二人の行方⑥
「そう言えばお酒強いのか聞いてくれたよね?俺が飲めなかったらって気遣ってくれたのかな?」
お酒が進み、ほど良く上機嫌になった幸太が尋ねると叶がにこやかに答える。
「ああ、前に咲良ちゃんが『今度は四人で飲もう』って言ってたから君が飲めないとは思ってなかったよ。ただ君がお酒に異常に強くて私を酔い潰して変な事しようとしたら嫌だなぁって思ってさ」
「ひとを犯罪者みたいに言わないで下さい」
すかさず幸太がつっこむと叶は楽しそうに笑っていた。ひとしきり笑った後、叶が潤んだ瞳を拭いながら幸太に尋ねる。
「ふふふ、やっぱり君は面白いね……ねぇ少しだけ真面目な話しよっか」
そう言って叶は含みを持たす笑みを浮かべると、思わず幸太の動きも止まる。
真面目な話……ひょっとしてこの前の返事――?
先日告白したのだから幸太がそう思うのも自然な流れだった。
「う、うん、いいよ。何かな?」
もし了承を得られれば晴れて恋人同士になり更に親密になれる。だがもし駄目だった場合は今の関係以上は望めず、寧ろ今日で終わりにもなりかねない。
否応なしに胸が高鳴り、幸太の顔も強ばっていく。
そんな幸太を見て、心中を察したのか叶が眉を八の字にして苦笑いする。
「あ、あの幸太君、幸太さん、ごめんごめん。変な言い方しちゃったね。あの多分勘違いさせちゃってる。私が言いたいのは霊の方。心霊の話」
それを聞いた幸太も苦笑いを浮かべた。
「あはは、あ、そっちの方か。いや、勝手に何の話かと勘ぐっちゃって。あははえっとそれで?」
「ははは、ごめんね、今のは私が悪いね。それで海女の話なんだけど、あの話が本当かどうかは分からないけど海に何か良くないのがいるのは確かよ」
笑顔でサラリと重要な事を言う叶を前にして幸太は目を丸くさせた。
良くないのがいる――。
その曖昧な言葉に幸太は寧ろ困惑した。
「えっと、良くないのがいるって何ですか?霊とかじゃなくて?」
「えっとね、ごめん、多分霊がいるとは思うの。だけど実体を見せないのよ。私と幸太君が二回目に会った時の事覚えてる?君が振り返った後、私が思いっきり君の背中叩いた事」
そう言われて幸太も思い返す。確かにあの時叶に尋ねられ背中を向けた時、ふいに背中を叩かれた。
「ああ勿論覚えてるよ。いきなり背中叩かれてびっくりしたけど、なんか虫がいたからって言ってなかった?」
「まあ確かにそう言ってたけど本当は君の背中に黒いもやみたいな物がまとわりついていたからなんだよね。ただそういったものや霊なんかを物理的に叩ける訳じゃないからおまじないの域は出ないんだけど、しないよりはマシかなって思って叩いてみたんだけどね」
そう言ってあっけらかんと笑う叶だったが幸太は寧ろ困惑していた。
自分に黒いもやの様な物がまとわりついていたのなら、それは決して良い物ではないだろう。自分のせいなのだろうか?何か自分や周りに悪い影響があるんじゃないか?そんな不安が込み上げてくる。
しかしそんな幸太を見て、叶は優しく微笑んだ。
「まぁいきなりそんな事聞かされたら不安になるよね。でもその時以来君に黒いもやはかかってない。そしてその黒いもやは君だけじゃなく咲良ちゃんや他の海水浴客にもかかっていた。そう思うとその黒いもやの主は海水浴場にいて、その場にいる人にまとわりついたりしているんだと思う。ただその基準が分からないの。初めは君みたいに負のオーラまとってる人にまとわりつくのかと思ったけど咲良ちゃんにはそんな節はないし、溺れた海水浴客もそう。何を基準に黒いもやはまとわりつくのか分からないのよ。何か共通点があるのか、それともただの気まぐれなのか」
そう言って押し黙った叶を見て幸太も少し考えを巡らせてみる。自分と咲良の共通点といえば海の家でバイトしているぐらいか?他には共通の知り合い等もいるがそれがどう関係してくるのかも分からない上、溺れた海水浴客がどの様な人物かも分からなければ共通点の探しようもなかった。




