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第23話 居候先が好み過ぎる

お待たせ致しましたー

 夜光(やこう)と共に『永遠(とわ)』に帰宅した柘榴(ざくろ)だったが。帰ったら帰ったで、試練が待っていた。それは、留守番と掃除などをしていたらしい陸翔(りくと)のせいだ。


 夜光が言っていた通り、陸翔がにっこにこの笑顔で待ってくれていたのだが。フロアの一角に何故か大量の荷物を用意していて待っていたのだ。服飾とかは柘榴が夜光と買いに行っていたから、それらではない。家具や細々とした日用品類が、ワゴンの中に色々取り揃っていたのだ。



「……陸翔。これは?」

「倉庫にあったものを、僕の魔法でアレンジして柘榴さんが使えるのではと調整していたのです」

「よく気が付いてくれた、陸翔くん」



 柘榴が唖然となっていると、夜光はいつのまにかトイプードルの姿に戻っていて、はっはと言いながら荷物の方に駆け寄っていた。そして、照れている陸翔をめちゃくちゃ褒めちぎっている。



「恐縮です」

「我々の身内には女性がいなくなってしまって、久しいからね? そのときの道具が役に立つのは嬉しいよ。柘榴くんは年頃の女性だから、色々入用だしねぇ」

「追加で購入する必要がありましたら、僕も出費させてください」

「いいとも」

「よくない!? あたしを甘やかしすぎ!!」

「何を言うかね? 可愛らしい従業員兼弟子が出来たのだから、おじさんに愛でさせてくれたまえ」

「言い方! とにかく、シンプルでいいから!!」

「そんなこと言わないでくださいよ、柘榴さん。お部屋も今風の女の子らしいデザインに作り替えたのですよ?」

「……リメイク、した?」

「リノベーションとも言いますね」



 こちらへどうぞ、と住居スペースへの入り口を案内され。出入口のロックのやり方は魔法というより、生体認証に近いらしい。自分たちは死人なので、それについては漏れ出ているオーラのようなもので認識出来るシステム。街中でも結構あったが、魔法と科学が混在している世界だと思った。業務用キッチンもあるくらいだから、そこは現実との情報共有などの結果かもしれない。時代は移り変わると言うから、この空間も同じなのだろう。夜光らも長く存在を許されているから、文化もうまく取り入れている。


 そう、だから案内された部屋を見て、柘榴は目を丸くしたのだ。



「う……わ!」



 陸翔が開けてくれた扉の向こうは、たしかに女の子らしい部屋だった。


 色合いは白がベースでも、程よくパステルカラーのミントグリーンが使われていて可愛らしい以上に、落ち着いた雰囲気になっている。装飾も控えめで、どことなくアンティーク調に近い感じだ。テレビなどで紹介されるイギリスやフランスの少し古い調度品が多い。しかし、よく見ると現代日本の家電などがさりげなく紛れている。現代人だった柘榴に、使いやすいインテリアを混ぜ込んでくれているのがお洒落だ。


 ここなら、柘榴の今着ている制服もだが買ってきた服たちを着ていてもおかしくない。むしろ、陸翔は予想していたのではと思うくらい用意が良過ぎた。



「気に入っていただけましたか?」



 柘榴の反応でもうわかっているが、くすくす笑う優しい声に振り返って柘榴は彼の手を掴んで強く上下に振った。



「ありがと! こんな可愛い部屋、ホテルとかみたい!!」

「それはなによりです。ちょっと調べた甲斐がありました」

「調べた?」

「柘榴さんが現世で使っていたスマホなどの端末機器ですよ。こちらでも似たものがあるので」

「それで、(いずる)くんたちには連絡がとりやすいのだよ。下手に水鏡の通信魔法では現世で隠すのは難しいからね」

「……魔法も科学も何でもあり?」

「技術革新はうまく導入しているのだよ」



 そのため、柘榴がタイムスリップしたかのように不便に思うことは少ないらしい。それについては少し安心が出来たので、使い方をざっくり教えてもらってもわかりにくいところはほとんどなかった。荷物の仕分けは、下着の紙袋以外はクローゼットに入れるものを陸翔と手分けして収納していく。最後に、御守りになるように夜光が、前足を使って魔法をかけてくれて終わりだ。


 そのあとに、客が来ることもないからと『普通』にお茶でも飲もうかと店側に戻ると。そこには、不機嫌な態度の貫がカウンターの椅子に腰掛けていた。



「あれ? 貫」

「……よぉ」



 強面なせいで感情が乗ると怖さが増すのが普通。なのに、柘榴はなんだか拗ねているような感じに見えた。浅葱(あさぎ)に言ったように、たしかに貫は出会って数時間程度なのに完全に怖くない男性になっていた。生前であれば、関わり合いたくない見た目だったのに、恩人なのと、中身をきちんと知ったせいだろうか。


 とにかく、店に来たからには理由があるだろうと傍に寄ってみた。



「なんかあった?」

「……浅葱さんに、会ったんだよな?」

「うん。色々お世話に、なったけど」



 足長おじさんとしては、だが。個性的な人間だったために、貫の方がマシに思えてしまうくらいだったが。何か気にくわないのか、貫は不機嫌だった。刑事の上司として、最初は浅葱が謝罪に来ただけ。それは貫も承知のはずだから怒る必要はないはずだ。なら、なにが彼を不機嫌にさせているのか。


 気になっていると、貫は髪を思いっきり掻いてから急に立ち上がった。



「可愛い娘っ子が出来たみたいだとか言うのはまだいい!! あの人は娘さんいるから柘榴のことを可愛がる理由はわかる! なのに、なんで俺が怖くないって言うだけでひっつけようとすんだ!?」

「は? え?」



 話の脈絡がよくわからないが、つまりだ。浅葱の去り際の言葉は、どうやら嘘ではなかったらしく。貫と柘榴を、いい感じの仲にさせようと実行しかけたようだ。柘榴は死んでいるのに、貫とそんな関係になるのは無理だと否定してもなんとか出来ると言っていたが。禁忌とも思える方法で、貫の相手にさせられかけたようだ。柘榴は交際経験が前世では皆無だったために、単純に無理だと思ったくらいだが。


 何故か、無理以外の感情はあんまり湧いてこなかったのに疑問を持つ。



「俺がモテないからって、柘榴に迷惑かけんなよ!!」

「ははは。春じゃないかね、貫くん。柘榴くんとは歳の差はあれど似合いじゃないかな? 仲人は私が務めよう」

「マスター、貫かれたいか??」

「ははは。君の魂散銃程度、効かない私だろう?」

「くっ……」



 夜光も加わって、勝手に進められているが。柘榴は貫の発言に、少し胸が高鳴っていた。彼の性格上、柘榴を下手に傷つけないように接してくれるのはわかっていたが。貫への恐怖を感じない女性と死者でも蔑ろにしてくれない気遣いそのものが、純粋に嬉しかったのだ。



(……恋愛はともかく、家族以外の人間を好きって。こんな気持ちなのかな?)



 友達も知人も満足に出来なかったこれまでを思えば、死んだ後でも『人間』らしい感情の芽生えが可能になったのは、柘榴としては大きな一歩だった。

次回はまた明日〜

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