスターまで何言いやがる!?」



 あっという間に騒がしくなり、柘榴は置いてけぼりにされてしまった。メインは柘榴なのに、種族が違えど男たちは騒がしいものだ。たしかに、生きている者とそうでない者の関係は意外とどうでもいいのかもしれないと思い始めた柘榴である。

次回はまた明日〜

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