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告白④

 アパートで横になって休んでいた幸太はスマホのアラームで目を覚ました。画面の時刻は十六時三十分と表示されており、幸太はゆっくりと身体を起こす。


「もうすぐ閉店かな?そろそろ行こうか」


 起き上がった幸太は鏡の前に立ち、寝癖を直しながら身支度を整える。


『少し大袈裟に見えるか?』


 そんな事を考えながら腕に包帯を巻き部屋を後にした。夕方とはいえ、夏の日差しはまだ容赦なく照りつける。じんわりと汗を滲ませながら自転車をこぎ進め、三十分程で海水浴場へと辿り着く。


 しかし海水浴場へ着いた幸太が海の家へと行くと既に『閉店』の札が掛かっていた。


「えっ?もう終わってる。早く閉めたのか?」


 少し途方に暮れていた幸太だったが弘人へ連絡しようとスマホを取り出したちょうどそのタイミングで聞き覚えのある元気な声が響いた。


「あれ?幸太君じゃん!」


 声のした方を振り返ると咲良が笑顔で手を振っていた。幸太が手を振り返すと、咲良が弘人を連れて駆け寄って来る。


「幸太君もう大丈夫なの?痛かったでしょ?」

「幸太お疲れ。退院出来たのか?まだ全快にはかかりそうだな。どれぐらいかかる?」


 二人が慌てて駆け寄って来てくれたのは嬉しかったが、矢継ぎ早に二人が質問を投げかけてくる為、幸太も苦笑いを浮かべていた。


「いや、まぁ結構痛かったけどもう大丈夫だよ、退院も出来たし。全快するのはまだかかりそうだけど日常生活には支障なさそう。二、三日でバイトには復帰出来るかなって思ってるんだけどな」


 戸惑いながらもにこやかに笑う幸太を見て、二人はひとまず安堵の表情を浮かべていた。


「そういえば今日のバイトどうなったんだ?もう店閉めたのかよ?」


「ああ、食材が尽きて早めの店じまいになったの。だいぶ忙しかったんだけど叶さんが手伝ってくれたからなんとかなったかな。まぁ叶さん目当てのお客さんもいたから叶さんのせいで忙しくなった様な気もするけど」


 咲良が笑って言っていたが、それを聞いた幸太は戸惑いの色を見せた。


「えっ?鬼龍さんがバイトに来たって事?なんで?」


「なんか幸太君が怪我したのに責任感じて手伝いに来てくれたみたい。早く終わったから海にも誘ったんだけど『水着ないから』って断られて、さっき帰っちゃった」


 咲良は眉を八の字にしながら笑っていたが幸太は慌てて踵を返す。


「ごめん、ちょっと鬼龍さん追いかけてくる。楓さんには明日また顔出すって言っといて!」


 慌てて駆け出しながら振り返り叫ぶ幸太を二人は笑顔で見送っていた。

 浜辺を後にした幸太は自転車に跨ると精一杯ペダルをこぐ。もし叶がまっすぐ帰ったなら以前送って行った方向へ行った筈だと思い、自転車を必死に走らせた。


 しかし幸太が必死に自転車をこぎ進めて行くが遂に叶を見つける事なく、先日叶と別れた場所まで来てしまった。


『……ひょっとしたらコンビニとかに寄ってるかも』


 そんな事を考えて近くのコンビニ数軒に立ち寄ったが叶には出会えず暫く周辺を徘徊した後、幸太は途方に暮れていた。


「はぁ、何やってんだろ……」


 気が付くと日も傾き時刻は十八時を回っていた。街行く人達の喧騒の中、幸太がベンチに腰掛け項垂れていると、幸太の前で一人の脚が止まった。


「君、分かりやすく項垂れてるね」


 聞き覚えのあるその声に慌てて顔を上げると、そこには幸太の事を覗き込む様にして叶が立っていた。


「鬼龍さん」


「倉井君いつも項垂れてない?……っで、何処見てんの?」


 座っている幸太に対して叶が膝に手をつき前かがみで覗き込んでいた為、思わず幸太の視線が叶の胸元に行ってしまった。それに気付いた叶は笑みを浮かべたまま胸元を手で隠すと、幸太は慌てて頭を振る。


「い、いや、違う。その、たまたま目が行っただけで変な目で見てた訳じゃないです」


「へぇ……スケベ」


 笑みを浮かべた叶は上体を起こし反転するとさっさと歩き出した。


「あっ、ちょっと!鬼龍さん待って」


 幸太が慌てて立ち上がり急いで後を追うと、叶は振り返りほくそ笑んでいた。

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