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第11話 魔法クッキングの修行開始②

お待たせ致しましたー

 いきなり、夜光(やこう)がとんでもないことを言い出した。研修のはじめのはじめと言える制服の製作から、次の料理製造への研修をまだなにも始めていないのに。


 しかも、いきなり来訪してきたヘドロ型の『客』だという存在に、柘榴(ざくろ)が食事を提供する研修をしようと言い出した。柘榴の叫びを聞いても、夜光はご機嫌そうに尻尾をふりふりするだけで、厨房から戻ってきたゾンビ擬きの陸翔(りくと)も嬉しように笑っているだけだった。



「いいじゃないですか? 実施訓練、悪くないと思いますよ?」

「……いきなり、作れって。陸翔は夜光にも言われた?」

「言われましたねぇ? そのお陰もあって、色々ご指導いただけました」

「うむ。為せば成るとも言うしね」

「なんか、それ使い方違う気がする!?」



 計画性があるようで、実のところないかもしれない。柘榴を『永遠(とわ)』に滞在させるように誘導したのは、夜光なりの気遣いかもしれないが。(いずる)が柘榴の情報を聞きつけて来店したときも、適当にはぐらかしていた。意外としっかりしているようでずぼらかもしれないと思ったが、あまりショックは感じない。


 まだ滞在して数時間程度でも、自分が信頼したいと思った相手だからか。柘榴は、どうやらこの人間ではない摩訶不思議存在を受け入れているようだ。自分もその部類になってしまったから、感情の起伏が出てきたせいで柘榴は思ったよりもショックを感じていない。どちらかと言えば、呆れた方だ。



「とにかく、柘榴くんの実地訓練といこうじゃないか? ラピスラズリをご所望のお客人に、柘榴くんが思い描く飲み物を作って欲しい」

「……わかった。マスター」



 賃金は無しでも、居候させてもらうことに変わりはない。食事も基本は必要としなくても、あの美味しいご飯をまた食べたいし、自分でも作ってみたかった。


 なら、その初仕事がいきなり来ても、頑張るしかないだろう。一度深呼吸をしてから、手にしたままのラピスラズリを見ることにした。柘榴の気持ちが整ったのがわかったのか、夜光はまた嬉しそうに尻尾を振り出した。



「詠唱については、柘榴くんが先程唱えたのと同じでも構わない。私や陸翔くんもそれぞれ違うからね。あとは、お客へ食べていただきたい食事を作る『心』が大事だ」

「美味しいものを作るのに、気持ちが大事ってこと?」

「簡単に言えばそうだね」



 別に、子ども向けの『おいしくなあれ』を言えとかではないようだから、柘榴の思う言葉を紡げばいいようだ。先程の詠唱も、母と作った絵本を引用したようなものでしかないが。着眼点は悪くないと夜光にも言ってもらえたので、似たもので実行しようと決めた。



(この、ヘドロのお客?に合う飲み物……)



 ヘドロの客は、触手みたいなのは引っ込めて入り口前で動かなくなった。時折、呼吸しているように動いているから、死んではいないようだ。おそらく、陸翔が出てきたことで怖いのかもしれない。柘榴の持つラピスラズリに興味はあっても、怖い外見の陸翔に怯えているのだろう。


 そう思うことにして、柘榴は時間をかけないように、かつ慎重に飲み物のイメージをしてみることにした。


 外食経験も、コンビニなどの購入経験もあまりなかったが、思いつく限りの飲み物を柘榴は頭の中でイメージしてみた。甘い、苦い、温かい、冷たい。味もだが温度も気にした方がいい、と母か誰かに教わった気がする。それを踏まえて、行き着いた答えが決まれば、柘榴はヘドロの近くにあるローテーブルに向かった。


 怖がっている場合じゃないと、ラピスラズリを置いてから手をかざしてみた。詠唱を始めようと息を吸えば、石がぼんやりと青く光り出したので、意識を集中。



『導け、紡げ、藍の光。金色の道筋を辿り、降り注げ』



 淡く光っていただけの石が、散りばめられた金色の粒の光と合わさり。夜光がジュースを作ったみたいに、いきなりフラッシュが出るような強いものは出なかったが。金の光と石が触れあったことで、かけらたちがそれぞれ変形し出した。ヘドロが触手を出したのと同じ動き方で、形を変えて器のようなものになっていく。ガラスでも合成のアクリルでもない。青と金の美しい陶器で出来たマグカップと変化していった。


 形が定まれば、柘榴はさらに詠唱を施すことにした。



『望む者の、望む姿に変われ。あたたかく、優しいそれへ』



 柘榴が、ここで食べたばかりの美味しいご飯のそれほどではなくても。


 柘榴が思う形に、どうか変わって欲しい。マグカップがきちんと形を整えてから、中に注がれたのはカップ以上に真っ青な色の飲み物。色は仕方がないと夜光も言っていたが、柘榴がイメージしたそれは、『ミルクココア』だった。



「おやおや」



 出来上がったココアが見えたのか、夜光が嬉しそうに声を上げていた。まずまずの出来かなと聞こうとしたが、先に近くに来たヘドロの気配でまた大声を出しそうになってしまった。詠唱に集中し過ぎて、距離が詰まっているのに気付かないでいた。改めて見ても、ヘドロの集合体でしかないそれは顔も何もわからない。しかし、また触手のようなものを伸ばしていたので、柘榴は小さく『どうぞ』とココアを勧めてみた。


 柘榴の言葉が聞こえたのか、ヘドロの触手は二本になり。マグカップを落とさないように持ち上げたのだが、湯気がヘドロに触れた途端、ヘドロから金色の光が溢れてきた。



「な、なに!?」



 柘榴はびっくりして床に尻もちをついてしまったが、ヘドロから光は消えるどころか強くなっていく。手で遮っても落ち着く様子はなかったが、それ以上にその中で起きている変化に柘榴は目を見開いた。



「……ああ、温かいわ」



 ヘドロが上に伸び、柘榴よりも少し高いところで止まったかと思えば。そこからボロボロと崩れて行き、中から出てきたのは七十代くらいの銀髪が綺麗な女性。マグカップを落とさないように両手で抱え、ヘドロから完全に出てきたらそれを嬉しそうに撫でる。


 そして、床に尻もちをついていた柘榴に気づくと、にっこりと優しい微笑みを向けてくれた。

次回はまた明日〜

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