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真エンディングにはまだ遠い

作者: そら

皆様、初めまして!

思いつくまま、気の向くままに書きました。

ほんの少しでも楽しんでもらえますように!

「カルラ=リーセル!貴様との婚約は今宵限りだ!」


煌びやかなシャンデリアの下、さざめく喧騒と衣擦れの音。

色とりどりの名家の華がそこかしこに咲き誇る舞踏会で、高らかな声と共に告げられた言葉に、その場にいた全員が水を打ったように静まり返った。


「そなたの今までの悪辣な振る舞い、私の耳にも届いているぞ!

この可憐なサーシャ嬢を虐めるなど、まさに悪女!許しがたい!」


そう告げる青年はこの国の第一王子にして王太子であるシャルル。

彼は広間の大階段の踊り場に立ち、優雅にカールした金髪をかき上げて芝居がかった様子で傍にいる一人の少女の肩を抱き寄せた。

どうやらこの方がかのサーシャ嬢らしい。


「よってこの婚約は破棄!私は真実の愛と共に生きてゆくのだ!」




ーーーーーーおぉ、これぞ悪役令嬢断罪!まさにテンプレ!

私は部屋の片隅でその光景を見守りながら、踊る心を押さえてグッと拳を握った。

よし、このまま二人の真実の愛を見せつけてやるのよ!と、思っていたのだが。




「・・・無理に決まっているでしょう」


はぁ、と大きなため息と共によく通る声が響いた。

その声に人々の目が一人の少女に向けられる。


彼女の名はカルラ。

リーセル侯爵家のご令嬢にして、この断罪のもう一人の主役である悪役令嬢だ。

宝石とも称えられる漆黒の瞳を死んだ魚のように濁らせながら、彼女は再度ため息をついた。


「そもそも、私たちの結婚は王命です。何があろうと王命を破棄できるのは国王ただお一人。もしや王が許可されたのですか?」

「あ、いや、まだこれから、だが・・・でも貴様の罪状が」


彼女の指摘にシャルルはゴニョゴニョと言葉を濁す。

そんなシャルルに、彼女はにっこりと微笑んだ。


「では王から許可をいただいてから再チャレンジで。楽しみにお待ちしておりますわ」


優雅なカーテシーを披露すると、彼女は静かに去っていった。




ーーーーーーって、ちょっと!

ここは私の小説の世界なんだから、ストーリー通りに動いてくれないと困るのよー!!!

心の中で絶叫して、私はその場に崩れ落ちたのだった。




私の名前はリサ。小説家の卵だ。

いや、実際には卵ですらない、小説家を夢見ていたOLだった。


それがある日突然、私が書いた小説「君と光の中で」の世界に転生してしまってまぁ大変!となったわけだけど、そこはご都合的な?作者チートが働いたのか、今の私はさる伯爵家のご令嬢として暮らしつつ、モブとしてこの世界の成り行きを見守っている。


私が拙い文章で表現した世界は想像よりもはるかに素晴らしく、目にするもの全てが魅力的で美しかった。

あぁ、私の作った世界はこんなにも素晴らしかったんだと、これをどう表現したものかと日々研鑽しているけど、実際に目の当たりにしていてもとても文章では表現できなくて、ペン先を噛み締めながら自分の語彙力のなさに絶望する毎日だ。


そんな小説世界ライフを楽しんでいる私なのだが、一つだけ不満があった。


「君と光の中で」は、王子と平民の少女とのラブストーリーだ。

王子がお忍びで訪れた下町で健気に働く少女を見初め、二人は恋に落ちる。

数々の試練を経て、最後に王子は婚約者であった侯爵令嬢が少女を虐めていたことを突き止めて断罪し、少女を王妃に迎えてハッピーエンド!そして感動のフィナーレを迎えるはずだったのだ。


