表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/95

第19話 報酬のための宝石料理は?③

お待たせ致しましたー

 慣れない重みの皿をトレーに持ち、熱々の鉄板で火傷しないように注意してカウンターの上に置く。陸翔(りくと)から事前にレクチャーしてもらったように、フォークやトッピング用の粉チーズのポットやタバスコも決まった位置に置く。


 (いずる)は空腹のせいかおとなしくしているが、柘榴(ざくろ)が離れるとすぐにフォークを手に取った。



「……めちゃくちゃ美味そう!」



 純粋な、興味からの言葉。


 魔法を使っての料理でも、貫は食べ慣れているせいか素直に賛辞に近い言葉をくれた。まだ一口も食べていないのに、宝石の原材料抜きにしても見た目や香りで判断したのだろう。その感情に心を揺さぶられたが、柘榴は泣くのを堪えて笑顔で接客の言葉をかけた。



「どうぞ召し上がれ」

「おう。……いつも通り食う前に、せっかくだから」



 何か意味深な言葉を紡いだが、貫はすぐにフォークを使って湯気が立つナポリタンの麺の部分を巻き付けた。普通のケチャップではなく紅霊石(こうりょうせき)を原材料にしているトマトソースなので、光沢だけでなく色味も輝くルビー色だ。付属するように刻んだ野菜などがよく映える。柘榴は同じような材料で作られたオムライスも食べたのに、貫の興奮している表情を見ると自分も食べたくなってきた。



「柘榴くん。今はいいが、このあとに注意したまえ?」

「え?」



 これから食べようとしている貫への忠告がなんなのか。夜光(やこう)の楽し気に言う言葉の意味がよくわからなかったが。貫が食べ始めてから、その意味がよく分かることになった。



「うんめぇえええ!!」



 その言葉はまだよかった。問題はそのあと。がっつくのは外見と性格から予測は出来ていたが、ひと口食べたあとに何故かフォークを置いたかと思えばタバスコの蓋を開ける。そして、物凄い勢いで振りかけていくのだ。数回どころか、何十回も。かけ過ぎで舌がいかれるはずなのに、気にせずにまた食べ始めて声を上げる。その辛さをひと通り楽しんでから、残していた粉チーズを全部振りかけて団子状になったのをばくつく。


 はっきり言って、意地汚い食べ方だった。



(……父さんの食事、とか気にしてなかったけど。こんな食べ方初めて見た)



 父との食事風景は、母が亡くなったあとはどうだったか思い出し難かったが。少なくとも、目の前の貫のように貪るような食べ方ではなかったはず。もともと口数が多い男性ではなかったので、静かに食べてたイメージだった。だから、柘榴も生前は似た感じにはなっていた。


 この狭間での食事では、そうではなくなったけれど。それでも、貫のように好みが偏っている男性を見て意表は突かれた。びっくり以上に引くくらい。しかし、それだけ美味しいと思ってくれたのなら、だんだんと嬉しくはなってきた。何故か、貫の紅潮する頬と表情を見て、素直にそう感じたのだ。



「相変わらず、強烈な辛味のあとにマイルドさを求めるのはどうかと思うが」

「個人の好みなのですが、毎度驚きますよね? せっかくの稀石での料理ですのに」

「それだけ、好みの域を超越していたのだろうね? いつもよりタバスコの量が多い」

「ですね」

「……貫って、辛いの好きなの?」



 夜光らの会話に割り込むと、二人は強く首を縦に振った。陸翔は横に傾くように見えたが。



「重度がつくほどの、激辛好きなのだがね?」

「最後はまろやかにしたいという異色の好みなんですよ」

「甘味と酸味を壊すのに、あれが気に入っているそうだ」

「……ふぅん」



 驚きはしたが、好みは人それぞれ。生前なら絶対関わり合いたくない人種なのに、貫なら偏食家でもだんだんと気にはならなかった。陸翔が平気になったように、ヤクザ見た目の貫でも優しい感じの人間だと知ったせいだろうか。祖母の救済措置もしてくれた恩人だからかもしれない。



「あ~……美味かった」



 そして、三人の会話を耳にしてないのか。当の貫は綺麗に完食していた。鉄板の上を見ると、パスタや野菜のひとかけらも残さずにソースもほぼなかった。


 粗雑な性格の割には、綺麗に食べきるのには感心してしまう。てっきり、雑に食べていると思いきや、口への運び方以外は悪くないらしい。口元もほとんど汚れていないし、笑顔は晴れやか。ちょっとまた、可愛いと思ったのだ。



「お、お粗末……さま?」



 たしか、昔祖母に教わった行儀作法のひとつだった気がする。言ってみると、貫は八重歯を見せながら柘榴に振り返ってくれた。



「すっげー、美味かったぜ! たしかに、紅霊石の力は感じたが何より味がいい」

「……あれだけ、自分で辛くしたのに?」

「日本のイタ飯に限らず、本場のもああするぜ? ピザとかアラビアータとかな!」

「褒めてない!」



 何故、恩人と言えど好みと違う男性を可愛いと思ったのかは不思議でも。


 偏食なところは、やはりあまり感心したくはなかったのだった。


 そのあとに、柘榴は彼が上司からの連絡を受けるまで、小一時間ほど食事への栄養価など説教したのである。病院生活の長かった、亡き母との生活もあったので実は柘榴は医療関係の勉強はずっとしていたのだ。


 記憶が徐々に戻りつつあったため、それらの知識も少しずつ戻ってきていた。だから、貫へも不摂生になりがちな公務員の刑事と言う仕事なら、ちゃんと食生活改善を心がけて欲しいと、生きているのなら気をつけてほしかったのだ。


今日は一話ですん……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