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第10話 魔法クッキングの修行開始①

お待たせ致しましたー

 まるでコスプレかと思うくらいの、立派な衣装ではあったが。母が生きていた頃は、少しだけ憧れていたフリフリふんわりのワンピースにエプロン。それを死んだあとでも、身につけることが出来ると思わなかったため。


 柘榴(ざくろ)はつい、その場でくるくると足を動かして回ってみた。ふんわり広がるスカート部分は、勢いよくではないがふんわりと広がっていく。それだけなのに、柘榴の感情はまるで子どもに帰ったかのような嬉しさが込み上がってきた。



「すっご~い!? すごいすごい!! これなに!? 可愛い~!!」



 新しい服はもちろんだが、はしゃぎ方が幼児化してしまうくらい、語彙のバリエーションがない。根暗陰湿とも言われていた柘榴だったが、こんな喜び方が出来るんだと自分でも驚いた。



「うむうむ。術の構成も悪くない。柘榴くんはセンスがあるね? せっかくだから、紅霊石(こうりょうせき)でない別の宝石で調理研修といこうか?」



 夜光(やこう)はあまり驚いていなかったが、代わりに柘榴の魔法に及第点をくれた。はしゃいでもその言葉はきちんと聞きとれた柘榴は、もう感情のセーブをする必要はないと楽しむことに決めた。ここでは、母とは違っても自分を必要としてくれる相手がいるから。



「はい! お願いします!」

「いい返事だね。では、お客がいないときは今まで通りでいいが。接客中は、私のことをマスターと呼ぶように」

「了解です!」



 ノリノリで会話も、母との会話以来か。生前でも、そう多く感情を出せていなかったのに。認めてくれる相手が出来ただけで、随分と様変わりしたものだ。柘榴は勢いよく手を挙げてから、頷く夜光の次の指示を待った。


 夜光は尻尾を軽く振ると、その動作が起動スイッチなのか棚の引き出しがひとりでに開いた。中から小さな木箱が出てきたが、それは夜光の前を通過して柘榴の前に浮かんだまま止まる。



「その中身は、君の石ほどではないがそこそこ稀少性の高い宝石のかけらが保管してある。陸翔(りくと)くんの練習にも使っていたので、あまりが入っているだけだが」

「開けてもいいの?」

「もちろん。調理補助でも、飲み物は淹れれるようになるとこちらも助かる。好きなのを選んで、好きな飲み物を作ってみようか」



 しっかりキャッチしてから、留め具を外して蓋を開けてみれば。中には、木の仕切りがたくさんあって、そのブロックごとに大小さまざまな石のかけらが綺麗に収まっていた。色もバラバラに並べていない上に、わかりやすいようにテープの表面に名前が書いてある。字も日本語で読みやすい。



「飲み物かあ。それって、味は調整出来ても色はそのままなの?」



 柘榴が最初に飲ませてもらったジュースもそうかと聞けば、夜光は嬉しそうに尻尾を強く振った。



「着眼点が素晴らしい。それが宝石料理のある意味デメリットなのだよ。着色はどうも現世の染料のようにしみついていて、うまく調整しにくいとされている」

「実験しなかったの?」

「下手に弄ると、ゲテモノへとなってしまうのだよ。百年研究は続けているが、私もまだまだ未熟者だ」

「……理解したよ」



 ベテランの夜光で失敗が多いのなら、そこは無理に弄ろうとしない方がいい。逆に、宝石の輝きを損なわない仕上がりにしようと柘榴は青いかけらを手にした。ところどころ、金色の粒が混じっていることから『ラピスラズリ』だと認識出来る。



「それは稀少価値は高いが、人間たちにも人気で模造品も多い。しかし、君の手にあるのは純度の高いかけらだよ」

「これだと、どんな飲み物がおススメ?」

「逆に、君が飲んでみたいものでいいよ?」

「……難題過ぎない?」

「基本的に、客はほとんど『しゃべれない』からね?」

「しゃべれない?」



 陸翔はともかく、柘榴は特殊だと聞いてはいたが。どうやら、この店に辿り着く死者たちは、二人に該当しない客なのだろう。柘榴と陸翔がイレギュラーなのかもしれない。(いずる)の場合はもっと特殊なので、さらに当てはまらない。


 疑問に思っていることを訊こうとしたら、入り口の扉がゆっくりと開いたのか、ベルの音が聞こえた。



「おや、迷える存在よ。いらっしゃい」

「いらっしゃ……ひっ!?」



 夜光が客だと判断したので、慌てて振り返ったが。挨拶を言おうとした口が、悲鳴の声を上げてしまう。


 無理もないが、陸翔の首の曲げ方とかゾンビの皮膚がまだ可愛いと思えるくらい、『客』らしい存在は異質でしかなかった。どこを見ても身体とかが全く状態を保てていない、『ヘドロ』のようなどろっとしたものに包まれた妖怪かモンスターにしか見えない。


 夜光にしがみつこうかと思いかけたが、相手は客だとすぐに頭を切り替えて姿勢を正す。声こそは、出せなくても夜光は指摘することもなかった。



「さてさて、お入りください。君の迷い心はなにかな?」



 夜光は全然怖がらずに、ヘドロに声をかける度胸を素直に凄いと思った。陸翔を雇うくらいなのだから、これくらい日常茶飯事なのかもしれない。むしろ、柘榴が異質だと思うことにした。


 この狭間で生活するのなら、化け物くらい相手にしなくてはと気を引き締めたのだ。


 ヘドロは、ねちょねちょとした体を細く長く動かすと、向かう先を柘榴の手に伸ばしてきた。触れる距離ではないが、確実に柘榴の手にあるラピスラズリを求めているような。何故か、そんな気がした。



「こ……れ、ですか?」



 なんとか言葉を紡ぐと、ヘドロは腕のように伸ばしたそれを、縦にゆっくりと折ったのだ。



「ふむ。いきなり研修のレベルを上げるが……柘榴くんが、調理しようか?」

「はいぃい!?」



 ぽんっと、夜光に背中を叩かれたので柘榴は素っ頓狂な声を上げてしまう。その声が店中に響き渡ったが、陸翔はのんびりした調子で厨房から出てきただけだった。

次回はまた明日〜

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