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4.つまり状況を整理すると

「私は王位継承権1位のノアの婚約者になるためにノアに買われたと。」


自分の置かれた状況を強引にでも飲み込むために言葉にしてみる。


「はい、そうなります。」


クドウさんはにっこりとした笑みを崩さないまま当然といいのけた。



「いーやいやいやいや、私、えっ?だって私、昨日…じゃなくて3日前まで普通にアンティークにいた、ただの踊り子ですよ⁈急にそんな‼︎だってノアの婚約者ってことはゆくゆくは…」


…王妃ってことだよね⁈


私が王妃⁈いやいや、ありえないでしょ。


こんな一般庶民がランク外からこの国のトップとか無理無理無理!!


絶対想像できないし口に出すのも烏滸がましい気がして言い淀む。



「はい。まぁ不本意かもしれませんが、大出世と考えてもらえればいいですよ!それにあなたは〝ただの踊り子”じゃないでしょう?この王国で一番健全な見世物小屋であるアンティーク。その中で一番の舞姫なのでしょう?」



「えっ⁈」


何言っちゃってるの⁈クドウさん。私がアンティークで一番なんて、言ってないし!!


そう思いながらここに連れてこられる前のことをぼんやりと思い出す…


……。


『申し遅れました。私がこの小屋で一番の舞姫、アメリアでございます。』



…言ったわ、言ってたわ。

あの時は怒りに任せてノアに確かにそう言ってしまった。


自分の発言を思い出して両手で顔を覆う。




恥ずかしい…。


目標も持たず何も望まずに生きてきた私が、あの店で一番なはずない。


大した努力もせずに生きてきた私が一番になれるほど、舞う姿のみで人々を魅了してきたアンティークは甘くないのだ。


怒りに任せて嘘をついて舞姫だと言ったばかりに私は今ここに連れてこられてこんなことになっているのね。


「はぁ。」


思わずため息をついてしまった。


…嘘をついたから罰が当たったんだ。


私はただのんびり、毎日あの控え室から風に揺れるカーテンを見ながらその日その日を生きていくだけでよかったのに。



茫然としていると、クドウさんが顔を覗きこんできた。


「この国一健全なアンティークの一番の舞姫。あなたの技量を見込んでいますよ。」


そう言われてなんだか泣きそうになる。


舞姫なんて嘘なんです。だからご期待に添えない私をアンティークに返して欲しい。


そう思いながらクドウさんの不思議な漆黒の瞳を見つめていると。



ーコンコンコン!


ノックにしては大き過ぎる音がして入口を見るとそこにはノアが立っていた。


「ノア様、とってもお早いおかえりで。」


クドウさんがクスリと笑う。


うん、そうだよ。だってまた明日って言ってさっき出ていかなかった?

まだ何時間も経ってませんが?


そう思い不思議そうにノアを見つめると、何やら不機嫌で


「やはりクドウでも男は男だ。潤んだ瞳をクドウに向けるとは感心できないな。舞姫。」


と意味わからないことを言った。


潤んだっていうか自分が舞姫とか大それた嘘ついたせいでこうなってるのを恨んでるっていうかなんていうか…うっ…めちゃくちゃ睨んでくる。怖っ。


「クドウ、話は済んだのか?」


そう言いながらこちらに金色の髪をなびかせてスタスタと速足で向かってくる。


「はい。」


「ならもう去れ。」


「仰せのままに。」


クドウさんはそういうとこちらに一礼をして、また足音もなくドアから出ていく。


「ちょ、ちょっと待って!」


と私が引き留めるように手を出した瞬間、その手をノアが大事そうに握ると


「感心しないな。」


と小さな声で呟きながら自身の滑らかな頬に私の手をすり寄せた。愛おしいとでもいうようなその所作に思わず心が跳ねる。


そんな様子を知ってか知らずかドアが閉まる瞬間にクドウさんが何か言った気がするけど、今の私には自分の鼓動の音しか聞こえなかった。



「クスクス。嘘から出たマコトといくでしょうか。期待してますよ、アメリア様。」






男性の、しかもこんな美しい造形の男性の頬に触れたことなんてないから固まってしまう。


そんな様子に気づいたノアは私の手の感触を確かめた後に、伏せていた長いまつ毛をパッとあげてこちらを見つめてくる。


「舞姫。」


そういえばノアは私のことを名前じゃなくてずっとそう言っている。


そうだった。


私って、別にノアにアメリアとして気に入られて買われた訳ではない。


アンティークの舞姫としての技量を買われたのだ。



社交界ではダンスは必須だもんね。最初からある程度できた方が都合がいい。


一般庶民だもん。なんの派閥にも属してないし、貴族でも王族でもない。


ノアの人生に最適な婚約者を準備するために、必要な条件が私には揃っていた(舞姫は嘘だけど)というだけのこと。



ビジネスパートナー。



その言葉が私たちのこの関係にはすごくしっくりくる。

そしてすごくしっくりくるのに、なぜか少し落胆した気持ちになった。


だって今この頬にすり寄せた動作さえも愛情ではなく、ノアの立場を守るための仕事の一環だとわかってしまったから。


だいたい、3日前に会ったばかりの一般庶民の踊り子を囲った上になんの裏もなくこんなことするわけない。


お金で買われただけ。



…はいはい、わかりました。


最高の衣食住が約束されてしかも超絶美貌の王子の婚約者になることができる。それはクドウさんが言ったように、大出世といえば大大大出世過ぎるのかもしれないけど。



まっっったく、まぁ〜〜〜ったく、望んでない!!!!



…ん?


でも考えようによってはノアの1番近くに居れるし、油断したところを一発殴れるかもしれない。私だってノアを殴ることを諦めたわけじゃない。


私が今から向かう先であるこの国の王妃様は絶対にこんな乱暴なことはしない。


一般的に。というか淑女は絶対にしない。


でも私をドアに挟んで、本人の同意もなく勝手に買って囲い込んで悪びれもしないこの男を、この美貌を一発殴りたい。


そうだ!


そっちが私を舞姫として政治的に利用するなら、こっちだってあの手この手でベッタベタに惚れさせて、偽りの愛を誓う結婚式にその美貌を一発殴ってトンズラしてやろう!!




この国を揺らがしかねない最低な、でも私としては最良の目標を掲げてノアと私のオトモダチ生活は幕を開けた。

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