なのにここでの現実ときたら酷いものだった。


「サーシャを虐めたことは調べがついている!」

「どこに証拠がありますの?」

「し、証拠は、その・・・」


「しらばっくれても無駄だ!周りの者の証言が・・・」

「王太子ともあろうお方が近侍の証言を鵜呑みになさるのですか?」

「な?!そ、そんなことは・・・」


「先日のお茶会の際、彼女を罵ったというではないか!」

「そのお茶会は欠席しておりましたし、そもそもこの方とは今日が初対面ですわ」

「・・・・・・」


とまぁ一時が万事全てこの調子で、一向に悪役令嬢が断罪されてくれないのだ。

これではいつまでたってもエンディングが見られない。


やはり作者たるもの、自分の作品はエンディングまで見届けたい。

絶対に見届けたいのだ。

ドン!と私はテープルを叩いた。


「もう!なんで断罪されてくれないのよ!いつまで経ってもちっとも話が進まないじゃない!」


するとテーブルの向こう側でゆっくりと紅茶を楽しんでいた少女がにっこりと笑った。


「当たり前でしょ。あんなお粗末な筋書きで断罪される馬鹿がいるものですか」

「・・・カルラ酷い」

「だって、もう何回目です?流石にもう飽きてきましたもの」


ふぅ、と物憂げなため息を吐く彼女は、もちろん先の断罪されそうになった「あの」カルラ嬢だ。


ひょんなことから知り合った「悪役令嬢」は、自分が作ったキャラクター設定とはだいぶ違うさっぱりした姉御肌のお嬢様だった。

その際にちょこっとお話したところ何故かいたく気に入られたらしく、それ以来こうして度々お茶会に招いてもらっている。


もちろん彼女には私がこの話の作者だということは内緒にしているが、彼女に言わせれば私のストーリーは「お粗末すぎる」らしい。


「だいたい、貴族社会は階級を重んじております。平民がいきなり王宮に上がって王妃になどなれるわけがないじゃありませんか」

「え、でも実際に元平民の王妃とかいるじゃない」

「物には順序というものがあります。まずは下級貴族の養子となって素地を作り、そこから大貴族の養子となって家格をあわせて相応しい教育を施し、そこで初めて検討がなされるのです。それまでは検討どころか口の端にも上りません」

「えぇ・・・ロマンがない」

「ロマンで貴族は務まりませんわ」


涼しげな顔でカルラはそう言うが、確かに貴族としてやるべきことは私が思った以上に多い。

書いていた時は毎日優雅にお茶を嗜んでオホホ、と笑っていればいいのだから気楽でいいなぁと思っていたけど、実際に貴族教育を受けた今となっては全国の貴族の皆様ごめんなさいという心境だ。

うん、勉強になったと遠い目になる。


「うーん・・・ならサーシャが王様に直訴してみる、とかは?」

「貴方、彼女を殺す気?不敬罪は斬首の上、一族郎党も道連れですけど」

「え、そうなの?!」

「えぇ。特に王族への不敬罪は死罪一択です」

「ひえぇ・・・」


それは知らなかった。

流石に寝覚めが悪すぎるから不敬罪はやめておこう、うん。

ならどうしたものか・・・。


私がウンウン唸っていると、カルラは優雅にカップを持ち上げてにっこりと笑った。


「リサが何を企んでいるのか存じませんけれど、断罪はともかく婚約破棄は歓迎しておりますわ。あ、その際はぜひあちらの有責で」


真実の愛とか寝言を言っているようなボンクラと結婚などごめんですから、とすました顔で紅茶を飲むカルラに私も激しく同意する。

確かに周りから見たら、頭の中に花でも咲いてそうな王子様だ。

あんな人だと思って書いてなかったんだど。ホントごめん。


「そうだね、頑張ってみる!」


私は心の中で拳を握った。

せっかくこの小説世界に転生したんだし、やっぱり作者としてはエンディングを生で見たいじゃない!

ぜーったいにエンドロールを迎えて見せるんだから!

もちろん、みんながハッピーで終わるやつね!


「ねぇカルラ、何かいい断罪方法はないかしら?」

「・・・貴方、本当にやる気あります?」

お読みいただきありがとうございました!

よろしければ感想などいただけると嬉しいです!

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