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ルタンスが来た理由

 浴室に入った瞬間、

「本当に綺麗だ。それにお湯も出る」

とルタンスは口にする。


 まるで奇跡を見せられているような言い方だった。

 本当に失礼な奴だ。


「湯船にお湯を溜めるから、その間に体を洗う。二人で並べるくらいには広いからな」


「分かった。だけどなんで、なんで家が魔界なのに、浴室だけは奇麗なんだ?」


「私の家は魔界呼ばわりするな。浴室が奇麗なのは洗浄結晶を埋め込んであるからだ」と私は浴室の天井を指差した。


 これがあると勝手に掃除をしてくれる。

 といっても、ゴミとかまで捨ててくれないので浴室と洗面台くらいしか用途が無い。


「なんだ、エドワーズが掃除をしているわけじゃないのか」


「めんどくさい」


「これからは部屋の掃除もきちんとしないとだな」


「おい、なんで一緒に住むつもりになっているんだ?」


「だって、私はエドワーズの相棒になるんだ」


 言いながら、身体を洗い終えたルタンスが浴槽に入る。

 私も続いた。


 私とルタンスは対面する形で浴槽に入る。

 広い浴槽だとは思っていたが、さすがに大人二人で入ると狭いな。


「で、なんで私に拘るんだ? それに君が持っていた銃はどうした?」


 私の炎魔法は特異魔法であり、普段使っている銃は特注品だった。

 そう簡単に代用品があるモノじゃない。


 それなのにルタンスから渡された銃はまるで私の為に作られたようだった。


「兄さんがあなたの誕生日に送ろうとしていた」


「…………」


「私の名前は、ルタンス・ラーベ。ロベル・ラーベは私の兄貴だ」


「そうか……」


 それを聞いた時、別に驚きはしなかった。


 心のどこかで予感をしていた。

 もしかしたら、初めから心の底では気付いていたのかもしれない。


「ロベルには……君のお兄さんには本当に申し訳ないと思っている。あいつは死んだのに、私は生き残ってしまった……」


 私が視線を逸らしながら言うとルタンスが「ふざけるな」と迫る。


「兄貴がそんな言葉を言われたいはずない。惚れた女を守れたんだ。兄貴は満足しているに決まっている」


 ルタンスの声が震える。


「君がロベルの妹だということは分かった。だが、なんで私を追ってきたんだ?」


 私とルタンスには面識がない。

 確かに妹がいるとは聞いていたが、それだけだった。


「兄貴がいつもあなたの話ばかりしていた。兄貴はあなたのことを本気で愛していた」


「やめてくれ!」


 私は風呂の水面を思いっきり、叩いた。

 今更、そんなことを言われても辛くなる。


 水飛沫が私とルタンスの顔に掛かった。

 けど、ルタンスはまったく気にしていない。


「兄貴はあなたのことを弱いと言っていた」


「私が弱い?」


「精神的な部分の話だ。『もしも俺が死んだら、あいつは自殺するかもしれない。だから、そんなことにならないようお前が支えてくれないか』と言われていた。けど、兄貴が死んだ直後にあんたは姿を消した。正直、半分、諦めていた」


 ロベルの奴、妹に勝手なこと言っているな。


「ロベルの見解は外れだ。私はこうやって一人で生きている」


「だけど、死にたがっている」


「…………」


「クエストに行って、お酒を飲んで、の繰り返しだって、あのアンジェラさん、って人が言っていた」


 みんな、勝手なことをしているな。


「あなたには支えが必要だ」


「支えが必要かはともかく、なんで君はロベル……お兄さんの頼みを律儀に守ろうとしているんだ?」


「兄貴が私にした最初で最後の頼み事だったから…………」


 ルタンスは真っ直ぐに私を見て、宣言した。


 たったそれだけのことで私を追って、こんな辺境まで来たのか。


「私は君のことを知らない。君は私のことを知らない。運命を共有する理由も価値も無いと思うが?」


「私にはある。それが兄貴の遺志だ。私にとって、兄貴はたった一人の家族だった。そして、あなたにとっても兄貴がたった一人の家族だったんだろ?」


 ルタンスの言葉には確信があるようだった。


「私の過去を調べてきたのか?」


「ごめんなさい」とルタンスは俯く。


 謝ったということはそれが答えた。


 私の父は貴族だったが、母の身分が低かったので私は兄弟たちから虐められていた。

 父が死ぬと母と私は屋敷を追い出されて、過酷な生活で母も死んでしまった。


 ロベルに出会うまで私には家族がいなかった。


「兄貴を起点にあなたと私が家族になるのはどうだろうか?」


「自分勝手にやつだな」


「やっぱり駄目か?」


 ルタンスの男勝りな口調はなりを潜めている。

 

「…………冒険者なんて使い捨ての道具だ。来年には君も私もこの世にはいないかもしれない。それでも良いんだな?」


「ああ、よろしく頼む!」


 バシャン、と水飛沫を立てて、ルタンスは私に抱きついた。


「やめろ、暑苦しい。それにしても服の上からは分からなかったが、結構大きいな」


 私が率直な感想を言うとルタンスは離れて、自身の胸を抑えた。


「変態」


「いやいや、私も女だぞ」


「それにしては男みたいな胸板だった。実は男なんじゃ……」


 ルタンスの視線が私の下半身に移動したのが分かった。


「……分かってくれたかな? そういえば、ロベルにも揉み価値の無い胸だって良く言われたな」


 私がヘラヘラと話すとルタンスはちょっと呆れていた。


「兄貴、最低……。エドワーズは怒らなかったのか?」


「事実だし、怒るだけ疲れる。それに胸が大きいと肩が凝るらしいじゃないか?」


「確かにそうだし、暑い時は胸の間が蒸れて…………って、何をしているんだ?」


 私がルタンスの胸を揉み始めると彼女は目を細めた。


「いや、折角、目の前に豊満な胸があるんだし、確認しておこうかと思って」


「別に触っても良いけど、いきなりはやめてくれ」


「じゃあ、改めて触る」


「う、うん……」


 なるほど、弾力が凄いな。


「んっ…………」


 それに揉んでも押し返される。


「も、もう駄目!」


「なんでだ? 女同士だろ?」


「よく考えたら、女同士だからなんでもしていいわけじゃない!」


 確かにそうだな。

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