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第五話 竜脈の道

投稿遅れて申し訳ありませんでした。

琥珀はいつの間にか背後に近づいていたらしい。誰かいるとも思ってなかったから、体がこわばった。

「なんだお前、意外とビビりなんだな。」

そりゃ誰だっていきなり背後で叫ばれたらビビると思うが。

「ちょっと周、こいつは誰なのよ!?」

はっきり言って俺が説明するより自分の口から説明してやる方が早い気がする。

「ほら、説明してやれ。」

「もちろんだ! 私はこの体の主人格、神楽琥珀だ! お前は福の神だったよな?」

ビシッ、と自信満々に人差し指を突きつける。その癖を今すぐ直してほしい。

「主人格? どういうことよ、それにアンタは誰なのよ!?」

「あー、こいつは多重人格みたいでな。神通力はそのうち一人の人格にしかかかってなかったみたいだ。」

「多重人格とは、予想の斜め上をきたわね……わかったわ。それで、あたしはどうすればいいの?」

「その子にかかっている神通力を解いてくれ! このままでは、話が合わなくてその子が苦労する!」

「分かったわ。善神たるもの人が困るようなことはさせない。」

即決した、話が早くて助かるが、許可はどこへ行った。

「おう! ならば交代してやるから待ってろ!」

そう言って、琥珀は壁にもたれかかる。目を瞑った直後、ゆっくりと目を開けた。

「——!? 周くんに優里ちゃんたち、どうしたの?」

「あー、詳しい事情は琥珀に聞いてくれ。神通力を解いてくれるみたいだからちょっと立っててな。」

「琥珀に……? 神通力……?」

「もう解いてるわよ」

「はや!」

「話してる間に、チョチョイのチョイよ。そんなに時間かかる作業じゃないしね。」

とはいえ、学校中の全員に神通力をかけるなら、時間はかかるんだろうな。


その後、琥珀とは校門のところで別れ、またいつもの三人になった。

「知ってますか?」

「何を?」

「もうすぐ、『クリスマス』という一大イベントがあるそうなんですよ。」

「そ、そうだな。」

日本人なら多分全員が知っている。だから貧乏神も知っていると思ったが、言い草からして知らなかったのだろう。

それとも西洋のイベントだから、日本の神様は知らないのだろうか。

「もうすぐと言っても、まだ先の話よ。今はまだ十二月じゃない。」

「いやまあ、十二月の行事だけど。」

「嘘!? じゃあ人間って、十二月に冬休みとクリスマスと大晦日をしてるの!? 年末は随分おめでたいわね。」

確かに、考えたこともなかったな。まあ年中おめでたい、ってことでいいんじゃないか?

「いや、それにしたって年末はおめでたすぎるわ。」

「心を読むなよ…」

「それじゃあ少し早いですけど、お祝いしちゃいますか?」

「そうするか、貧乏神が来て二週間、福の神が来て一週間になるからな。」

「そうなの? よく覚えてるわね。」

忘れるわけがない、というか忘れたくない。


というわけで、山の下のスーパーで半額になってた超特大の鶏胸肉(よくぼうのかたまり)四百グラムをまな板の上に豪快に乗せておく。

「まずは軽く塩を擦り込む、下味をつけるためにな。」

「もうこのあたりから料理は始まってるようなものね。」

「そうだな。」

サラダ油を熱したら、フライパンに皮目を下にして鶏胸肉を滑り込ませる。

彩りのためにミニトマトとサニーレタスを適量用意しておくのも忘れずに。

皮のところにこんがりと焼き目がついたので、そろそろひっくり返そう。

俺は鶏胸肉をひっくり返すと同時に、おもむろにおたまを取り出した。

「周? 今作ってるのは汁物じゃないわよ? 何に使うの?」

「おたま一杯は大体五十ミリリットルなんだ、だからそれで計算してる。まあ、物にもよると思うが。」

おたま一杯分の水を入れて、蓋をして、蒸し焼きにする。そうすると、肉の中の水分が抜けず、ジューシーな仕上がりになる。

「五〜六分経つまで待つんだが、それまでどうするかな。」

「しりとりでもしませんか?」

「お、いいな。」

「じゃあしりとりの『と』からね。本気で行くわよ。」

普通、「り」から始めない?

