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苦悩

翌日。


 旧校舎での事件から一夜明け、叶は地元警察署で朝から事情を聞かれていた。昼を大きく回った十五時頃、叶は少し恨めしそうに振り返りながら、ようやく警察署を後にする。


「ふぅ、私は被害者なのになんでこんなに拘束される訳?……それに真相を言った所で信用しないくせに」


 叶は独り言の様に小言を呟くと足早に先を急いだ。

 叶が向かった先、それは楓の海の家だった。叶が海の家に着くと、ピークを終え、クタクタに疲れ果てた弘人と咲良が会話を交していた。店内に目をやると客は数組でそこまで忙しさは感じられず、叶は咲良の元にゆっくりと歩み寄った。


「あ、あの咲良ちゃん。ちょっといい?」


「あ、叶さん。今、丁度弘人と幸太君と叶さんの話してたんですよ。叶さん、大丈夫なんですか?警察に呼ばれてたんですよね?」


 叶に気付いた咲良が少し驚いた様に目を丸くさせて尋ねると、叶は笑みを浮かべながら小さく頷いた。


「ええ、大丈夫。その……倉井君はどうなったの?今日は休み?」


 店内を見渡し幸太は見当たらず叶が尋ねたが、それを聞いた弘人が咲良の後から身を乗り出した。


「幸太は今、入院してます。暫くは休みになるんじゃないかな?」


「えっ?入院って……倉井君そんなに酷いの?」


 弘人から幸太が入院している事を告げられ、流石に叶も衝撃を受けている様だった。焦りを見せる叶に弘人は更に続けた。


「まぁ、入院って言っても検査入院ですけど。何も異常がなければ明日には退院出来るみたいですけどね。気になるなら見舞いに行きますか?」


「……やめとくわ。今からいきなり押しかけても迷惑かもしれないし、明日退院出来るならその後話せたらいいから。ありがとう」


 そう言って踵を返すと叶は外に向かって歩き出した。しかしすぐに咲良が後ろから叶に声を掛ける。


「叶さん、今日何か予定とかあるんですか?」


「えっ?……まぁ特に予定は無いけど?」


「本当ですか!?じゃあ良かったら夜ご飯行きましょうよ。ゆっくりと話も聞きたいし」


 少し戸惑いを見せた叶だったが、咲良の勢いに押されて拒否する間もなく、約束を取り付けられてしまった。叶は仕方なく浜辺で海を見つめながら思慮を巡らせる。


『なんでこんな事になったかなぁ。私は霊達の噂を確かめたかっただけなんだけどな。あの時、倉井君に声掛けた所から始まったのか。だって目に見えて項垂れてるんだもん、気にはなるよね。それに明らかに悪い気にあてられてたし……そう思うと倉井君の災難の連続は悪い子にあてられたから?それとも悪い事が続いて倉井君が気落ちしてたから悪い子が寄って来たのか?鶏と卵の話じゃないけど、そう考えたら少し哲学的かしら……』


 叶が浜辺で一人座り、頬杖をつきながら微笑を浮かべていると、少し離れた所から咲良がスマートフォンを構え、写真を撮っている事に気付いた。


「咲良ちゃん、それ盗撮じゃない?」


 そう言って咲良の方に向き直り満面の笑みを浮かべてあえてポーズを取った。咲良は笑いながらもう一枚、そんな叶を写真に収める。


「いいですね、美人は海をぼーっと見つめているだけで絵になります。幸太君に送っちゃ駄目ですか?」


 そう言って咲良は笑いながら駆け寄り、今撮った叶の写真を見せる。


「別にいいけど、何て言って送る気?」


「『べっぴんさんが暇そうにしてますよ。早く元気になってね』とかでいいかなって」


「ふふ、早く元気になってね、か……だったらもうちょっとサービスショットにしてあげた方が良かったかな?ほら前傾姿勢になってみるとか」


 叶が妖艶な笑みを浮かべて前屈みになり胸元を強調すると、咲良は更に楽しそうに笑っていた。


「あはは、そんなに幸太君を誘惑しちゃ駄目ですよ……それに私、叶さん程ないから嫉妬しちゃいます」


 最後に咲良が冷たい目で見つめると、叶は苦笑いを浮かべる。


「ふふふ、本当にもう少しで終わるから待ってて下さいね」


 そう言って笑顔で戻って行く咲良の後ろ姿を見つめていた叶だったが、咲良の周りに僅かに黒いモヤの様な物が一瞬見えた様な気がした。


「ふぅ………本当どうしたもんかな……」


 ため息混じりにそう呟き、眉尻を下げて困った様な笑みを浮かべる。

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