告白⑦
席に戻った二人はゆっくりとカップを口元に運ぶ。少し冷めてしまった珈琲を飲み、幸太が叶に問い掛ける。
「あの、何処から見てました?」
「君があの子に対して『何か用か?』って言った辺りからかな」
めちゃくちゃ序盤じゃねぇか――。
そんな事を思いながら幸太は頭を抱える。
そんな幸太の仕草を見ながら叶はくすくすと楽しそうに笑った。
「どうしたの?見ちゃ駄目だった?君があの子に対してどうするか見たかったんだよね。ちゃんと否定して怒ってたね。もう未練は無いのかな?」
「有る訳無いでしょ。今思うと何であんなに卑屈になってたのか不思議なぐらいですよ」
「君は優し過ぎるから、その優しさが仇となってあんなモンスター産み出すんだよ」
そうやって少し諭すように言ってくる叶の目は先程までの冷たい目ではなく、優しい目をしていた。
『さっき鬼龍さんは俺の事、幸太君、と呼んでくれた。俺も叶さんと呼んでいいタイミングなんだろうか?それに、私の大切な人、とも言っていた。あれは俺の事でいいんだよな?』
幸太が考え込んでいると叶が少し眉根を寄せて覗き込む。
「君さぁ、こんな美人目の前にして考え事にふけるなんて凄いね」
「えっ、あっ、ごめん。その、さっき――」
幸太が慌てて謝罪するが、叶はそれを遮り微笑みを浮かべる。
「ねぇ……この後場所変えてゆっくり二人で話せない?」
なめまかしく微笑む叶を見つめて幸太の胸も高鳴った。
『ゆっくり二人で話せる場所って……それってやっぱり……』
幸太が悦に入り一人ニヤついていると、叶が冷たい目をして呆れる様に語り掛けた。
「君さ、何考えてるの?私は純粋に二人で話がしたいって言ってるんだけど……帰るよ?」
「えっ?ごめんなさい。違う、ちょっと勘違いで、その、俺も叶さんともっと話がしたいから帰らないで」
幸太が慌てて謝罪を口にすると叶はそれでも冷たい視線を尚も向ける。
「……どうしようかな。身の危険を感じるしな」
そう言って妖艶な笑みを浮かべ幸太を見つめると、幸太は思わず息を飲んだ。
「ふふふ、冗談だよ。さぁ早く行こう」
叶がそう言って手を差し伸べると、幸太も笑みを浮かべその手を取った。会計を済まし店を出ると、幸太が自転車を押し、その横を叶が歩く。二人は軽い会話を重ねながら繁華街から少し離れた人気のない公園にやって来た。
「夜の公園か。色んな意味で雰囲気あるね」
叶はそう言いながら公園のベンチに腰掛けると、遅れて幸太が遠慮がちにその横に座った。
誰もいない夜の公園。静まり返り、時折吹く風に木々が揺れ虫の音が響く。叶が言う通り様々な雰囲気がそこにはあった。
「やっぱり近くで見ると痛々しいね。ごめんね、私のせいで」
叶が覗き込み心配そうに眉根を寄せた。普段見透かす様な笑みを浮かべ、少し距離を感じさせる事も多い叶が寄り添う様にして自分を心配してくれる。幸太は喜び胸も高鳴ったが、同時に少し複雑な気持ちにもなった。
「大丈夫ですよ。それよりあの時、叶さんを助けるつもりだったのに結局気を失って、最後は叶さんに助けられたみたいで申し訳ないような、情けないです」
「何言ってんの?情けなくないでしょ。君は私の窮地に助けに来てくれた。だから私ももう一人いた女の子も無事だったんじゃない」
叶の言葉に幸太は俯いたまま苦笑いを浮かべた。それを見ていた叶は一つ大きく息を吐いた。
「あの日、何で私があんな奴らについて行ったか気になる?」
「そりゃ勿論。普段の叶さんならついて行かないと思ったのに」
「まぁそうよね。普段からあんな奴らに簡単について行く馬鹿な女だと思われたくないし聞いてくれる?あの日何で私があんな行動をしたのか……そして私の秘密も」
叶の秘密――。
最後の言葉に不穏な空気を感じたが、叶の真剣な眼差しを受け、幸太は静かに頷いた。




