第17話 報酬のための宝石料理は?①
お待たせ致しましたー
「柘榴の家系は、かなり前から狙われてるってことだな?」
貫は柘榴の祖母を送迎したあとは、すぐに現実世界に帰らずに永遠に滞在していた。柘榴のために、情報収集をするためらしい。現実でいうところの事情聴取みたいなものだが、あくまで情報を集めるためで柘榴をあの男たちに利用されないためだ。
「ふむ。死人でも生身に近い状態での転送。おそらく身体ごと狭間に来たのだろうね? それをあの輩が追いかけてきたにしても、時間のタイムラグが長い。すぐに確保しようとしたが、何者かが柘榴くんの身体を利用されないために動いたのだろうね」
「誰が?」
「まだ憶測だが、柘榴くんを見守っている存在……だろう。身内かどなたかまでは、今の私も情報不足なのでわからないが」
「ふぅん?」
祖母でないのはたしかだが、他に誰がいるのだろうか。母は数年前に亡くなってしまったから、その魂かもと淡い期待を抱いたけれど。それにしては時間が経ちすぎているし、母なら殺されるのを防ぐ方に動くはずだ。
夜光ですら、まだ推測しにくいのであれば柘榴みたいな小娘では無理だ。トイプードルの外見でも、夜光はベテラン探偵のごとく頼りになる存在。狭間での地位も上のようだから、現実世界との繋がりも強い。でなければ、祖母を安心できる言葉選びなど出来なかった。
「柘榴。お前、あのチャラ男にどう殺された? 言いにくいだろうが、きちんと教えてくれ。それが紅霊石の素材になってしまう発動条件かもしれねー」
「うん……」
気持ちのいい思い出ではないものの、あの男たちは祖母をも利用しようとしていた。であれば、まだ現実世界のどこかにいる柘榴の身内、特に母方をメインに捜索しては柘榴のように殺すかもしれない。もしかしたら、祖母も殺されたと考えたが今は追及するのと止めた。下手に自分が堕ちたら、せっかく逝けた彼女も哀しむ。
「私と陸翔くんに話してくれたときも、記憶が混同していた。今は大丈夫かな?」
「うん。大丈夫だよ。……あいつ以外に、同じ格好してたおじさんとかに囲まれたわ。身動き出来なくさせられて……変な単語言いながら、あいつがすぐ刺したの。そこですぐにブラックアウトしたから、気が付いたときにこの店にいたわ」
「変な言葉?」
「重要な内容かもしれませんね? 思い出せます?」
「えっと……」
詳細を思い出すのに、少し時間を必要としたが。体感的には半日くらい前なせいか、なんとか思い出すことが出来た。
『流れ人の子孫か?』
『残滓がいくらか残ってるな? これは素材にちょうどいい』
『良い石が手に入れられるかもしれんな? 殺すか?』
『大した力もない小娘だろう? 素材の価値があるだけマシだ』
『んじゃ、さくっとしますかね?』
思い出しても不可解な内容だったが、きちんと皆に告げると貫らもだが夜光まで『むむ』とうなり出してしまった。
「正直めんどー……」
「これは最重要機密に匹敵しますね……」
「非常に興味深いが、あれのような闇術師が躊躇いもなく殺害を実行するのは理解出来た」
「面倒?」
「柘榴は、超レアな奴なのは自分で理解してるよな?」
「うん? まあ」
「今死んでるからじゃねぇぞ? 禁忌にも匹敵する宝石の素材、だがはっきり言って素材にするために殺す必要は、なかった」
「え?」
殺される必要がなかったのなら、何故殺されたのか。その理由は、貫が続けてくれた説明ですぐにわかったが。
「まあ、抵抗なく死体から石を精製した方が。あいつらにとっては都合が良かっただけだ。犯罪行為に抵抗ない連中だからな? だが、あいつらの誤算は柘榴が狭間に転送されたことだ。特に、マスターや俺が関わったら必要以上に手出し出来ん。けど、迂闊なのは柘榴の家系が『流れ人』の子孫。そいつは、血が薄くても石に関係する血縁者のように思えばいい」
「……人間じゃないの?」
「血の濃さが薄かったがゆえに、柘榴くんは逆に殺されてしまった。彼らの読みの誤りは、かなり精度の高い石の素材となってしまったことだよ。狭間で普通に存在出来る死人になるとは予想外だったのだろう。だから、あの男が追ってきたのだよ」
「おばあ様は、もともと狙っていたかもしれませんが。迷いの魂となったことで素材に変換させようとしていたかもしれません」
「自分勝手過ぎる!」
「欲の深い連中は、そんなもんだ。普通の人間でもネジ飛んだ連中が、平気で罪犯すんだよ」
「……」
テレビやネットなどで飛び交うニュースなんて、ただの報告のようなものでしか捉えていなかった。けど、自分が殺されて祖母も利用されかけた。感情も取り戻せたからこそ、柘榴も怒りを覚えたのだ。無関係の人間全部に怒っても仕様がない。
それでも、命をゴミ程度にしか扱わないあの男たちは許せなかった。
「俺は、報酬もらったら現世に戻る。上にもきちんと報告してから、柘榴の警護とかどーするかは指示を仰ぐ」
「……あいつらが、石でなにかしようとしてるから?」
「お前個人の問題じゃないな。現世と幽世に冥府もめちゃくちゃになる」
「この狭間もだね?」
「僕らも存在出来るか危うくなります」
どうやら、思った以上に柘榴の血は厄介なものらしい。ただ、母のおとぎ話を本にしただけの、ごく普通の人間だと思っていたのだが。実際に魔法も使えるし、血で出来た宝石も体から出てしまう。その異質さで、色々びっくりしていたのに。
生きていた頃から、狙われていただなんて柘榴は全く自覚していなかった。
「じゃあ、ここにいていいの?」
それでも、この店にはいたかった。祖母の手助けを出来たことだけでなく。恩人たちへの助けをしたかった。その気持ちは今も変わらない。
改めて聞くと、夜光がカウンターに置いた柘榴の右手に自分の左足をぽんと乗せてくれた。
「それは問題ないとも。むしろ、私たちに協力させてくれたまえ。これは、狭間だけの問題じゃないからね」
「……ありがとう」
「僕も、妹弟子が出来るのは嬉しいですから」
「貫くんもすぐ言わないから、反対しないとも」
「貫?」
「……先言うなよ」
照れてるのか、目元が赤いのが可愛く見えた。強面でヤンキーにも見えるのに、男性を可愛く見えるのは初めてだったが。けど、それならと柘榴はある提案をしてみようと決めた。
「マスター、貫の報酬ってなに?」
「うん? 宝石料理だとも。いつものリクエストはナポリタンだが」
「じゃあ、あたし作る!」
「それはいいね。陸翔くんに教わりなさい」
「……おいおい。まさか」
「あたしの石使うよ!」
「勘弁してくれ!?」
貫も恩人になったのだから、それくらいしたかった。だから、ここは断られても押し通したのだった。
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