第22話 足長おじさんが出来てしまった?
お待たせ致しましたー
柘榴は今非常に混乱していた。人型になった夜光と買い物に行くのは決まっていたので、全然よかった。
ただそこに、急にやってきた貫の上司である浅葱が柘榴のことで謝罪に来たまでも、まだよかったのだが。
どうしてそのあとに、帰ると思っていた浅葱がこちらに同行して市場地区だというところまで来てしまっているのだろうか。しかも、購入品の代金になる宝石を夜光ではなく彼が全部先に出してしまうのだ。
「うんうん。うちの子はまだ小さいから可愛らしい服装が多くなってしまうが、エレガントな色調は高校生なら特に気になるからね? 夜光殿、是非あちらの店も回ろうじゃないか」
「構わないけれど、柘榴くんがひどく困っているようだよ? 浅葱くんは子の親だからとはいえ、はしゃぎすぎではないかな?」
「おやおや、そうかな?」
口調も似ているが性格も少し似ている二人。しかし、浅葱の方が子どもの親であるからか、自分の子どもでなくとも女子は可愛い対象なのか。柘榴の顔立ちは、自分としては平均程度だと思っているのであまりぱっとしないでいたが。感情が少し戻っている今は、喜怒哀楽が出るようになっているので違うかもしれない。少なくとも大人の男性二人にそんな反応をされているから。
「あの、浅葱さん。あたし、そんな綺麗な服は」
「何を言うんだい? 今までおしゃれをあまり気にしていなかったお嬢さんなら、ここぞとばかりに着飾る機会を設けたいのが親心! 本当の親御さんじゃなくても、おじさんは『足長おじさん』になるのはやぶさかじゃないさ! 夜光殿とは違って毎日いっしょにいられないからね!!」
「言ってることめちゃくちゃじゃないです!?」
「まあ、浅葱くんの言いたいことはわからなくもないが」
「そこは反論してよ!?」
「いやいや、柘榴くんは可愛らしい顔立ちだから着飾ろうとしていたのは私も同意見だったからねぇ?」
「おい、おっさん」
典型的なツッコミをしてしまうくらい、夜光も実は浅葱と同類なのがよくわかった。人間だったにしても、今は種族が違うようだが。根本的なところは生きていた時代のときのままらしい。過去に子どもがいたのなら、親としての態度もよく似ている。柘榴の父親は、結局高校に進学してもまともに関わり合いがなかったのでどうだったかわからない。だから、母親以外の親への関心がなかったために、二人の男性が持つ親の感情にも戸惑うのだ。親に良くしてもらったなど、亡き母以外では数時間前に見送った祖母くらいだ。
母が生きていた頃の、父の態度もどうだったか記憶はおぼろげだった。多分、母が生きていたらまた違っていただろうが。それでも、今気にしたところで意味はない。とりあえず、この親馬鹿状態の二人をどうにかせねば。
「ん? 柘榴くん。遠慮はいらないよ? 今日は君の私生活を充実させるための、仕入れのように思えばいい」
「丸め込もうとしないで!? 居候の部屋もまだ見てないのに、こんなに仕舞えないでしょ!?」
「ここは狭間という異空間なのだよ? 現実世界とは感覚が違うさ。空間操作だなんて、私がいくらでもしてあげよう。軽くホテルの一室分くらいいじるのは余裕さ」
「……なんで、そんな甘やかそうとするの?」
「可愛い二番弟子が女の子だからね? 陸翔くんも店の掃除が終わったら、リフォームしてくれてるくらい浮かれていると思うよ」
「……男って」
貫はヤンキー気質でも、根は素直で優しいから結局は似ているところがある。柘榴は死人でも一番年下だからか、愛でる対象にはちょうどいいのかもしれない。とは言え、買い物だなんて自分でも食材以外まともにしてこなかったのに。年頃の女の子として遊ぶような感覚が慣れない。
「柘榴ちゃん! 次はこっちのブラウスなんかどうだい? 普段着には使いやすいと思うんだが」
そして、浅葱は暴走しまくりでどんどん柘榴の呼び方もだが購入する服飾雑貨を増やしていっている。荷物は夜光が魔法の鞄を所持しているのでゲームのアイテムBOXよろしく、ほとんど瞬間的に収納できてしまうし重みも感じない。実際に持ってみれば、りんご一個分にも満たない重量しか感じられなかった。
「……そろそろ、選ばせてください」
もう、ここは好きにさせるしかない。金銭的に向こうが問題ないのであれば、『足長おじさん』に頼ろうと決めた。折れておけば、少しでも浅葱の暴走が落ち着く。そう思ったのだが、その後は柘榴の選別が始まったらさらに浅葱の懐はゆるゆるになっていくばかり。結果、現実であれば二桁の数字がいくくらいの金額の品々を、ほとんど浅葱ひとりで支払ってしまったのだった。
「いや~、妻の言葉を借りるならば。娘の買い物と言うのは楽しいものだ!」
「うむ。私もついはしゃいでしまったね」
夜光も途中から加わったことで、柘榴にきちんと似合うものを選別して買いたい衝動へと繋げるものだから。柘榴も調子に乗って、それをすべて欲しがってしまった。金額もだが、ショッピングモールでの財布の紐がゆるむ感覚の恐ろしさを学んだ。あと、高揚感は自分でも止められなくなると。
「……次は、陸翔とか貫がいっしょがいい。まだ止めてくれそう」
「ははは。貫くんは意外と節約家だからね? いいのではないかな?」
「おや。柘榴ちゃんは堺田くんが怖くないかい? 顔とか性格は誤解されやすいのに」
「今は、怖くないです。むしろ、ちょっとやんちゃな先輩みたいな」
傷や目の色は異質でも、別に不思議ではない。慣れれば、親しみやすいし好ましい性格ではある。祖母のことを解決してくれた恩人でもあるから、今はとても好印象を抱いている。食事の嗜好については、厳重注意はしたが。
正直に浅葱に言うと、何故か意味深な笑顔を返されてしまった。
「ふむふむ。これはいい出会いを繋げたものだ」
「へ?」
「堺田くんはたしかに、いい男だ。これは僥倖な報告を聞けたよ」
「……なんか勘違いしてません? あと、あたしもう生きては」
「ははは。些末なことだよ。それに、可能性はゼロではない!」
「意味わからないんですけど!?」
理解不明な説明ばかりだったが、とにかく柘榴は浅葱のことは『いい人でも、変なおじさん』として認識するしかなかった。足長おじさんとしては受け入れても、人間性としては個性が強すぎて貫の方がマシに思えるくらいだ。
がっかりしていると、浅葱は何かを思い付いたように市場で別れて現実世界に帰ってしまい。柘榴は夜光に店に帰ろうと言われ、ほとんど見ていなかった狭間の街並みを見ながらゆっくり歩くことにした。
次回はまた明日〜




