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3.経緯

噛まれた痛みと自分から出た情けない声に驚き右手を強い力でノアに掴まれたまま涙目で抗議しようとした瞬間、



「…入れ。」


私に顔を向けたまま視線だけドアの方に移しながらノアが言った。


「はっ?」


と私もその視線につられてドアの方を向いた。



そこにいた黒髪20代後半くらいの細身のスーツ姿の男性が失礼しますと一礼すると、大股でこちらのベットに向かってきて足を止めた。


何故これだけ大股なのにこの人の足音はしないのかと不思議がっていると



「お初にお目にかかります。アメリア様。私はノア様の執事兼、専属医師のクドウと申します。特技は毒の調合と実験でございます。以後お見知り置きを。」


と再び一礼をして私に切長の黒目を向けた。


黒髪に切長の一重の瞳。線の細い体つきは比較的カラフルな色合いの髪や瞳が多いこの国ではかなり珍しい出立ちだ。


そして執事、専属医師、特技は毒の調合と実験。


ハイスペックなやばい人来たんじゃないのコレ。毒って特技とかになるの?


え、冗談?だよね?…へぇ〜。普通に怖い。



私は噛みつき男と毒が特技の男というよくわからない2人に囲まれて、よくわからない表情になる。


ノアは私の右手を握ったままだ。



「ノア様。僭越ながら申し上げますが、初めてできた女性のお友達を愛しむのはわかりますが、医者わたしの許可なく病み上がりの患者様のベッドに上がり腕に噛み付く《マーキングする》のはおやめくださいませ。」


そう言うとスーツの胸元から軟膏壺を取り出してノアから私の右手をサッと奪おうとする。


しかしノアはヒョイっと私の右腕を握ったまま高くあげて、パッと手を離すとクドウさんから軟膏壺をとりあげる。そのまま蓋を開けて黄色の色をした軟膏を私の右腕の噛んだ部分に少し塗布した。



「痛みを取り除く成分のみを配合しましたので、ノア様のマーキングは数日はもつかと。」


とクドウさんは本当に訳のわからないことを言った。


「そうだろうな。ならいい。」


いや、よくないでしょ。


訳のわからない会話しないで噛み傷まで早く消してよ。と思ったけど、先ほどの腕を噛んだ後のノアの満足げな笑みを思い出すとゾッとして、言葉にはもうしなかった。



「そうしましたらノア様。アメリア様は診察の時間でございます。ノア様は陛下が御面会されますので自室にお戻りください。」


といいノアの退場を促した。…陛下?


「わかった。しかし俺がいない内に何かしたらわかるよな?」


「承知いたしております。軽く健康状態の問診した後にアメリア様にここに来られた理由等々をお話しさせていただくだけでございます。」


その言葉にノアは少し頷くと


「舞姫、また明日会いに来る。」


そう真顔で言って退室した。




クドウさんはノアが退室してドアが閉まってしばらくすると綺麗なお辞儀をやめてこちらを向いた。


「さて、アメリア様が起きられたのは先ほどですか?」


「はい!そうです。」


私はノアは退出してほっとして元気よく答えた。


「その様子だとからだの痛みもなく元気そうで何よりですね。ノア様の懸命な看護のおかげかもしれませんね。」


とクドウさんはしみじみとそう言った。


懸命な看護⁇…なんのこと?…第一こうなった事の発端を考えると最悪な元凶の間違えでは⁇


思わずそう思ってしまった。


「アメリア様も何故ここにいるのか?聞きたいことはたくさんあると思います。まだノア様から何も聞いてらっしゃらないのでしょう?まずは自分のものだと印をつけないと安心できませんからね、ノア様は。」


そう言って困ったようにクドウさんは笑う。


「アメリア様の疑問の回答になるかは分かりませんが、まずは私からお話させてもらえませんか?それから色々お答えしますから。」


「はい。」


この人はとりあえず話ができそうだと思い、私は素直に頷いた。




「まず、ここは王家の第三離宮の医務室でございます。」


「えっっ‼︎‼︎」


「クスクスッ。失礼、思わず反応が新鮮で笑ってしまいました。この国には三人の王子がおり、ひとりひとりに離宮が与えられています。そして第三離宮の主でありこの国の第三王子が先程のノア様だと言うことです。」


え⁈ノアがこの国の王子⁈⁈え、え、さっきまでここにいたあの美貌が⁈


私は軽くパニックになりながら情報を整理する。


…ん?第三王子…?


