エピローグ
三日後。
病室にあるテレビからはニュースが流れていた。
「先日、海の家で男女二人が監禁され暴行を受けた事件の続報です。海の家の地中から発見された白骨化遺体は埋められた後コンクリートで固められており、DNA鑑定の結果を待たなければ分からない状態となっておりますが、状況等から遺体は十三年前に行方不明となっている羽生蛇崇さんではないかと見られています。一方被疑者と見られる二階堂楓容疑者は依然黙秘を続けているようで――」
病室のベッドで幸太が横になり、その横に腰掛けた叶がうんざりした様子でため息をつきながらテレビを消すと、優しく語り掛ける。
「黙秘じゃなくて会話が出来ないだけでしょ。私達もちょっとした有名人になっちゃったか。また私のせいで入院になっちゃったね、ごめんね」
「だから叶さんのせいじゃないって。そう言えばこんな短期間で何度も入院する奴も珍しいって医者に呆れられたよ」
そう言っておどけて笑う幸太を見て、叶も笑みを見せる。
「確かにそうだね……私さ、君や弘人君、それに咲良ちゃんにはちょっと申し訳ない事したかなって思ってるんだよね」
「な、なんで?」
視線を落としてそんな事を言う叶に、幸太が驚きながら尋ねる。
「だって私が変に首突っ込まなきゃ今もきっと皆笑いながらあの海の家で働いてたんだよ。あんな過去を暴いて皆の日常を壊すぐらいなら、そっとしといた方がひょっとしたら皆幸せだったのかもしれないなって」
そう言って儚い笑みを見せる叶の手を幸太がそっと握り締める。
「そんな事ないって。あのまま放っておけば羽生蛇崇さんの悪霊が這い出して来て、皆に悪影響を及ぼしたかもしれないじゃないか。それに楓さんはやっぱり過去の罪を償わなきゃいけないと思うし、何より弘人も咲良ちゃんも昨日見舞いに来た時に『叶さんに本当に申し訳ない』って言って落ち込んでたぐらいなんだから」
「そうなんだ……ひょっとしたら、余計な事しやがって、ぐらい思われてるかもとか思ってたんだけど」
「そんな訳ないって。咲良ちゃんは親戚の楓さんが俺達にした事を本当に申し訳なく思ってるみたいだし。ただ咲良ちゃん、何処か楓さんに憧れてる様な所もあったからかなりショックは受けてるみたいだったけど。もし良かったら叶さんからも咲良ちゃんに声掛けてあげてくれないかな?」
「そっか、本当は二人ともちゃんと話したいんだけど、警察に拘束されたりするせいで全然時間が取れないのよねぇ。じゃあまた咲良ちゃんに連絡してみようかな。それでね幸太君、私ね、一旦京都に戻ろうかと思ってるの」
叶の言葉を聞き、幸太が驚き体を起こすと、目を見開き驚愕の表情を見せる。
「えっ?いやいや、なんで?なんで戻るの?」
そんな幸太を見て、叶は眉尻を下げて困った様な笑みを浮かべた。
「なんでって、私こっちには少し滞在するぐらいの気持ちで来てるんだよ?今借りてる部屋もウィークリーマンションだし。そして今こうしてる間にも京都の家賃もかかってるの。流石にこれ以上二重で家賃払い続けるのは辛いって。幸太君がこっちの家賃払ってくれるの?」
「え、あ、いや、それは……」
経済的問題を出されては、学生の身である幸太は思わず口を噤んでしまう。
「でしょ?だから京都に戻って荷物まとめて解約の準備しなきゃいけないの」
「えっ?解約……」
幸太がきょとんとした顔をして見つめると叶は含みの笑みを浮かべた。
「そう。私ね、こう見えて遠距離恋愛とか無理なタイプなんだ。会いたいと思った時にはすぐに会いたいし、まぁ一人になりたい時にはほっといてほしいんだけどね」
それは我儘って言うんじゃ――。
そんな事が頭をよぎった幸太だったが口には出さずに言葉を飲み込んだ。
「えっじゃあ、ひょっとして――」
そう言って破顔する幸太を見て、叶も満面の笑みを浮かべた。
「そう、こっちに引っ越す準備よ。二、三日したら戻って来るからそれまで大人しく入院しといてね。じゃあ時間ないから早速行って来るね」
そう言って叶は立ち上がると手を振りながら部屋を後にする。
あっ、本当にもう行っちゃった。叶さん行動早いんだよな――。
幸太がそんな事を考えていると、すぐに叶が扉の向こうから顔をひょっこり覗かせる。
「私がいないからって浮気するなよ」
「しないって!」
慌てて幸太が言うと、ニヤリと笑って叶は去って行った。
その後叶が駅のホームで佇んでいると後ろから聞き覚えのある元気な声が響いた。
「叶さん!」
叶が振り返ると、そこには目に涙を浮かべた咲良が立っていた。咲良は驚く叶に向かって走り、抱きつく。
「幸太君に叶さん今日京都に帰っちゃうって聞いたから飛んで来ました。私、叶さんに謝りたくて、ごめんなさい、本当にごめんなさい」
そう言って叶の胸に顔を埋めて泣く咲良を叶がそっと撫でる。
「なんで咲良ちゃんが謝るの?咲良ちゃん何も悪い事してないじゃん。だから謝らないでよ」
「でも楓さんが幸太君にも叶さんにも酷い事したから私、謝りたくて……叶さん、またすぐ戻って来てくれるんですよね?」
そう言って、顔を上げた咲良の鼻は赤くなり目も潤ませて真っ赤になっていた。
「勿論よ。またすぐ戻って来るから、その時はまた皆で飲みましょ」
叶がそう言うと、咲良は屈託のない笑みを浮かべて頷いていた。
その後、咲良と叶は電車に乗るまでずっとホームで話し込んでいた。




