第18話 報酬のための宝石料理は?②
夜光と貫は、今後の柘榴の方針を現実側の関係者にどう報告するかを明確に決める打ち合わせをしながら、待機してもらうことになり。
柘榴は陸翔とバックヤードの厨房に入って、貫への宝石料理を作るのに準備をすることにした。使用する紅霊石の方は、夜光が欠片がいいだろうと制服を精製するときに出た砂粒みたいなそれを渡してくれた。柘榴はきにしてなかったが、彼が回収していたらしい。
陸翔が器に入れた石を大事そうにしているのを見ると、本当に宝石料理が好きなんだなと柘榴は思った。見た目は異質でも、穏やかな性格に物腰の柔らかさを知れば普通に好意的な相手だ。少し慣れてきた柘榴は、なんだか兄弟がいなくても兄のような親しみを感じているくらい。だからか、貫とは違う意味で頼りにはしている。
キッチンに到着すると、中はテレビとかで見るような普通の業務用キッチンが揃っていたので少し意外に思った。
「魔法だけで作るんじゃないの?」
きょろきょろ見ていると、陸翔はくすくすと笑う。バカにしているような感じではなかった。
「いえ。一応食器だったり、普通の食事も作ることはあるのでひと通り揃っていますよ。マスターの収集趣味もありますが」
「夜光の?」
「宝石もですが、調理器具に食器のコレクターでもありますからね。骨董品も結構揃っています」
「本物?」
「マスターは現世と行き来出来ますし、冥府からの報酬でいただくこともありますから色々です」
「……あの世から?」
「閻魔大王様や海外の神々ともやり取りされていますね」
「ほんと、どういう……犬?」
「もとは、人間だったんですけどね。今は省エネ状態で基本はあの姿です」
「陸翔たちって、昔に生きてた人間なんでしょう? 狭間にいると、情報とか共有できるの?」
「その通りです。現世や冥府の情報は常に共有しています。そして、許された魂などは再構築されてこの狭間に留まれるのです。柘榴さんは、少し事情が違いますが」
「これから調べるから?」
「ええ。とりあえず、貫さんのお腹が限界になる前に作りましょうか。今回は、普通の材料を合わせます」
「なんで?」
「完全な宝石料理を、現世の人間が食べ続けると……簡単に言うと昇天しちゃうからです。中毒性を起こすのですよ」
「死んだ人間とかはいいんだ?」
「そこも覚えましょうか」
貫のためなので、たしかに急がなくてはいけない。現実世界での刑事の仕事は詳しく知らなくても、この狭間で柘榴の祖母をきちんと送り届けてくれたことへの御礼をしたい気持ちは本当だった。そのために、自分の身体から出来る宝石を使用するのに躊躇いがないのも本当。薬にもなるらしいし、元気にはなってほしいからだ。
最初は強面で苦手なタイプだと思っていたのに、大人でも親しみやすい性格とわかれば怖くなかった。見た目では、横にいる陸翔の方が十分ホラーだから。
普通の材料は、紅霊石の欠片を使用する以外はほとんどの食材を用意するのだとか。宝石の効能を薄める理由もある。特に、この宝石は中毒性が強く、効能も強い。多少滋養に効く程度に納めるには、それだけ手間がかかるのだそうだ。
「どこから、石を使うの?」
「これからです。材料が揃えば、あとは一緒ですよ?」
「……雑にならない?」
「この場所は、マスターの趣味ですからね? 今回はお気になさらず」
「うん」
方法がいっしょなら、あとは気持ちを込めて詠唱していくだけ。まだ貫の前で披露してはいないが、まだ気恥ずかしいのでここで魔法を使う。歌のように口ずさみ、光が広がればあとはイメージを組み合わせていくだけ。三回目だが、回数を重ねるごとに『何を』したいかはわかってきた。魔法を使う生活をしていたわけではないのに、先祖の誰かが人間でないせいか、素材として覚醒したことでうまく出来ているのだろう。
詠唱が終わり、感覚的に出来上がったと思って目を開ければ。調理台の上には、用意した材料が熱々の鉄板の上できちんとナポリタンの形に出来上がっていた。ただ、石を使ったせいで、普通のケチャップよりも真っ赤だ。
「お見事です。ラピスのココアも素敵でしたし、柘榴さんはセンスがありますね」
「陸翔のオムライス、あたしでも作れるかな?」
「あとで練習します? もちろん、普通の宝石で」
「うん」
無闇に紅霊石を使用しようとしない、陸翔の人柄にも少し癒された。見た目はゾンビでも、たしかにこの人も母とのおとぎ話に出てきた人形と同一人物なんだと。
とりあえず、出来上がった料理をトレーに載せる練習も兼ねて、柘榴が運ぶことになった。
「おやおや、いい匂いに仕上がったね?」
店内に戻ると、夜光がすぐに匂いに気づいてくれた。そこはやっぱり、今の外見が犬だからだろうか。貫の方も匂いに気づいたのか、少し苦笑いしていたのだが。
そのあとに、離れた柘榴にも聞こえるくらいの空腹の音が響き、彼の顔は紅霊石並みに真っ赤に顔を染め上げてしまう。
「……お待たせ」
せっかくの熱々なので、はやく食べてもらおうと落とさないように柘榴は歩みを進めた。
次回はまた明日〜




