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――

 あれは私がまだ大学生だった頃、羽生蛇崇に出会ったの。

 私は当時貴女の言う通りここでバイトしていたわ。当時の私はまだ地味でね、遊びなんかも全然知らなくて、ここによく来ていたサーファーの連中なんかチャラチャラしてて全然好きになれなかった。


 私は海が好きというより仕方なく親戚の仕事を手伝っているような感じだったわ。だからたいして愛想もなく淡々と業務をこなしている私に声を掛けてくるような奴は殆どいなかったの。だけど崇だけは私によく声を掛けて来ていた。初めは私も軽くあしらってたんだけどそれでも彼は懲りずに声を掛けて来て、そのうち私も少しは話すようになっていった。


 それから徐々に私達の距離は縮まっていき、やがて付き合うようになった。

 ただね、仕事中に声を掛けてきた男と付き合うようになったとか親戚の手前大っぴらにはしたくなかったのよ。だから付き合ってる事は誰にも言ってなかった。

 だからね、仕事中に彼が他の女の子と楽しそうにしてるのも知らん顔してやり過ごさなきゃいけなかったの、もどかしかったわ。


 だから仕事が終わって、二人きりになれた時には思いっきり甘えて彼を独り占めしてたし、彼も笑って優しく包み込んでくれていた。


 人知れず二人で愛を深めあって、たまには嫉妬したりもしてたけど楽しかったし、私は幸せを感じていた。


 だけど暫くすると彼の言動に辻褄が合わない事が出てきたの。私が深く追求すると彼は浮気した事を認めた。

 本当に信じられなかった。私はこんなにも崇の事を愛してるのに浮気するなんて。崇は必死に弁明し謝っていたから私は自分の悔しさや悲しさを堪えて許す事にしたわ。これで彼も反省して私だけを見つめて、私だけのものになってくれるならそれでいいかと。


 だけど違った。崇は再び浮気を繰り返した。私は気が狂いそうだった……いえ、狂ってたのかもね。激情に駆られた私は、必死に謝る崇を落ちていた木片で殴りつけた。頭から血を流しながら必死に弁明を続ける崇をもう一発殴りつけると、倒れた崇に私は馬乗りになって掴みかかっていた。

崇は必死に「許してくれ」「俺が愛してるのは楓だけだ」って言ってたけど、私はもうそんな言葉は聞きたくない一心で崇の首を絞めていた。崇は私の腕を掴んで必死に抵抗していたけど、私も力を振り絞って全力で崇の首を締め続けた。すると暫くして気が付いたら崇は目を見開き、抵抗していた腕もだらりと脱力して何の反応もしなくなっていたわ。

 その時初めて自分のしてしまった事に気付いたの。


 焦った私は崇の遺体を海に投げ入れて事故に見せかけようかと思ったわ。だけどもし、司法解剖とかされたら崇が頭を叩かれて首を絞められて殺さている事がバレるかもしれない。そう思った私は咄嗟に崇の遺体を海の家の下に埋める事にした。幸い砂浜だった事もあって私一人でもなんとか崇の遺体を埋めれるぐらいの穴は掘る事が出来た。後はなんとかそこに遺体が埋まってる事を隠し続ければなんとかなる、そう思っていたの。


 だけどね、次はこの海の家を他の会社が買い取ろうとしだしたの。親戚も満更でもない感じで金額次第ではすぐに手放そうとしてたわ。

 私はそれを阻止する為にこの海にまつわる怪談話を広めてやる事にした。

 そう貴女達が知ってる海女の話は私が作って流した作り話よ。崇が行方不明になってた事も手伝って海女の話は瞬く間に広がっていったわ。


 その後幽霊が出る海とか言って海水浴客は激減し、この海の家を買い取るって話もたち消えた。商売も立ち行かなくなった親戚も廃業しようとしてたから、私が格安でここを譲ってもらう事になったの。


 それから海水浴客が戻って来ようが戻って来なかろうが私にはどうでもよかった。崇が埋まってるこの場所が私の手の内にあるならそれでよかったの。


――。


 楓の独演が終わる頃、叶は椅子に腰掛けながら必死に意識をつなぎ止めていた。


『何これ?どうしようもなく眠たい。まさか……』


 虚ろな目で楓を見つめると、楓は見下ろしながらニヤリと口角を上げていた。


「どうしたの叶ちゃん?眠たいの?どこか怪しかったのよね貴女。何か掴んでるんじゃないかってね。だから貴女に出した珈琲に睡眠薬入れといたの。何もなかったら、疲れが溜まって寝ちゃったんだね、で終わらせられたのにそうも行かなくなっちゃったわね。貴女の事嫌いじゃなかったんだけどね、ゆっくり休んだら?」


 薄れ行く意識の中で叶が目にしたものは、口角を釣り上げ冷笑を浮かべる楓の姿だった。

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