第15話 身内の別れは優しく③
お待たせ致しましたー
「へぇ? どーゆーからくり? 石の守護とかばんばんにかかってる上に、意識保ったまま死人でいるってなんでなんで?? やっぱ素材だからぁ?」
反吐が出るほどの、自分勝手な質問しかしてこない男だ。柘榴を殺したことも、この男にとっては虫を潰した程度しかないのだろう。その感情の受け止め方については狂っているとしか思えない。だが、犯罪者になり得る人間など、きっとそんなものだ。どこか欠落していなければ、犯罪に手を染めることなど厭う必要がない。
「あ? お前……こいつを狭間に送った張本人か?」
祖母がいる手前、『殺した』などと口にはしなかった貫だったが。柘榴の後ろで息を吞む音が聞こえてきた。おそらく、祖母は柘榴も死人であることを理解したかもしれない。駆け寄りたかったが、今目の前の男に下手な刺激を与えてどうにかされては祖母も危うい。柘榴は振り返らなかった。
「へぇ? その銃……おにーさん、心霊課の犬ぅ? 俺とかの天敵がいるだなんて、勘弁っすよー? 俺なんかの下っ端が太刀打ち出来るわけがない」
「質問に答えろ!」
「え~? ほとんどその子の表情で答えているじゃないっすかぁ? 俺が殺したっすよー。ドスでさくっと。いやー、ほとんど抵抗しにく中での殺しってつまんないっすけど……こんなレア素材に転身してくれるってラッキー!」
「……屑が!」
貫の質問に答えるも、愉快な感情しか読み取れない。小娘を殺害したことに、公開も何もないどころか紅霊石の素材にきちんとなったことへの感動を露わにしているだけ。
貫は男が柘榴を改めて捕まえようとしていたのを、銃を向けながらジャケットのポケットから瞬時に銀色の鎖を飛ばした。拘束のために、何か魔法を使ったのだろう。しかし、男は予測していたのか余裕で避けて、後方に跳んだ。
「あーあー。それ捕まると面倒っすよねぇ? 出来るおにーさんらしいしぃ? 素材は精製出来たって報告だけにして退散するっすー」
と言うなり、男の身体がノイズのようにゆらめいたかと思えば、瞬時に姿を空気に溶け込ませてしまった。。瞬間移動のようなものも初めて見たが、魔法を使用なんてこの世界は本当になんでもありだ。死者たちが疑似的に生活できる場であることから、特殊だとは理解していたつもりでも。柘榴もまだ滞在し始めたばかりだから、まだほとんど知らないのも当然。それでも、夜光たちのおかげで魔法は使えるようにはなったのだが。
「ちっ。相変わらず逃げ足の速い連中だなあ……」
予測はしていても悔しいものは悔しいらしく、貫は鎖を巻き戻すようにポケットへと引っ込めた。よく見ると先端に鋭い杭のようなものがあったので武器にもなるのだろうか。気にはなったが、今はそれどころではない。
後ろから、泣く声といっしょに何故か謝罪の言葉が聞こえてきたのだから。
「ごめ……ごめ、ごめんなさい……! さ……さく、ちゃ……私、思い出せて!!」
祖母だった。嗚咽を堪えながらも、柘榴への謝罪の言葉を何度も何度も繰り返し。
そして、柘榴が自分の本当の孫だと思い出した言葉をこぼした。おそらく、あの男が柘榴を殺した発言と柘榴が立ち向かった姿勢を見たからだろう。柘榴は、 言わなくちゃと足を動かして彼女の方を向いた。
陸翔に支えられながらも、大粒の涙をこぼしながら柘榴の顔をしっかりと見てくれていたのだった。
「……そうだよ。おばあちゃん、桃世母さんの娘だよ」
母の名を口にするのはいつ以来か。その名でさらに涙が酷くなっても、柘榴の方は泣くことはなかった。
身内と疎遠になり過ぎて、虚無になっていた時期が長かったのに。死んでから再会できた祖母の方がこんなにも後悔してくれているのなら、柘榴自身はむしろ嬉しかった。孫として、きちんと心配してくれていた証拠だと受け入れられたから。
「桃、の……あの子の! 本当に、柘榴……?」
「うん。聞いてただろうけど、さっきの男の人に殺されちゃったんだ」
「な………んで!? なんで!!」
嘆きと絶望。それが溢れかえっても仕方がない。娘と孫を喪った哀しみが、自身の死後にわかったのだから。涙以上にひきつっていく彼女の表情を見て、柘榴はその場から動いた。このままでは、同じように死んでいる祖母があの世に逝けないから。
足を動かして、本を落とさないように気をつけながら手を広げて、彼女に抱きついた。
母以来の抱擁を他人にするのは初めてだが、体が勝手に動いた。下手な魔法をするよりこの方がいいと、本能的に体の方が先に動いたのだ。
「いいんだよ、おばあちゃん。あたしは、今ここに居るから」
安心して、先に母のところへ行って欲しい。そう告げると、震えていた祖母が力強く柘榴を抱きしめ返してくれた。
次回はまた明日〜




