告白
翌日。
朝から強い日差しが照りつける中、楓が海の家で開店準備をしていた時、突然後ろから声を掛けられた。
「おはようございます」
あまり聞き慣れない声に、楓が不思議に思いながら振り返るとそこには明るく茶色い綺麗な髪を一つにまとめ、白いノースリーブのシャツにショートパンツという軽装な格好の美しい女性が立っていた。モデルかと見紛うその美女はここ最近よく見かけていたのは覚えている。
「貴女、確か幸太君の友達の……」
「はい、鬼龍叶です」
「幸太君はまだ休みなんだけど?」
楓が戸惑いながら問い掛けるが、叶は満面の笑みで頭を下げる。
「はい、彼が暫く休みなのは分かってます。彼の怪我の原因は私にもあります。この忙しい時期に倉井君が休みになって大変だと思ったんで、私に手伝える事があればと思って来ました」
「……それはここで働いてくれるって事かしら?」
「はい。注文聞いたり、食事をテーブルに運ぶぐらいなら出来ると思うんで手伝わせてもらえませんか?」
そう言ってにこやかに立つ叶を楓は腕を組みながら見つめる。まるで品定めをするかの様に叶を見つめていた楓だったがすぐに口角を上げ、ニヤリと笑った。
「貴女みたいに容姿が整った子が雇ってほしいってやって来て、断る人はいないと思うよ。特にこんな接客業なら特にね。OK、本当に人手がいないから助かるわ。とりあえず各テーブル拭いて来てくれる?」
楓が笑顔で布巾を渡すと叶は受け取り笑顔で準備に取り掛かった。それから暫くすると咲良も顔を出す。
「おはようございます……って、あれ?叶さん?」
店に来るなり叶が目に入り咲良が目を丸くさせて驚いていると、叶が歩み寄り深々と頭を下げる。
「今日から暫くこちらでお世話になる鬼龍叶です。よろしくお願いしますね咲良先輩」
「えっ?ああ、えぇっと、よ、よろしくお願いします。えっ、どういう事?」
あえて丁寧に満面の笑みで挨拶する叶を見て、咲良は面食らいながらも挨拶を交わす。
「紹介は必要ないでしょ?今日から幸太君が復帰するまでの間手伝ってくれるらしいから、咲良仕事教えてあげてね」
「えっ、あっ、はい」
詳しい説明もなく楓にそう言われ、咲良はひとまず返事を返していた。普段は元気に自らのペースでいる咲良が泡食っている様がおかしかったのか、叶はくすくすと上機嫌に笑っていた。
その後、叶に仕事を教えながら開店準備を進めていく咲良が笑顔で叶に話し掛ける。
「えっ、叶さん、本当にここで働いてくれるんですか?」
「ええ、倉井君の怪我の要因は私にもあるからね。それにここで働いていれば例え連絡先知らなくても倉井君と出会う事はいくらでもあるでしょ」
咲良は焼き鳥屋で叶が『まぁ倉井君がその気になれば何時でも話せるようにしとくわね』と言っていた意味が分かり笑みを浮かべる。
その後三人で開店準備を進めていると、ようやく弘人も姿を見せた。
「えっ?あれ?鬼龍さん?」
咲良と同じ様に、店に入った瞬間戸惑う弘人に叶がゆっくり歩み寄る。
「今日から暫くこちらでお世話になる鬼龍叶です。よろしくお願いしますね弘人先輩」
咲良の時とまったく同じ様に満面の笑みで挨拶する叶を見て、咲良と楓は苦笑しながら見つめていた。
その後弘人は咲良と同じ説明を聞かされようやく事態を理解した。