生まれた頃から教育をあまり受けなかったド平民の私でさえも何度も聞いた話である。


「確か…この国って王子二人じゃなかった…?」


小さく確かめるように口に出すと


「そうですよね、そうなんですよ。表向きでは。」


とクドウさんは微笑んだ。


「でも本当は王子は三人いるのです。確かに国王陛下と皇后様の血筋で。しかし今現在も第三王子は秘匿とされています。理由は2つ。一つは政治的なもの。第一王子と第二王子の妃様はお生まれの時には公に決まっていたのはご存知でしょうか?」


「…確か今から約30年前にあった飢饉で莫大な出資をした公爵家のご令嬢たちだと。」


私はアンティークでお客さんから聞いた話を思い出した。生まれた頃から政治利用される可哀想な王子たちの話を。


「そうです!アメリア様は博識でございますね!」


クドウさんは手を叩いて大袈裟なくらい私を褒めてくれた。

いや、見せ物小屋で聞いた噂話です。とも言えないし…でもクドウさんの柔らかな雰囲気と褒め上手さに得意げになった。


「えへへ。」


でも…よく考えたらこの人の特技毒だった。

そう思いすぐ表情を引き締める。


「大丈夫ですよ。ノア様のお友達に何も致しません。安心してください。」


私を見たクドウさんはにこやかにそう言った。考え読まれてるの怖いな〜。



それからクドウさんは真面目に話し続けた。


「飢饉の対応が遅れて多くの被害を出した王家に、当時2つの公爵家が莫大な出資をし、国の復興を待って見返りを求めました。確かにこの2つの公爵家がなければ国の復興は難しかったと周りからの声もあり、困り果てた当時の王《ノア様のお祖父様》は今後生まれる皇太子の子を公爵家に渡す決断をしたのです。」


なんだか悲しい気持ちになってくる。


「しかし、皇太子様《ノア様のお父様》は生まれてくる我が子たちにも自分の意思で生きてほしい。今後の王国の未来を公爵家に握らせることのないようにしたい。2人の子を抱えた皇太子様はそう考えあぐねいておられた。そんな折皇太子妃様の三人目の懐妊がわかりました。そして皇太子様のお考えの元、懐妊と出産は近い側近と担当医以外は秘匿とされ、そうしてお生まれになったのがノア様です。」


そう言うとクドウさんは懐かしむように目を細めた。


「ノア様は第三王子でありながら生まれてすぐに出産を担当した医者である私の母に預けられました。そしてクドウの家に身を隠しこれまで17年間成長されました。私としては年の離れた兄弟が出来たようでとても嬉しかったですよ。しかしノア様はどんなお気持ちだったでしょうね…」


ノアの気持ちを考え言葉に詰まる。


そんな私を見てパッと表情を明るくして


「まぁ、身分をお隠しになり親元を離れて、森の中で剣や武道、勉学にと揉まれながら過ごされた少年時代を送られたからか、王族とは思えないくらい捻くれ…とても逞ましくなられたと言うのはあります!」


…捻くれって言ったよね今?


執事が王子のこと遠慮なく言えちゃうのは、年の離れた兄弟のように育ってきたからなのかな?やんちゃな弟ノアとそれに少し手を焼く優しい兄のクドウさんって感じかしら?

と天井画の天使の兄弟を見ながら2人の関係性を慮る。




「さぁ、ノア様が秘匿とされている2つ目の理由はもうわかりますよね??」


急に声の圧を感じてクドウさんを再度みると明らかに目がぎらついて鼻息が荒い‼︎


「えっ、えっ、わかりません‼︎」


私が首を横に振ると、ほらっほらっわかるでしょ?と催促するような手招きに焦りを覚える。


今までの優雅な仕草や優しい兄キャラと思っていた印象はなんだったのかと思うほど豹変したクドウさんは腰のポケットから一枚の写真を出した。


目を凝らしてみると…今より少し幼いノアの明らかな隠し撮りだった。

それを紋所の様に私の目の前にズイッとみせると


「わかりませんか⁈1枚の写真でもこの美貌ですよ!!!!!ノア様の美貌は余りにも危険‼︎用法容量を間違えれば動悸‼︎息切れ‼︎鼻血‼︎失神‼︎などの症状を起こしてしまいます。」


怖い怖い怖い、圧が怖いよ。


「生まれた頃から美しすぎたノア様は、その美貌を隠すためにも人口50人程の私たちの山郷イガに預けられたというのもあります。」


クドウさんは必要最低限の呼吸で早口でここまで話すと、ハァーっと深呼吸をしてノアのブロマイドを丁寧にポケットにしまう。




そして仕切り直して


「今その秘匿の美貌をもつノア様が、国の中心部のこちらの離宮にお戻りになり、お父上様と面会されている理由。それはこれからバンギセル王国の王位継承順位1位としての御披露目を控えている為です。」


「王位継承順位1位⁈ノアが…?!」


「はい、そしてそのノア様には何の爵位もなく何の派閥にも属してない婚約者オトモダチが必要でした。」


そう言うとクドウさんは切長の瞳で私の姿をスッと捉えてゾクっとする。


逃げたい!なんか逃げなければならない気がする!そう思ってピクリと肩を振るわせると逃がさないと言うようにめちゃくちゃ大声で


「それが貴女なのです‼︎アメリア様‼︎」


といい放った。



嫌な予感ほど当たるものはない。

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