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出会い②

 人もまばらになった通り沿いのベンチで幸太は一人スマホを見つめながら座っていた。既に唯が去り一時間以上が経っていたが、それでも動く気にはなれなかった。


 幸太が放心状態のまま周りを見渡すと、少し先にあるベンチで同じ様に腰掛けている女性がいる事に気付く。少し距離はあったが、女性はこちらを見ている様にも思えた。

 しかし幸太は気にする事なく、手元のスマホに目線を落とす。画面は暗くなったままで情けない顔をした自分自身が映っているだけであり、そんな情けない自分の表情を幸太はただじっと見つめていた。


「あの……君、大丈夫?」


 不意に声を掛けられ、幸太が顔を上げるとそこには綺麗な女性が不安そうな表情をして覗き込んでいた。服装からして先程から少し先にあるベンチで座っていた女性であろう事は幸太もすぐに理解した。


「あ、はい。大丈夫ですよ」


 幸太が虚ろな目をしながら必死に笑顔を作りそう返すと、その女性は少し目を細めてなんとも言い難い笑顔を見せた。一見すると柔和な笑みにも見えたが、その瞳は幸太を見透かし、見下している様にも見えた。勿論立った状態から座っている幸太を見ているからそう見えただけかもしれない。だが幸太は女性から何処か神秘的な感覚さえ感じていた。


「本当?私向こうのベンチから暫く君の事見てたけど三十分ぐらいずっと俯いてスマホ覗き込んでたよね?様子がおかしいなって思って声掛けてみたらスマホの画面は真っ暗だし本当に大丈夫?あ、あとスマホ勝手に覗いたのはごめんね。たまたま目に入っただけだから」


「あはは、大丈夫ですよ別に」


 今度は明るく笑う女性を幸太も思わず笑いながら見上げた。自分が座っているから正確には分からなかったが身長は平均的な女性よりも少し高い気がした。恐らく165~170cmぐらいに思える。細身の体躯で薄い水色のシャツから伸びる細い腕や白のショートパンツからスラリと伸びる長く綺麗な脚がスタイルの良さを物語っている。

 一言で表すなら『容姿端麗』という言葉がぴったりはまる。幸太は思わず女性に見惚れてしまっていた。


「ふふふ、まだちゃんと笑えるみたいだね。あまり深刻に思い詰めて、変な方向に行かないでね」


 女性はそう言って含み笑いを見せながら幸太を見つめていた。その綺麗な三白眼からは少し妖艶さも感じられ、幸太は思わず目を逸らしてしまう。


 女性は笑みを浮かべたまま自分の左手の人差し指と中指をぴんと立て、自らの息をふっと吹き掛けた。そしてそのまま二本の指で幸太の肩にそっと触れる。


「ふふふ、少しだけおまじない。じゃあね」


 呆気に取られる幸太だったが女性は甘い香りを残し、そのまま振り返り去って行った。


「……綺麗な人だったな」


 幸太が一人呟いた。残された幸太は再びスマホに視線を落とすと電話帳で弘人(ひろと)の名前を指でタップする。数コールの後、弘人は電話に出た。


「おう、どうした?いきなり電話とは珍しい」


 明るい声で電話に出た弘人だったが、裏からは街の喧騒も聞こえる。


「あ、悪い。外だったか?」


「ああ、咲良(さくら)と飯行こうかと思って出て来た所だったんだ。お前今日、唯とデートだったんだろ?」


「ははは、まぁそうなんだけど……さっきフラれたよ」


「え、あ、いや……マジか」


 自虐的に笑って、努めて明るく伝えたつもりだったが、弘人が動揺しているのが電話口でも伝わってくる。


「まぁ咲良ちゃんと一緒ならいいや。とりあえず別れた事、言っとこうかと思っただけだから」


「いやいや、ちょっと待てって」


 二人の邪魔はするまいと幸太が電話を切ろうとしたが、慌てて弘人が制止する。幸太は戸惑っていたが電話の向こうでは二人が何やら騒いでいた。すると突然、電話口から元気な女性の声が響いてきた。


「ちょっと幸太君別れたの?じゃあとりあえず今から三人で乾杯しましょう。駅前のいつもの焼き鳥屋で待ってるからね。じゃあ」


 そう一方的に言って電話は切られてしまった。暫く立ち尽くしていた幸太だったが一つ大きなため息をつくとゆっくりと駅前に向かって歩き出した。

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