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出会い

「ねぇ、幸太。私と一緒にいて楽しい?」


 七月初旬。楽しい筈のデートの帰り道で幸太こうたゆいからそう問い掛けられた。

 眉根を寄せて少し不機嫌そうに尋ねる唯に対して幸太は困った様な笑みを見せる。


「勿論楽しいよ。どうした?急に」


 そう強がって笑顔で返した幸太の声は僅かに震えていた。

 唯と付き合い始めて一年が経つが、最近一緒にいても唯は何処か不機嫌で、楽しそうにしている様には見えなかった。そしてそれを隠そうともせず、あからさまに不快感を示す唯に対して幸太はどうする事も出来ずにいたのだ。


「……そう。私は正直言って楽しくない。今日も私が行きたいって言った所に行って買い物に付き合ってくれただけ。私が『これどう思う?』って聞いても『ああいいと思うよ』って無難な答えが返ってくるだけだった」


「いや、でも別に良いと思ったからそう答えただけで――」


「そんな無難な言葉聞きたい訳じゃないのよ」


 幸太がなんとか(なだ)めようと言い訳していたが、唯はそれを遮り捲し立てる様に不満をぶちまける。


「いつもそうじゃん。『いいと思うよ』『大丈夫だと思うよ』いっつもいっつもそんな無難な言葉しか返せない。今日もあれでしょ?この後居酒屋にでも行って乾杯したら特にオチのない大学の話して、部屋に返ったらセックスして寝るんでしょ?いつもだいたい同じ。ワンパターン!少しは気の利いたセリフとかサプライズみたいなのないわけ?」


 幸太を責め立て、気分も高揚してしまったのか、気が付くと唯の身振りも声も大きくなっていた。そんな唯に気圧されて、幸太は対照的に言葉を失っていた。


「いや、あの、ごめん。唯がそんなに不満だったなんて知らなかったから」


「知らなかった?知ろうともしてなかったんでしょ?あんたね、初めは気の利く良い人と思ったけどそれだけね。全然女の子の扱いにも慣れてないし楽しくもない」


 ここまで言われても幸太は俯き、反論する事も出来ずにいた。そんな姿を見て唯もようやく落ち着きを見せる。


「ふぅ……まぁちょっと言い過ぎたかもしれないけど私達もう無理でしょ?別れましょ。このまま付き合ってても私にも貴方にも良い事は無いって」


「え、いや……直すから。言ってくれたら悪い所直すから」


「……無理だって。私にはもう貴方に対する想いが無いから。それにもうすぐ夏休みでしょ?私ね、無駄な時間過ごしたくないのよ」


 そう冷たく言い放つと唯は踵を返し去って行った。幸太は何も言わずに歩きながら誰かに電話を掛ける唯の後ろ姿をただじっと見つめて佇んでいた。

 ここまで言われて、この様な仕打ちを受けても幸太の中では怒りよりも悲しみや後悔の念が込み上げてくるあたり、幸太の性格を表していた。


『あの時ああしとけば良かった』

『あの時は俺だけが楽しかっただけなのかも』


 自責の念と共に遅れて涙が込み上げてくる。頬を一筋の涙が流れていくと、近くにあったベンチに腰掛け、顔を覆った。

 幸太の一人だけの時間がゆっくりと過ぎて行く。

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