二人の夜
私が浴室を出るとルタンスも後を付いてきた。
「良かった。服もまともだ」
ルタンスは着替えを確認して、安心する。
本当に失礼だな。
「どうだ?」と私が尋ねるとルタンスは、
「服が大きすぎる。それなのに胸が苦しい」
と苦情を言ってきた。
それにしてもキツイのは胸だけじゃないみたいだな。
「少し痩せた方が良いじゃないか?」
ルタンスが腰回りを気にしていたので指摘した。
すると彼女は顔を真っ赤にする。
「私は標準だ! エドワーズが細いんだ!」
全力で抗議してきた。
「もういい!」と言って、ルタンスはズボンを脱ぐ。
「おい」
「どうせ、エドワーズしかいないからこれで良い。上の服が大きいからスカートみたいになって、下は見えないしな。ふぅ、開放された」
ルタンスは圧迫感が消えて、満足そうだった。
「まぁ、好きにしてくれ」
「…………それで寝る場所はどうなっているんだ?」
本当に図々しい奴だな、と思いながら、私は寝室へルタンスを案内した。
「おい…………」
「なんだ? ベッドは奇麗だろ」
私だって、寝る場所くらいは片付けている。
そうだ、ベッドだけは片付けている。
「床とテーブルが空き瓶で埋められているじゃないか!」
案の定、ルタンスから苦情が入った。
「空き瓶だけじゃない。もしかしたら、中身が入っているぞ。まぁ、中身がいつのかは分からないけどな」
「!!?」
ルタンスが体を震わせた。
「仕方ない。でも、ベッドだけは奇麗で安心した」
とルタンスは言いながら、ベッドへ腰かけた。
「おい、それは私のベッドだ。君は床で寝ろ。毛布くらいは貸してやるから」
私の提案をルタンスは「嫌だ」と即答した。
「こんな床で寝たくない。体が痒くなりそうだ。私はここから動かない!」
ルタンスはベッドで横になってしまった。
「じゃあ、仕方ないな。ほら、もう少しあっちに詰めろ」
私はルタンスを壁際へ押す。
「何をするんだ!?」
「狭いが二人ならギリギリ横になれる」
「圧迫感が凄い……」
「嫌なら床で寝るんだな」
私が言うとルタンスは黙った。
「といっても私は寝れないな……。酒を飲んでくる」
私がもう一度起き上がろうとしたら、ルタンスが「駄目」と腕を引っ張って私を引き留めた。
「酒を飲むな、とは言わない。でも、酒に依存しないでくれ」
「と言われても私は酒を飲まないと寝れないんだよ」
「私がこうする」
ルタンスは私を抱き締める。
「何のつもりだ?」
「両親が死んで悲しんでいた私に兄貴がよくこうしてくれた」
「それはいつの話だ」
「私が十歳の時…………」
まったく、子供と同じことをして私が寝付くと思っているのか?
だけど、こうやって誰かの温もりに触れたのは全てを失ったあの日の前日以来だ。
ロベルが私に「このクエストが終わったら話があるんだ」と囁いてくれた。
そうか、あれ以来、私は誰ともこんな風に接していなかったんだな。
久しぶりに感じた人の温もりは、私をとても安心させてくれた。
どうやら私の精神は子供と同じ程度らしい。
「エドワーズ、泣いているのか?」
「えっ?」
ルタンスに指摘されて、自分が泣いていることに初めて気が付いた。
「えっ、エドワーズ!?」
私はルタンスの胸に顔を埋める。
当たり前だが、ロベルと違って柔らかかった。
でも、なんだか懐かしい匂いがする。
「エドワーズ、あなたも寂しかったんだな」
ルタンスが私の頭を撫でる。
声から察するに彼女も泣いているようだった。
仲間を失ってから、ずっと気を張っていた。
それが切れたみたいだ。
私は久しぶりに酒頼りではなく、自然に寝ることが出来た。