「朱鷺(とき)、次、周よ。」

「キツネ」

「根南志具佐(ねなしぐさ)、です。」

うん? ああ、平賀源内の作品か。日本史の授業で聞いたことがあるようなないような。

「西方浄土」

「ドーナツ」

「尽用而二分狂言(つかいはたしてにぶきょうげん)、です。」

???

「あ、『ん』がついたわね。」

「あ〜負けました。」

「じゃなくて! いやそうなんだけど、古典? 古典なのか?」

「そうです、でも貧乏なので、名前しか知らないんですよ。」

「ああ、そうなのか……」

なんだか、余計なことを言ってしまった。

「じ、じゃあ、」

「どうしましたか?」

「今度、見に行かないか? そういう、能とか狂言とか。俺もあまり詳しくはないが……」

沈黙が流れる。この重たい沈黙を破るチャレンジャーはこの中の誰なのか。

「あ! ああ、別に、二人で行ってきていいわよ…! アタシ、その日はちょうど、予定が、入ってて……」

「(お邪魔者にはなりたくないし、ついていく必要はないわよね……)」

心が読めない俺にだって、今の気持ちはなんとなく分かった。

それに、まだいつ行くかなんて言ってないんだがな。でもここは精一杯の厚意にあずかろう。

「わかった、ありがとう。」

「ありがとう、ってなによ! だから予定が入ってるって言ってるじゃない!」

顔を真っ赤にさせて、そう反論するが、怒っているわけではなさそうだ。

「悪い、なんでもない。」


さて、時間が過ぎ去ったところで、砂糖と醤油を目分量入れて、ちょっと焼く。

あとは用意しておいた、サニーレタスを皿に敷いて、チキンを盛り、ミニトマトを盛れば完成だ。

「今日は随分いい焼き目がついたわね。」

「長いこと焼いてたから、水がなくなって焼き目がついたみたいですね。」

「おし、よそうぞ。」

なるべく均等になるように盛り付ける、もちろん野菜も忘れずに。

「ちょっと、トマトは少なめにしてよね!」

「でも、野菜は食べないといけませんよ。」

「そうだな、頑張って食べてくれよな。」

ムンクの叫びのような悲鳴が耳をつんざく。それでも、栄養バランスはしっかりしなくてはならない。ここは心を鬼にしよう。

「さて、いただきます。」

「いただきまーす。」

「うん、おいし! やっぱり照り焼きは安定してうまいな!」

「そうね、これが『クリスマス』なのね、楽しいわ。」

「当日はもっと豪華にするつもりだぞ? ……そうだ! クリスマスプレゼントとして、貧乏神が見たいものを見に行こう!」

「……!」


というわけで、早速翌日の放課後、近場でやってないか調べている。ネット代が勿体無いので五分間だけだが。

薄々気づいてはいたが、やはり能も狂言もやってなさそうだ、困った。

と、そこへふすまを勢いよく開けて貧乏神が登場した。

「というわけで周、早速江戸へ行きましょう!」

「え? え? でも、準備をしないとだし、大体金が……」

「竜脈の道を辿ればすぐですよ!」

そういうや否や、貧乏神は俺の手首を掴み、外へ飛び出す。

そのあと、背中から翼を生やし、空高く飛んでいく。……翼!?

「おおー! 高いなぁ、街の景色が小さく見える……」

ぐんぐんと昇り、ついに見慣れたまちが遠くに消えた。

「この道は、かつて竜が通ったとされるものです。翼による推進力があれば、大幅な時間短縮が見込めますね。」

「いいな、それ。」

通天閣、合掌造り、富士山と、各地の名所をダイジェストで巡る。

「では、もうすぐですね。降りましょう。」

そして、飛行姿勢を変えて、ほぼ垂直に自由落下をした。

「おい、これ大丈夫か!? 死なないよな!?」

「二百年前に試したので大丈夫なはずです。」

安心材料にギリギリならない。生身の人間は耐えられるのだろうか。

ストン。さっきの勢いとは裏腹に、軽やかな着地。

宝珠稲荷神社、そんな暖簾が立てかけてある街角の神社に到着した。

ごった返すほどの人、クリスマス仕立ての飾り付け、写真でしか見たことのないような光景が一面に広がる。

そしてそれを嬉々として眺める貧乏神。ついてきて良かったと心から思う。

「これが……東京か!」


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